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連載
魔力測定
しおりを挟む「賢者様に加えて、オズワルド先生にまで頼まれたら断れませんわ。……それよりオズワルド先生、今夜は空いていらっしゃる? 最近素敵なお店ができましたのよ」
「食事の誘いなら他を当たれ。俺は忙しい」
「……そうですか。なら仕方ありませんわね」
オズワルドさんに食事の誘いを断られ、残念そうに肩を落とす学院長。
なんというかこの人物、さっきからオズワルドさんに向ける視線を妙に熱っぽいような……?
この学院におけるオズワルドさんの好感度の高さがすごい。
オズワルドさんは学院長との話を打ち切り、私に視線を向けた。
「では俺は行く。セルビア、試験については学院長に従え」
「えっ、オズワルドさんはどこかに行ってしまうんです?」
慣れない場所に一人で放置されるのは少し不安があるんですが。
「俺はこれから講義がある。それに学院長は事情を知っているから問題ない」
「ええ、オズワルド先生の言う通りです。……例の事件は『第一学院』としても放置できませんからね。協力は惜しみませんわ」
オズワルドさんの言葉に学院長が頷く。
なんだ、話は先に通してあるのか。それなら安心だ。
「手続きが終わったら、俺の研究室で待っていろ。鍵は渡しておく。くれぐれも学院の中を勝手にうろちょろするんじゃないぞ」
「わかりました」
「では学院長、あとは頼む」
「もちろんです。お任せくださいな」
オズワルドさんは私に鍵を渡し、そのまま測定室を出ていった。
ばたん、と扉が閉まり――
「――さて」
あれ、なんだかオズワルドさんがいなくなった途端に学院長の雰囲気が変わったような。
きらりと眼鏡を光らせて学院長が私を見下ろす。
「セルビアさん、でしたね。それでは入学手続きを始めます。オズワルド先生の紹介とはいえ、一時的にでもこの学院の生徒となるからにはそれなりの資質を示していただきますからね」
「は、はい。……あの、私なにか失礼なことをしましたか?」
私が尋ねると、学院長は首を傾げた。
「いえ、そんなことはありませんが。なぜそんなことを?」
「その、オズワルドさんがいた時と今で少し雰囲気が違うような気がしたので……」
そう言うと、ああ、と学院長は頷く。
「それはもちろんオズワルド先生の前だったからに決まっていますわ。あの鋭い瞳、整った顔立ち、男性とは思えないほどつやのある髪……オズワルド先生といえば、この街の女性人気ナンバーワンですのよ」
うっとりしたようにそんなことを告げる学院長。
……なんというか、私が想像していた方面とは違う好感度の高さだった。
ああいうクールな人のほうが憧れを向けられやすいんだろうか?
「えーっと……とりあえず、私が失礼なことをしていなかったのならよかったです」
「疑問が晴れたのなら何より。ではセルビアさん、こちらに来てください」
学院長について部屋の真ん中に移動する。
そこには台座があり、一抱えもある不思議な色合いの石が鎮座していた。
「これが魔力水晶です。手続きについてはオズワルド先生から聞いていますか?」
「はい。一応」
「そうですか。……まあ、念のため私のほうからも説明しておきましょうか」
不思議な色合いの石――魔力水晶の前に立ち、学院長が話し出す。
「この魔力水晶は、魔力を込めるとその量に応じて色を変えます。基本色である透明から、赤、黄色、オレンジ、緑、青、藍、紫の順番に変化していくのです。後ろにいくほど多い魔力を持っていることになります」
「はい」
このあたりは昨日のうちにオズワルドさんに聞いていた部分なので、頷いて先を促す。
「普通の学院であれば、魔力水晶をオレンジに変色させられれば十分合格できるでしょう。しかしここは魔術学院の最高峰。ゆえに合格の基準は青色としています」
青色。
すなわち七段階あるうちの上から三つ目。
オズワルドさんに教わった限り、魔力水晶の反応は赤で未熟、黄色でそこそこ、オレンジで成人の平均、緑でようやく魔術師としての才能がある、という感じらしい。
成人の平均の魔力量よりもさらに二段階上なんだから、これはもう相当高いハードルと言っていいだろう。
……これはきちんと聞いておいたほうがいいかもしれない。
「あの、私が青色に変えられなかったらどうなるんですか?」
「……あなたは危険な潜入任務に耐えうる能力があるのではないのですか?」
「…………」
言えない。まさか消去法で選ばれたなんて言えない。
「まあいいでしょう。魔力水晶が緑色以下でも学院側からフォローするので問題ありません。……ただし、オレンジ以下となると誤魔化すのも難しくなります。
できればそのラインは越えてくれると助かります」
「わ、わかりました」
学院長の言葉に頷き、魔力水晶の前に立つ。
オレンジに変化させればいいと言われても、自分の魔力なんて今まで一度も測ったことがない。本当に大丈夫だろうか。
いや、細かいことを考えても仕方ない。
私が今やるべきなのはこの水晶に魔力を流し込むことだけ。やれるだけのことをやろう。
「――ふっ!」
水晶目がけて魔力を流し込む。
すぐに影響が現れ、水晶は色を変えていく。
透明から赤になり、黄色、オレンジ、緑と順調に変色していく。
「ふむふむ。これなら問題なさそうですね」
やがて魔力水晶が青に変わったところで、学院長が満足げに頷いた。
「合格です。セルビアさん、魔力注入を止めて構いませんよ」
「……あの、どうやって止めたらいいですか?」
「え?」
学院長が表情を引きつらせる。その間にも魔力水晶の色は青を通り越して藍色、紫色へと変化していく。
今さらだけど、私は魔術についてあまり知らない。
回復魔術や浄化魔術は生まれつき使えたし、教会で教わったのは最低限の教養と礼儀作法くらい。実践的な魔力の扱いなんてまったく学んでいない。
水晶に魔力を流し込むのはなんとなくわかったけど、それを止める方法がわからない。
「は、離れなさいセルビアさん! すぐに水晶を離れるのです!」
「は、はい。……あれ? 何か離れても魔力が吸われてるんですが……」
「どうなってるんですか貴方は!? 何か魔力を溜めこむ魔道具でも隠し持っているんですか!?」
「そんなもの持ってませんよ!」
私と学院長が騒ぐ間に魔力水晶は紫を超えて黒く染まり、まるで内部で何かが暴れているようにガタガタと揺れ始める。
ビシッッ、という何かが割れる音が響いた。
……あ、嫌な予感。
次の瞬間――ドッガァアアアアアアアアアアアン、と派手な音を立てて『測定室』の内側を爆炎が駆け巡った。
「……セルビアさん。本当に貴方は何者なんですか?」
「……ただの旅の冒険者です」
「絶対に嘘でしょう……」
爆心地と化した教室の隅で学院長とそんな言葉を交わす。
ちなみに私も学院長も爆発に巻き込まれて全身ボロボロである。
まさか魔力を与えすぎると魔力水晶が大爆発を起こすなんて……というか私は、こんな調子で潜入任務なんてやっていけるんだろうか。
そんなわけで、入学試験は色々と不安の残る結果となったのだった。
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