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3章。妹と合体する。風竜機神シルフィード

22話。幼馴染、ヘルメスの婚約発表パーティに乱入する

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【聖女ティア視点】

 今日は『永遠に来るんじゃないわよ、こんちくしょう!』と願い続けたヘルメス様と、泥棒猫王女の婚約パーティよ。

 着飾った来賓者たちが、お祝いムードで王宮に集う。そんな中、馬車から降りた私だけは、嫉妬に猛っていた。
 ヘルメス様の元婚約者である私は有名なので、仮面をつけてきている。

「……失礼、招待状はお持ちですか、レディ?」

 当然、不審がられて門番に呼び止められたわ。

「はい、これよ!」
「はっ! オースティン子爵閣下ゆかりのご令嬢でしたか! 大変失礼いたしました!」

 門番は恐縮した様子で腰を折る。

「わかれば良いのよ。通してもらうわね!」

 この招待状は、知り合いの貴族から買い取ったものだった。

 その貴族は、私が何か問題を起こすつもりなのか心配していたけど、ギャンブルで作った借金を返すために、結局は取り引きに応じてくれたわ。

「きゃあああああ! 信じられないわ! ヘルメス様から、サインをいただいちゃった!」
「私なんて、握手までしてもらっちゃったわよ! 想像以上に素敵な方だったわ!」

 貴族令嬢たちが、きゃあきゃあ騒ぎながら中庭へと出てくる。
 ヘルメス様と握手ですって? 私でさえしてもらったことが無いのに!

「ヘルメス様がレナ王女と結ばれたら、この国の繁栄は約束されたも同然よ! 史上最高のロイヤルウェディングだわ!」
「くぅうううう……! 悔しい。何が、史上最高のロイヤルウェディングよ! 本当なら、ヘルメス様と結婚するのは、この私だったハズなのにぃ!」

 私は両手を強く握り締めて、怒りに震えた。
 その時、私の【クリティオス】に通信が入った。物陰へと向かい、タブレットを取り出す。

『ランディだ。ロイは今日も冒険者ギルドにやってきて、依頼を物色しているぜ』
「よ、よかったぁあああ~っ! ありがとうランディ!」

 私は心底ホッとした。
 この場にやってきたのは、ロイとヘルメス様が同一人物ではないことを証明するためでもあった。

「ヘルメス様は、今、来賓者とあいさつを交わしているみたいよ! これでロイがヘルメス様かも知れないという疑惑は消えたわね!」

 となると……

「だったら、今回の婚約破棄は、やっぱり王家の介入があったと考えるのが自然よね! レナ王女が権力を使って、私とヘルメス様の仲を引き裂いたんだわ! 絶対に許せない!」

 私は勇気百倍で、俄然いきり立った。
 ほんのわずかな可能性だけど、ヘルメス様とお話することができれば、彼を奪い返すことができるかも知れないわ。

『……まぁ、レナ王女が海竜機の主だってなら、わからない話でもないけどな。海竜機が機神ドラグーンと合体するには、ふたりの心をひとつにする必要があるんだろ? それなら、夫婦であるにこしたことはないよな』

 ぐっ……
 確かにそれは有り得る話ね。
 その時、貴族令嬢たちの噂話が、再び耳に入ってきた。

「ヘルメス様は新しい巨大兵器、風竜機シルフィードを操縦できる方を探しておられるとか。わたくし、ぜひ風竜機の主に選ばれたいですわ!」

 風竜機シルフィードですって?
 これだわ!

「……そうよ。私が風竜機の主になっちゃば、ヘルメス様は考え直してくれるハズだわ!」
『その行動力だけは、立派だと思うがな……無理なんじゃねぇか?』

 ランディがため息をつくのが聞こえてきた。

「無理でもなんでもやるのよ! この機会を逃せば、もう一生、ヘルメス様の婚約者の座は取り戻せないわ!」
「……失礼。聖女ティア様ですね? あなたはここに招待されていないハズ。不法侵入で、逮捕いたします」

 その時、険しい声と共に、3人のメイド少女が私を取り囲んだ。

「あ、あなたたちは、【ドラニクル】のメンバー!?」
 
 彼女らの顔には見覚えがあった。
 ま、まさか、こんなに早くバレるなんて。

『ちっ! さすがに王宮の警備は厳重だな。俺もヤバい。いったん切るぜ!』

 ランディが慌てて通話を切った。
 くっ、肝心な時に使えないヤツね。

「大人しくしてください。ヘルメス様とレナ王女の婚約を邪魔するつもりなら、容赦いたしません!」

 メイドたちは警棒のようなモノを取り出して構える。その立ち姿は、実に堂に入っていた。訓練を受けた実力者であることが、うかがえるわ。
 今の私の実力はDランク冒険者並。戦っても、まず勝ち目はないわ。

「私に触れてみなさい。この場で、死んでやるわよ!」

 私はナイフを取り出して、自分の首元に突きつけた。
 メイドたちは、明らかに怯んだ様子だった。

「バカなマネはおやめない!」
「私は本気よ。さぁ、下がって!」

 メイドたちは包囲を崩さないまま、ジリジリと後退する。
 狙い通り。さすがに、おめでたい王女の婚約パーティを血で汚すようなことは避けたいでしょう。

 突然の騒動に、周囲にいた人々が何事かと騒ぎ出す。衛兵が呼ばれた。
 私は仮面を取って、大声で叫んだ。

「ヘルメス様の元に案内なさい! 私はヘルメス様の婚約者よ! みんなの前で、私こそ風竜機の主であることを証明してやるんだから!」

 失敗すれば、破滅するかも知れないけど、もう私は落ちるところまで落ちたのよ。だったら、何も怖くないわ。
 これは伸るか反るかの最後の賭けだった。

「なっ!? バカな! あなたごときが、風竜機シルフィードに選ばれる訳がないでしょ!?」
「そうよ! 私たちでさえ弾かれたのに!」

 【ドラニクル】の少女たちは、口惜しそうに叫んだ。

「私は聖女よ! だったら、多少なりとも可能性があるはずだわ!」
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