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第三章 窮地とプリンスの援護

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「ええと……」

 庭のことなど何も知らないローズは、困った様子で私を見た。私は、謹んでお答えした。

「いえ。一年以上前に造られた物ですわ」
「そうですか」

 マルク殿下は、妙な顔をされた。

「いや、とても美しいトピアリーなのに、下の土の状態が悪いのが気になってね」

 言われてみれば、他のトピアリーと異なり、そのチェス型のトピアリーの下だけ、土が散らばり荒れていた。まるで、誰かが掘り返しでもしたかのように。

 私は、不思議に思った。我が屋敷の庭師は、とても几帳面な人間なのだが。第一、そんないい加減な真似をしたら、モーリスが怒髪天を衝く。

「こういう乱雑な状態は、気になるな……」

 マルク殿下がしゃがみ込み、土に手を触れられる。私とローズは、焦って声を上げていた。

「殿下!」
「そんなことなさらなくても……」

 そんな私たちに構わず、殿下は散らばった土をかき集めようとなさった。だが、そんな彼の動きは、途中で止まった。ぽつりと、呟かれる。

「何か、埋まっているようだな」

 私とローズ、ドニ殿下は、マルク殿下のお傍に駆け寄り、彼の手元をのぞき込んだ。地面からは確かに、布きれのような物がはみ出ていた。私は、ぎょっとした。その布には、赤黒い染みが付着していたのだ。

(血……!?)

 まさか、と私は自分に言い聞かせた。殺人事件など起きたから、何でもそう見えるだけだ……。

 マルク殿下が、無言で土をかき分け、布を引っ張り出す。私は、今度こそ悲鳴を上げそうになった。それは、女性物の手袋とショールだったのだ。一面、赤黒く染まっている。それはやはり、血液にしか見えなかった。そして……。

 マルク殿下がショールを地面に広げたとたん、ローズは息を呑んだ。

「――これ、お義姉様の……!」
「ドニの言う通りかもしれないな。窃盗犯の仕業と決めつけるのは、早計だったようだ」

 マルク殿下は、私をじろりとご覧になった。

「今一度、事件を調べ直そう」
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