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第六章 偽装恋人宅の訪問

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 アルベール様のお部屋は、シンプルなインテリアで統一されていた。色味は、ブルーが基調だ。お父様以外の男性のお部屋なんて、入ったことが無いから、緊張してしまう。そういえば前世でも、そんな経験は無かったな、と私は空しく振り返った。

「首尾良く、二人になれましたね」

 私を室内へ通すと、アルベール様はにやっとされた。

「あからさまに言い出すのも何ですから、リュートの話題を振ってみたのです。両親が予想通りのリアクションをしてくれて、助かりましたよ」
「あら、あれって計画的な進行でしたの?」
「はい」
 
 彼は、けろりと頷いた。

「事件の調査状況を、あなたと共有したかったんです。……さあ、どうぞかけて」

 アルベール様が、壁際のソファを指される。事件のことも気になるが、私はちょっとがっかりした。アルベール様のリュート演奏、期待していたのに……。

「少しだけ、聴かせてはいただけませんの?」

 腰を下ろしながらも、私は思わず口走っていた。アルベール様が、目を丸くされる。

「ほら、せっかくお招きいただいたのですし……。それに、お互いのことを知り合わないと、と仰ったのは、アルベール様でしょう?」
「……それも、そうですね」

 アルベール様は、案外あっさり了承された。部屋の片隅にあったリュートを取って来られると、私の向かいに腰かけられる。騎士として、普段は剣や槍を構えられているだけに、そのお姿は新鮮だった。でも、とても様になっている。

 やがて彼が奏で始めたのは、優しい音色の曲だった。前世風に言えば、『癒やし』というのか、聴いているだけでリラックスできそうな曲だ。私には、彼が今の私を、慮ってらっしゃるように感じられた。
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