上 下
25 / 72
3章

8話 ピンチ

しおりを挟む
「おいおい,そんなに泣いて喚いたってお前の声は誰にも届かなねぇーよ」
男は僕を馬鹿にしたように笑いながらそう言って,僕のズボンを脱がそうとする。
「……んっ」
びっくりしながら,抵抗しようとするも全身の力は抜けていて,身体は動くことすら許してくれなかった。
「よしじゃあ,ここでやるか?」
そんな声が聞こえて,僕の下腹部が触れられる。
「んっ…う…うっ」
身体はビクッと驚き,気持ちが悪くて仕方がない。
(いや…早く誰か…きて…)
願っても誰も来ないんじゃないだろうか?そんな思いが芽生え始めていた。もう既に,頭が回らなくて,何かしないと行けないと思っているのに,だんだん意識が遠のき始めている。
(あ,もう無理…)
一層のこと意識を手放してしまおう。そう思った瞬間。
「レオ…?」
どこからともなく,坊ちゃんの声が聞こえてきて,意識がはっきりとする。
(え…?もしかして…)
坊ちゃんに助けを求めに行けと言ったものの今の自分は坊ちゃんに見られてもいい状態にないように思う。
目隠しされて,手は後ろに組んで縛られて身動きすら簡単にとることができない。そんな状態坊ちゃんに見られたら,きっとトラウマを植え付けてしまう。
それに…僕自身が嫌だと思った。坊ちゃんの前ではなるべく自我を,理性を,大人であることを保っていたいと思っていたから。
だから,この声の主が坊ちゃんではないことを祈った。似たような声色の人物であるとそう願った。
それでも,普段からずっと聞いたことのある声であるそう聞こえてしまう。
「おいっ…お前は…っうっ…」
どこからともなく,男たちが苦しんでいる音が聞こえた。
一体,ここでなにが起こっているのだろう?
目が見えずなにが起こっているのか全くわからなかった。でも,確かにわかることは,僕の周りにいる人たちがだんだんと少なくなっていること。
「…ちっ,仕方ねぇか…お前ら行くぞ…」
舌打ちをして,僕の身体から全ての手が離れていき、人もいなくなった,その瞬間,安心する声が聞こえた。
「レオ…大丈夫か?」
“あっ…この声は…兄さん?”
声をする方を見上げてみる。けれど,当たり前のように声に出すことも,目で見ることもできなくて,不安は拭いきれなかった。
「待ってな…外してやるから…」
そう言われて,最初に目を覆っていた布を外して,次に口に咥えさせられていた布を外された。
目に光が差し込んだ瞬間,目の前にいるのは兄さんだとわかってホッとする。
「…はぁ…はぁ…」
どうにか口から息ができるようになり,深呼吸を繰り返した。
「手も取ってやるから,ちょっと待ってな」
僕の後ろに周り,腕に結ばれていた布を解いていった。
確かに,解かれているはずなのにいまだに身体は思うようには動いてくれない。
「大丈夫か?」
兄さんは,少し慌てた様子で僕に尋ねる。
「わっかん…ない…それより…坊ちゃん…は?」
ボッーっとする頭で,1番最初に出てきたことが坊ちゃんのことだった。
「レオ…まずは自分のことを心配しろ」
兄さんは呆れた様子で僕に言った。
「…そう,なんだけど…坊ちゃん…まだ…幼い…から、こんな…怖い思い…させて,僕,執事…失格だなって…だから…まだ無事なら…僕が落ち…着く」
言葉をつらつらと話すことはできなくて,どうにか息を吹き出すように声に出した。
「…そうだな…カインくんなら大丈夫だぞ。お前を見つけるために案内してくれたしな…」
(えっ…!?)
僕は驚いたと同時に不安が積もった。あの光景を見られていたかと思うと嫌で嫌でたまらない。
「…兄さん…それは…もしかして…見られ…た?」
「…レオ…ごめんな…それはわからない。一応,ギリギリのところで目は隠しておいた…けど,カインくんが見ているか見ていないかは全くわからない…」
兄さんは申し訳なさそうに僕にそう言った。
「兄さん…兄さんは,悪くない…だから,そんな顔しないで…でも…見られていない…といいな…」
「うん。そうだな…それで,もう大丈夫か?」
兄にそう聞かれて,僕は身体を起こそうとした。さっきまで動かなかった身体は今は動かすることがどうにかできた。けれど…。
「おっと…」
起き上がった瞬間,身体がふらつき倒れそうになって,兄に支えられた。
「ごめん…」
自分が情けなくて,何にもできなくて辛くなる。
「気にしなくていい。それより,身体大丈夫か?」
「…うん」
どうにかそう答えたけど,大丈夫ではないのは誰の目で見てもわかってしまうだろうと思った。
「そうか…なら肩を貸してやるから一旦立とうな」
「う,うん」
そう言って,僕は兄に肩を貸してもらって立とうとする。けれど,当たり前のように足には力が入らなかった。
「…ごめんっ…立てそうに,ない」
申し訳ない気持ちと自分の不甲斐なさが相まって声は震えていた。
「わかった。大丈夫だからな。だから,どうして欲しい?」
兄は戸惑いながら僕を落ち着かせるようにして尋ねる。
「…わからない…けど,坊ちゃんには…会いたい。ちゃんと,無事かどうか…それだけは,確かめたい…」
「そうか,ならまずは通りに出ないといけないな。ほら手を首に回せ」
「う,うん」
兄はしゃがんで僕はどうにか動く手で兄の首に手を回した。
「…持ち上げるぞ」
僕の背中を支えるようにしてから,膝の裏側に手を通してそう言った。
「うん…」
どうにか兄に持ち上げられて,坊ちゃんのいる方へと向かった。
(坊ちゃんは大丈夫だろう?)
心配で自分のことよりも不安になる。
道がひらけて,人通りがある通りまで行くと坊ちゃんを見つけて,今までの緊張感がするりと抜けていった。
「坊ちゃん…」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

誰もシナリオ通りに動いてくれないんですけど!

BL / 連載中 24h.ポイント:28,628pt お気に入り:1,925

秋光悠翔は甘やかしたい

BL / 連載中 24h.ポイント:248pt お気に入り:6

普段は優しいけど夜はドSのDOM彼氏ができました

BL / 完結 24h.ポイント:92pt お気に入り:446

令息ひたすらエロい目に遭う

BL / 連載中 24h.ポイント:220pt お気に入り:57

“おしおき”会議

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:198pt お気に入り:11

権田剛専用肉便器ファイル

BL / 連載中 24h.ポイント:418pt お気に入り:76

お隣さんは〇〇〇だから

BL / 完結 24h.ポイント:1,556pt お気に入り:10

ロマンチック・トラップ

BL / 連載中 24h.ポイント:99pt お気に入り:93

処理中です...