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【五十六】家族との夕食

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 その後、宰相閣下と共に、父上が訪れた。宰相閣下も同席するという事は、やはりただの食事ではないはずだ。

 開始こそ和やかに、皆で皿を前に座し、飲み物をグラスに注いでもらった。
 壁際には侍従や給仕の者、近衛騎士らが控えている。

「さて、本題だが」

 切り出したのは国王陛下で、父上はダイクを一瞥すると穏やかに笑った。

「ツァイアー公爵令嬢クリスティーナと、ダイクを婚約関係とする事を公表する件についてだ」

 それを耳にして、俺は納得した。これは俺も呼ばれるのが分かる。

「本年中にクラウスはシュトルフと婚姻するだろう? よって、来年のダイクの王立学院卒業と立太子の儀の終了後に、クリスティーナをダイクが正妃として迎えられるよう、予定で考えている。なぁ、宰相?」

 父上が微笑すると、宰相閣下が静かに頷いた。それを見てから、俺はダイクに視線を向ける。すると非常に嬉しそうな顔をしていた。

「クリスティーナの事は、必ず俺が幸せにします」

 ダイクが力強い声で述べた。二人の仲が順調そうで、俺はホッとしてしまった。

「そこで次の、来週月曜の祝日に、クリスティーナ嬢とダイク第二王子殿下が婚約する事を正式に公表する方向で、宰相府としては調整を行っています」

 宰相閣下が言うと、ダイクが目を輝かせた。元々王族は会食の予定で集まるし、最高の日取りだろう。慣例通りなら、他国にいるルゼフ叔父上は兎も角、ツァイアー公爵家の面々も招かれる。

「おめでとう、ダイク」

 俺が頬を持ち上げて伝えると、ダイクが満面の笑みで何度も大きく頷いた。

「それでは、我輩は執務が残っておりますので、これにて」

 用件が済むとすぐに、宰相閣下が立ち上がった。早いが華麗に食べ終えている。恐らくあとは親子三人でという配慮もあったのだと思う。宰相閣下が退出するのを見送っていると、国王陛下が咳払いした。

「ダイクの件は、まことにめでたいが、クラウス。そちらはどうなっているのだ?」
「え? ええと……」

 水を向けられた俺は、言葉に窮した。実父に、惚気るような鋼の心臓が俺には無い。

「……さ、昨日と一昨日は、降嫁後の部屋についての相談などを行ってきました」

 嘘じゃない。嘘ではない!

「俺とクリスティーナは、この週末は王立学院の林間学校だったから、一緒に湖を見ました」

 頬を染めているダイクを見て、清純なお付き合いだなと内心で考える。俺は決してただれた関係にある事には触れたくない。だが、まだ痕が残る首筋を思い出し、本日は隠れる服を着ていて良かったと心底思った。

「今日の主役はダイクです。ほら、ダイク! もっと湖について教えてくれ!」
「ん? いやぁ、そうだなぁ。俺は水にはあまり興味がないから、どうやってクリスティーナの手を握るかばっかり考えていたけどな? 兄上達は? 初めて手を繋いだのはいつだ? どんな時に、どんなタイミングで?」
「俺の話はどうでも良いだろう……!」

 俺は思わず、両手で顔を覆った。
 するとクスクスと国王陛下が笑った。

「息子達が幸せそうで、本当に何よりだ」

 このようにして、この夜の夕食の時間は流れていった。


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