上 下
53 / 240
第六章 偽装恋人宅の訪問

しおりを挟む
「な……、何言ってるの? アルベール様との関係は偽装なのよ? 大きな声では言えないけれど……」

 私は面食らったが、コレットは真剣な眼差しをしていた。

「モニク様、ご存じないでしょう? アルベールはね、あの事件以降、記憶喪失についてずっと調べていたんです。当日の夜は、ほぼ徹夜したみたいですよ」
「……本当に?」

 確かに、調べたとは仰っていたけれど。まさか、徹夜までされたなんて。そんな素振りは、少しも見せなかったけれど……。

「本当ですよ。私、彼が女性のためにあんなに一生懸命になる所、初めて見ました」

 コレットは、にっこりした。

「だから、モニク様は特別なのかしらって。……それに、この香水も。長い付き合いですけれど、彼が女性に贈り物をするところも、初めて見ましたわ」
「それは……。取り調べの日に、さっさと帰ったお詫びだからと……」

 とは言いながらも、私は赤くなるのを抑えられなかった。コレットが、いっそう可笑しそうに笑う。

「アルベールは、アピール下手なのですわよ。おまけに、口は悪いし。そんなんじゃ女性が寄りつかないわよって、昔からよく忠告しましたもの……。でも、これだけは確かですわ。アルベールは、誠実な男です」
「私も、そう思うわ」

 私は、大きく頷いた。時々デリカシーが無い時もあるけれど、アルベール様の仰る言葉は、いつも私のためを思ってのことだ。それに何より彼の行動が、誠意を証明している……。

「わかっていただけて、嬉しいです。ぶきっちょな従兄にもようやく春が訪れたようで、私もひと安心ですわ」

 安堵したように、コレットがため息をつく。

「私も、これで自分の恋に専念できるというものです」
「あら、あなた、好きな男性がいるの?」

 私は、興味津々で身を乗り出した。何だか、新鮮な気分だ。前世でも現世でも、女友達と恋バナなんて、したことが無かった。そんな話は、自分には無縁だと思っていたのだ。

「ええ、まあ……。昔から想っている方がね」
「どなた? 私が存じている方かしら?」

 突っ込もうと思ったが、ちょうどその時、部屋の外からモーリスの声がした。

「お嬢様。アルベール様が、お迎えに来られましたぞ?」

(わざわざ、お迎えに……?)
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪役皇女の巡礼活動 ~断罪されたので世直しの旅に出ます~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:166

貴方のために涙は流しません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:35,962pt お気に入り:2,371

ざまぁされちゃったヒロインの走馬灯

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,224pt お気に入り:58

思い付き短編集

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:205pt お気に入り:121

趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28,623pt お気に入り:11,874

ちーちゃんのランドセルには白黒のお肉がつまっていた。

ホラー / 完結 24h.ポイント:809pt お気に入り:15

処理中です...