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第四章 深まる嫌疑と求愛者
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「――失礼」
バツの悪そうなお顔で、アルベール様が謝罪される。いえ、と私はかぶりを振った。確かにアンバーを取り逃がしたのは、痛恨の極みだ。思わず、私は呟いていた。
「DNA鑑定でも、できればよいのですけれど……」
前世で見ていた推理ドラマの記憶が、ふと蘇ったのだ。アルベール様とコレットが、不思議そうな顔をされる。
「……何です、それは?」
「いえ。実は私、意識を失っていた間に、前世の記憶を取り戻したのです。そこでは、便利なシステムがありまして……」
妙な奴と思われるかもしれないとは思ったが、今さらだ。手短に説明すると、二人は興味深げに聞いてくれた。
「それにしても、モニク様はなぜ、パーティーの日の記憶を失ったのかしら?」
コレットが、首をかしげる。するとアルベール様が、こんなことを言い出された。
「それね。俺、実は調べたんですよ。部屋の前で誰かに襲撃された、とかであれば、少なくともその時までの記憶は残るはずだ。でもモニク嬢は、朝からの記憶が無いという。特定期間の記憶が抜け落ちるというのは、何か精神的にショックなことが起きた可能性がありますね。そしてそれに関する記憶が、がっぽり消失してしまったのかも……」
婚約者が、婚約披露パーティーの最中に逢い引きしているのを見たからか。それとも、殺人現場を見たからか。いずれにしても、それでパーティーそのものの記憶が抜け落ちたのだろう……。
「役に立てなくて、ごめんなさい」
私は、うなだれた。だがアルベール様は、意外なことを仰った。
「気にしない、気にしない。逆に、忘れられてよかったと、俺は思いますよ。そりゃ、疑われるというマイナスポイントはありますけど、それだけショックな出来事だったということでしょうから。おまけに、前世の記憶まで取り戻せた。ラッキーじゃないですか」
そして彼は、私を見つめてにっこりした。
「何となく、腑に落ちましたよ。あの夜以降、モニク嬢は以前と変わられたなって思っていたんです。腹が据わるというのか、ご自身に自信が付いてこられた気がする。それって、前世の記憶のせいかもしれませんね」
確かに、と私は思った。前世で命を落とす直前、私は誓ったもの。生まれ変わったら、自己主張しよう、と……。
その時、応接間の扉をノックする音が聞こえた。モーリスだった。顔を引きつらせている。
「お嬢様、モンタギュー侯爵がお見えです。事件について、話を聞きたいと」
(クリスチアン・ド・モンタギュー侯爵……? 彼が捜査を進めてらっしゃるの……?)
ドキリとした。モンタギュー侯爵は、王立騎士団の副団長だ。まだ二十九歳だが、ずいぶんな切れ者という噂である。
バツの悪そうなお顔で、アルベール様が謝罪される。いえ、と私はかぶりを振った。確かにアンバーを取り逃がしたのは、痛恨の極みだ。思わず、私は呟いていた。
「DNA鑑定でも、できればよいのですけれど……」
前世で見ていた推理ドラマの記憶が、ふと蘇ったのだ。アルベール様とコレットが、不思議そうな顔をされる。
「……何です、それは?」
「いえ。実は私、意識を失っていた間に、前世の記憶を取り戻したのです。そこでは、便利なシステムがありまして……」
妙な奴と思われるかもしれないとは思ったが、今さらだ。手短に説明すると、二人は興味深げに聞いてくれた。
「それにしても、モニク様はなぜ、パーティーの日の記憶を失ったのかしら?」
コレットが、首をかしげる。するとアルベール様が、こんなことを言い出された。
「それね。俺、実は調べたんですよ。部屋の前で誰かに襲撃された、とかであれば、少なくともその時までの記憶は残るはずだ。でもモニク嬢は、朝からの記憶が無いという。特定期間の記憶が抜け落ちるというのは、何か精神的にショックなことが起きた可能性がありますね。そしてそれに関する記憶が、がっぽり消失してしまったのかも……」
婚約者が、婚約披露パーティーの最中に逢い引きしているのを見たからか。それとも、殺人現場を見たからか。いずれにしても、それでパーティーそのものの記憶が抜け落ちたのだろう……。
「役に立てなくて、ごめんなさい」
私は、うなだれた。だがアルベール様は、意外なことを仰った。
「気にしない、気にしない。逆に、忘れられてよかったと、俺は思いますよ。そりゃ、疑われるというマイナスポイントはありますけど、それだけショックな出来事だったということでしょうから。おまけに、前世の記憶まで取り戻せた。ラッキーじゃないですか」
そして彼は、私を見つめてにっこりした。
「何となく、腑に落ちましたよ。あの夜以降、モニク嬢は以前と変わられたなって思っていたんです。腹が据わるというのか、ご自身に自信が付いてこられた気がする。それって、前世の記憶のせいかもしれませんね」
確かに、と私は思った。前世で命を落とす直前、私は誓ったもの。生まれ変わったら、自己主張しよう、と……。
その時、応接間の扉をノックする音が聞こえた。モーリスだった。顔を引きつらせている。
「お嬢様、モンタギュー侯爵がお見えです。事件について、話を聞きたいと」
(クリスチアン・ド・モンタギュー侯爵……? 彼が捜査を進めてらっしゃるの……?)
ドキリとした。モンタギュー侯爵は、王立騎士団の副団長だ。まだ二十九歳だが、ずいぶんな切れ者という噂である。
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