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夕陽の丘で小さな野花を摘み花の茎を編んで王冠を作ったユリアはミシェルの頭に乗せてご満悦だった。やばい、これはやばいわ!
ふわふわの淡い緑の光る髪、キラキラの大きな瞳。そんなミシェルの髪には白と青のグラデーションになった小さな花の冠。首にも少し大きな花で作った首飾りを。
「ミシェル、凄く可愛いわ!」
なんて可愛いのかしら。やはりミシェルは天使なのね。
「…凄い!綺麗にちゃんとまあるく出来てる!ユリアは見かけによらず器用なのね。わたくし…ユリアと同じ様に編んだはずなのになぜバラバラになるのかしら?」
頭に乗った花冠をそっと下ろしじっと見つめたミシェルの感想である。ちょっとだけ納得いかない一言が聞こえたがユリアは天使ミシェルを更に可愛らしくした花冠の出来栄えにご満悦だったのでまぁいいかと流した。
今日は珍しくミシェルがお外で遊びたいと駄々をこねるのでこの夕陽の丘、別名、妖精の丘と呼ばれる花畑にやって来た。
珍しく今日はご機嫌な様子の継母がミシェルと庭を見て回って言った一言でミシェルはお出かけがしたいと言い出したのだ。
「ミシェル、今日お母様はお茶会に行かなければならないの。だからユリアとお外で遊んでいらっしゃい。ユリア、貴方も、そんな辛気臭い顔をいつまでもしていたら万が一好きな殿方が出来ても逃げられてしまいますよ?気分転換も大事よ?」とミシェルを連れて夕陽の丘に行くように侍女と護衛に告げた。
気分転換をしてきなさいだなんて言って貰えると思っても居なかったユリアは目を瞬きながらも素直に喜んだ。
「…ありがとうございます。お母様。ちょうど良い気分転換になりそうですわ。」
ユリアは何となく気付いていた。最近レイチェルの言動がツンデレ化している事に。
この人ヒステリックなだけで割といい人なのかも…
「折角のグエンダル殿下との縁談の申し込みを蹴るなんてユリアはちゃんと自分の身の程をわきまえてますのね。貴女にもミシェル程の美貌と高貴さが有れば泣く泣くお断りしなくても済んだかと思うとなんだか不憫で。
ふふっ哀れすぎて少しは優しくしてさしあげようかと思いましたのよ?おほほほ」
やっぱり、前言は撤回しよう。
レイチェルはレイチェルだった。
最近レイチェルはデビューを控えたユリアの為にと同年代の令嬢達の素行調査や自国だけで無く他国でも有力な婚約者候補の選出に奔走してくれていたりする。
密偵が太鼓判を押すラインナップらしいその候補者のなかにはなせかレオナー様の名前があった。ユリアはその報告になんとも言えない気持ちになった。
でも、ユリアには何も言わないが彼女なりにユリアがデビューする事に手を貸してくれようとしているようだ。だから、やっぱり彼女が嫌いでは無い。寧ろ割と…
夕刻に差し掛かり、日暮れと共に妖精が降りると言われる幻想的な光景が見られる時間帯となった。
「わぁー!キレー!」
「今日は一段と綺麗ね。」
それはそれは美しい光景が夕暮れと共に現れた。オレンジと赤紫の空に夕陽の丘に咲く白と青のグラデーションの花々がキラキラと陽の光を反射し眩くあたりを包み込む。
幻想的で現実離れした美しい景色にユリアとミシェルは目を輝かせて見入っていた。
「あっ!……お兄様」
「えっ…なに?ミシェル」
ミシェルが立ち上がり驚いた様子で何事かを呟いた。座ったままだったユリアはよく聞き取れず立ち上がる。
「やぁ、ユリア嬢。ミシェル様もご一緒だったのですね?」
「…………」
黒く凛々しい馬に跨ったレオナーがにこにこと笑いながら、少し眩しげに目を細め立っていた。彼はこちらと目が合うとひらりと優雅な身のこなしで馬から降りて一礼をした。
レオナーの後ろで憮然としていたグエンダルも馬から降りて不躾に「少し話がある。」とだけ言い背を向けた。
ユリアは護衛と侍女に「ミシェルを宜しくね」と告げて渋々グエンダルの後を追った。
少し歩いた先にある木の幹に背を預けたグエンダルが憮然とした表情でユリアを見据え目が合うとすっと逸らし口を開いた。
「…母上からパルヴィス侯爵に縁談の話がいったと思うが…」
なぜ彼がここに来たのかはわからないけど、とりあえずユリアは頷いた。
「はい。その件でしたら昨日、私の父パルヴィス侯爵からリュシェンヌ様へとご辞退の返事が行ったと思いますが。」
「…本当に辞退したと言うのか?まさか…」
すかさず返事を返せばグエンダルは険しい顔をしてユリアを見た。
にわかには信じがたいと言わんばかりのグエンダルの眼差しにユリアは冷えた目を向け先を続けた。
「グエンダル殿下におかれましてもその方が宜しかったのでは?
ご安心ください。リュシェンヌ様からもし、万が一、再度お申し入れが御座いましても決して了承するつもりは御座いませんので。」
リュシェンヌ様の性格なら辞退などせず、何も心配する必要は無いからグエンダルの元に嫁いでおいでなさい。と言い出しそうだ。
リュシェンヌ様が贅沢をしたいが為の援助目的なのになぜか辞退した無礼は許します、なんて尊大に笑いながら。
ユリアを見つめるグエンダルの眼差しが怒りと羞恥、更に驚きに見開かれた。
「貴様、王族からの打診を断ると言うのか」
「ええ、我が家は愛の女神アプロスの信者。恋愛結婚を推進する政略結婚反対派なので父は私が受け入れない限りは国王陛下からの勅命か勅書がない限りは私の意志を尊重すると言っております。父は既にレイチェル様を国王陛下から下賜されておりますし。我が家がこれ以上王家との繋がりを持つのも良くないと考えた様です。
それに今の時代、政略結婚は長続き致しませんもの。繋ぎたい縁を無理に繋げた結果、修復不可能となった政略結婚の事例が近年では多くなる一方です。最近では、政略結婚反対派の貴族の方が多くなっておりますし。」
にっこりと笑うユリアはあら?と首を傾げる。
「…ところでグエンダル殿下はなぜこちらに?」
それはもちろん、ユリアに今回の縁談の話を断る様に、または王族からの縁談を無下にしたと非難する為だろう。
「…そうか、お前は第二王子など王位に就くわけではない。所詮は側妃の王子、取るに足りぬと言いたいのだな?」
唸るように鼻に皺を寄せ不機嫌そうな顔を向けられユリアはヒィ!と内心怯えた。
自分の望んだ通りになったはずなのに先に断られていたからと怒るなんて!
「なぜ、そう思うのかは存じませんが。わ、私は相思相愛、若しくは、将来妻となる者を大切にして下さる方と、私が尊敬出来るような方と結婚したいのです。
お互いを尊重出来るような関係を築いて行きたいのです。
勝手な偏見を持ち、高位貴族の娘だから気位が高い、胸が大きいから頭が弱い、などと色眼鏡で見ない方と…」
ユリアは後半尻すぼみになりつつも自分の意見を言った。
貴方の妻の座などこれっぽっちも狙って居ませんよ?
本当ですよ?と、アピールしたはずだ。
それなのにグエンダルはユリアが言えば言うだけ不機嫌そうに怒りを孕んだ眼差しを向けてくる。
しかし、後半、グエンダルが気まずげに目を揺らすところを見て、やっぱり夢と同じ様に私を悪し様に言っていたに違いないと確信した。
「まさか、グエンダル殿下は私と結婚なさるおつもりだったのですか?」
「なんだど?」
「いえ、お断りをする様に言いにいらっしゃったのでしたら、その。もう既に目的は果たされておりますから。」
さっさと帰ってくれないかなー?なんて言えるはずも無い。しかし目だけはじっと見つめてお帰りくださいと念を込めた。
「…そ、そうだな。パルヴィス侯爵令嬢。
私は少々取り乱してしまったようだ。」
グエンダル殿下は取り繕うようにそう言って帰って行った。
良かった!
あーやれやれ。
ふわふわの淡い緑の光る髪、キラキラの大きな瞳。そんなミシェルの髪には白と青のグラデーションになった小さな花の冠。首にも少し大きな花で作った首飾りを。
「ミシェル、凄く可愛いわ!」
なんて可愛いのかしら。やはりミシェルは天使なのね。
「…凄い!綺麗にちゃんとまあるく出来てる!ユリアは見かけによらず器用なのね。わたくし…ユリアと同じ様に編んだはずなのになぜバラバラになるのかしら?」
頭に乗った花冠をそっと下ろしじっと見つめたミシェルの感想である。ちょっとだけ納得いかない一言が聞こえたがユリアは天使ミシェルを更に可愛らしくした花冠の出来栄えにご満悦だったのでまぁいいかと流した。
今日は珍しくミシェルがお外で遊びたいと駄々をこねるのでこの夕陽の丘、別名、妖精の丘と呼ばれる花畑にやって来た。
珍しく今日はご機嫌な様子の継母がミシェルと庭を見て回って言った一言でミシェルはお出かけがしたいと言い出したのだ。
「ミシェル、今日お母様はお茶会に行かなければならないの。だからユリアとお外で遊んでいらっしゃい。ユリア、貴方も、そんな辛気臭い顔をいつまでもしていたら万が一好きな殿方が出来ても逃げられてしまいますよ?気分転換も大事よ?」とミシェルを連れて夕陽の丘に行くように侍女と護衛に告げた。
気分転換をしてきなさいだなんて言って貰えると思っても居なかったユリアは目を瞬きながらも素直に喜んだ。
「…ありがとうございます。お母様。ちょうど良い気分転換になりそうですわ。」
ユリアは何となく気付いていた。最近レイチェルの言動がツンデレ化している事に。
この人ヒステリックなだけで割といい人なのかも…
「折角のグエンダル殿下との縁談の申し込みを蹴るなんてユリアはちゃんと自分の身の程をわきまえてますのね。貴女にもミシェル程の美貌と高貴さが有れば泣く泣くお断りしなくても済んだかと思うとなんだか不憫で。
ふふっ哀れすぎて少しは優しくしてさしあげようかと思いましたのよ?おほほほ」
やっぱり、前言は撤回しよう。
レイチェルはレイチェルだった。
最近レイチェルはデビューを控えたユリアの為にと同年代の令嬢達の素行調査や自国だけで無く他国でも有力な婚約者候補の選出に奔走してくれていたりする。
密偵が太鼓判を押すラインナップらしいその候補者のなかにはなせかレオナー様の名前があった。ユリアはその報告になんとも言えない気持ちになった。
でも、ユリアには何も言わないが彼女なりにユリアがデビューする事に手を貸してくれようとしているようだ。だから、やっぱり彼女が嫌いでは無い。寧ろ割と…
夕刻に差し掛かり、日暮れと共に妖精が降りると言われる幻想的な光景が見られる時間帯となった。
「わぁー!キレー!」
「今日は一段と綺麗ね。」
それはそれは美しい光景が夕暮れと共に現れた。オレンジと赤紫の空に夕陽の丘に咲く白と青のグラデーションの花々がキラキラと陽の光を反射し眩くあたりを包み込む。
幻想的で現実離れした美しい景色にユリアとミシェルは目を輝かせて見入っていた。
「あっ!……お兄様」
「えっ…なに?ミシェル」
ミシェルが立ち上がり驚いた様子で何事かを呟いた。座ったままだったユリアはよく聞き取れず立ち上がる。
「やぁ、ユリア嬢。ミシェル様もご一緒だったのですね?」
「…………」
黒く凛々しい馬に跨ったレオナーがにこにこと笑いながら、少し眩しげに目を細め立っていた。彼はこちらと目が合うとひらりと優雅な身のこなしで馬から降りて一礼をした。
レオナーの後ろで憮然としていたグエンダルも馬から降りて不躾に「少し話がある。」とだけ言い背を向けた。
ユリアは護衛と侍女に「ミシェルを宜しくね」と告げて渋々グエンダルの後を追った。
少し歩いた先にある木の幹に背を預けたグエンダルが憮然とした表情でユリアを見据え目が合うとすっと逸らし口を開いた。
「…母上からパルヴィス侯爵に縁談の話がいったと思うが…」
なぜ彼がここに来たのかはわからないけど、とりあえずユリアは頷いた。
「はい。その件でしたら昨日、私の父パルヴィス侯爵からリュシェンヌ様へとご辞退の返事が行ったと思いますが。」
「…本当に辞退したと言うのか?まさか…」
すかさず返事を返せばグエンダルは険しい顔をしてユリアを見た。
にわかには信じがたいと言わんばかりのグエンダルの眼差しにユリアは冷えた目を向け先を続けた。
「グエンダル殿下におかれましてもその方が宜しかったのでは?
ご安心ください。リュシェンヌ様からもし、万が一、再度お申し入れが御座いましても決して了承するつもりは御座いませんので。」
リュシェンヌ様の性格なら辞退などせず、何も心配する必要は無いからグエンダルの元に嫁いでおいでなさい。と言い出しそうだ。
リュシェンヌ様が贅沢をしたいが為の援助目的なのになぜか辞退した無礼は許します、なんて尊大に笑いながら。
ユリアを見つめるグエンダルの眼差しが怒りと羞恥、更に驚きに見開かれた。
「貴様、王族からの打診を断ると言うのか」
「ええ、我が家は愛の女神アプロスの信者。恋愛結婚を推進する政略結婚反対派なので父は私が受け入れない限りは国王陛下からの勅命か勅書がない限りは私の意志を尊重すると言っております。父は既にレイチェル様を国王陛下から下賜されておりますし。我が家がこれ以上王家との繋がりを持つのも良くないと考えた様です。
それに今の時代、政略結婚は長続き致しませんもの。繋ぎたい縁を無理に繋げた結果、修復不可能となった政略結婚の事例が近年では多くなる一方です。最近では、政略結婚反対派の貴族の方が多くなっておりますし。」
にっこりと笑うユリアはあら?と首を傾げる。
「…ところでグエンダル殿下はなぜこちらに?」
それはもちろん、ユリアに今回の縁談の話を断る様に、または王族からの縁談を無下にしたと非難する為だろう。
「…そうか、お前は第二王子など王位に就くわけではない。所詮は側妃の王子、取るに足りぬと言いたいのだな?」
唸るように鼻に皺を寄せ不機嫌そうな顔を向けられユリアはヒィ!と内心怯えた。
自分の望んだ通りになったはずなのに先に断られていたからと怒るなんて!
「なぜ、そう思うのかは存じませんが。わ、私は相思相愛、若しくは、将来妻となる者を大切にして下さる方と、私が尊敬出来るような方と結婚したいのです。
お互いを尊重出来るような関係を築いて行きたいのです。
勝手な偏見を持ち、高位貴族の娘だから気位が高い、胸が大きいから頭が弱い、などと色眼鏡で見ない方と…」
ユリアは後半尻すぼみになりつつも自分の意見を言った。
貴方の妻の座などこれっぽっちも狙って居ませんよ?
本当ですよ?と、アピールしたはずだ。
それなのにグエンダルはユリアが言えば言うだけ不機嫌そうに怒りを孕んだ眼差しを向けてくる。
しかし、後半、グエンダルが気まずげに目を揺らすところを見て、やっぱり夢と同じ様に私を悪し様に言っていたに違いないと確信した。
「まさか、グエンダル殿下は私と結婚なさるおつもりだったのですか?」
「なんだど?」
「いえ、お断りをする様に言いにいらっしゃったのでしたら、その。もう既に目的は果たされておりますから。」
さっさと帰ってくれないかなー?なんて言えるはずも無い。しかし目だけはじっと見つめてお帰りくださいと念を込めた。
「…そ、そうだな。パルヴィス侯爵令嬢。
私は少々取り乱してしまったようだ。」
グエンダル殿下は取り繕うようにそう言って帰って行った。
良かった!
あーやれやれ。
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