最高の希望
プロローグ
中学校生活最後の日――。
校舎に夕焼けが差し込み始めた頃、私はふと時計を見る。 卒業式が終わって、残された時間は、もうあと1時間もない。
あんなに長く感じていた3年間が、こんなにもあっけなく終わろうとしているなんて信じられなかった。 私は静かに立ち上がり、心の中で深く息を吸う。向かう先は教務室。 そこには、私の憧れであり、そして今の私が生きている理由となった人がいる。
中学2年の頃、私は何もかもが嫌になって、生きている意味さえわからなくなっていた。 毎日が灰色で、誰の言葉も届かなくて。そんな時、ふと差し伸べられた優しい声と、あたたかなまなざし。 それが、君だった。
いつもさりげなく話しかけてくれたこと。
優しく手を差し伸べてくれたこと。 そして何より、あの笑顔。
最初はただ救われたかっただけだった。 でも、気づけば私は、君のその笑顔に心を奪われていた。 誰にでも平等に向けるその笑顔をに嫉妬いてしまった。
今日、この想いを伝えなければ、きっと一生後悔する。 中学校生活の締めくくりとして、伝えたい。 ありがとうの気持ちも、救ってくれて嬉しかったという想いも、そして何より、君を思うこの気持ちを――。
私は、ためらいがちに一歩を踏み出し、でも次の瞬間には走り出していた。迷ってなんかいられない。 あの日、生きることを諦めかけた私に手を差し伸べてくれた君に、今度は私の想いを届けたい。
教務室の扉が見えてくる。心臓が高鳴る。 ドアノブに手をかけようとした、その瞬間――世界がふっと遠のいた。 光が揺れ、夕焼けがまぶしく滲んでいく。 遠くから、誰かの声が微かに聞こえた気がしたけれど、それもすぐに溶けて消えた。
私は静かに目を閉じた。 君の笑顔が、最後に見えた。 胸の奥でずっと抱きしめていた言葉が、唇の裏でかすかに動いた。
――ありがとう。 ――好きだった。
その声は、君にも誰にも届かない。 でもそれでいい、と思えた。 光の奥で、君の姿が柔らかく微笑んでいた。
これは、生きる希望を失った生徒と、それを救った一人の教師の、 たった一度きりの物語――
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