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大切な仕事を任されました

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 そのきっかけは半月前の事でした。

「リシャール様、ちょっといいですか?」

 慌てた様子で事務所に飛び込んできたのはダニエルさんでした。

「ああ、すまない。今日中に帳簿を片付けたいんだが…」
「ええっ?まずいなぁ…」
「どうかしたか?」
「ええ、入荷の品の一部に傷があって…注文の品なので早急に直さないとまずいんですよ」
「なんだって?すぐ行く!」

 どうやら注文していた品が破損していたようです。しかし明日には財務をチェックする役人が来るらしく、リシャール様はその為にここ数日はずっと帳簿にかかりきりでした。まずいタイミングですわね…そんな事を思っていたら、ちらとリシャール様の視線を感じました。えっと…?

「…レア嬢…」
「…はい?」
「…帳簿を…見た事は?」

 気まずそうに、でも縋るような視線を向けられて、思わず心臓が口から飛び出そうになりました。真剣な視線と微かに悲壮感を漂わせた表情は、は、反則です…

「…すまない。気にしないでくれ」

 私が心臓を直撃されて声を出せずにいたら、それを否定と受け取られたらしいリシャール様はそう言って席を立ったので、私はようやく我に返りました。そ、そんな、否定した訳じゃないのです…!

「あ、あの…私でよければ…で、出来るだけ…やってみます…」

 帳簿のつけ方は叔父様に習ったので、多分わかると思うのです。ただ、店によってやり方が違うと聞きますし、実践は初めてなのでそれが通じるか不安なのですが…

「…そうか。頼んでも、いいだろうか?」
「はい」

 その後、リシャール様は帳簿の事を説明してくれました。う~ん、パッと見た感じでは、叔父様のところとあまり変わりはなさそうです。そ、それよりも…

(…リ、リシャール様、近過ぎです…)

 説明のためリシャール様とこれまでにないほどに近づいたのですが、その距離の近さに私は帳簿どころでありません。

(や、やっぱり男の方、なのね…身体も大きくて…か、肩幅もあるし…そ、それに…)

 仕事中だというのに自分とは違う身体の大きさと、ほのかに香るリシャール様の匂いに私は酔ってしまいそうでした。ドキドキが止まらないし、い、息をする毎にリシャール様の匂いに意識が遠くなっていきそうです…

「…っ!」
「し、失礼…」

 帳簿のページをめくった時、思いがけず指先が触れてしまい、声にならない声が出てしまいましたわ。し、仕事ですし、偶発的な事故ですわ。意識しすぎです、私…でも、指先が何だかじんわりと熱を持ったように感じてしまいました…

(か、過剰に反応し過ぎよ、私…)

 この程度の事で騒いでいたら仕事にならないのですが…でも、こうして頼られたのも近づいたのも初めての事で、それがとても嬉しくて私は胸がいっぱいになってしまいました。そしてその名残はリシャール様が去った後も続きました。だ、ダメですわ、今は帳簿です、帳簿!

(リシャール様のお店の帳簿と言うだけで、尊く見えてしまいますわ…)

 ついさっきまでリシャール様が手にしていた帳簿だと思うと、それだけでドキドキします。思いがけず距離が近づいた事に、不謹慎とは思いながらも心が躍るのを止められませんでした。

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