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虫の羽音

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 昼のピークを越え、来客数が落ち着いてきた頃、冨岡はフィーネとアメリアに声をかけた。

「行列もなくなってきましたね。いいタイミングですから二人とも昼休憩にしてください」

 冨岡から指示を受けた二人は状況を確認し、大丈夫だと判断してから屋台に戻る。
 今いる客くらいならば冨岡一人で捌けるはずだ。
 昼食として冨岡が二人に用意したのは、スーパーで買っていた冷凍のドリアである。
 電子レンジで温めれば出来立て同然の美味しさが味わえる優れものだ。

「熱いので冷ましながら食べてくださいね」

 そう言って冨岡は麦茶を机の上に追加する。
 仕事の合間などは、やはりインスタント食品や冷凍食品が便利だ。その上、味の面でも普通の料理に劣らないほどである。
 椅子に座ったアメリアは少し申し訳なさそうに手を合わせた。

「それじゃあ、先に頂きますね。さぁ、フィーネも手を合わせてください」
「はーい」
「頂きます」
「いっただっきまーす」

 二人の食事を横目に眺めながら、冨岡は一人でハンバーガー作りと接客をこなす。
 しばらく一人で店を回していると、明らかに人相の悪い男がズカズカと近づいてくるのが冨岡の目に入った。
 これまでいくつかのトラブルに巻き込まれてきた冨岡は、反射的に身構える。

「い、いらっしゃいませ」

 躊躇気味にそう話しかける冨岡。
 すると人相の悪い男は屋台のカウンターを力強く叩き、鋭い眼光を冨岡に向けた。まるで害虫でも叩き潰すかのような勢いである。
 男の体は冨岡よりも一回り大きく、腕などは丸太のように太い。
 明らかな体格さに怯えを感じながら、冨岡が問いかける。

「あの、どうかしましたか?」

 すると男は腹の底から息と共に言葉を吐き出した。

「どうかしたかじゃねぇよ! 一体どうなってやがんだ、この店は!」
 
 そのセリフから明らかなクレーマーだと察し、冨岡は身構える。

「何か不手際でもありましたか?」
「何か、だと? ふざけんじゃねぇよ! この店は客に虫を食わせようってのか!」
「虫? 一体何のことだか・・・・・・」

 冨岡がそう答えると、男は食べかけのハンバーガーをカウンターに載せた。

「よく見てみろよ!」

 男の指示通り、冨岡はハンバーガーをまじまじと眺める。すると食べかけの断面にハエのような虫が、ケチャップで張り付いていた。
 食品販売業において、あってはならないことである。

「確かに・・・・・・虫ですね」
「虫ですね、じゃねぇよ! どうしてくれんだ。虫を食っちまったかもしれねぇだろうが」

 喜怒哀楽の全てを怒に集約させたような表情で男は叫んだ。
 もちろん、虫が偶然混入することは考えられる。衛生面には気を遣っているとはいえ、屋台だ。外から入ってくる可能性はある。
 しかし、男の態度は明らかに『理不尽なクレーマー』そのものだ。
 自分で虫を混入させクレームを入れる、という冨岡のいた世界ではありきたりな手段を用いる可能性もある。
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