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第九章 堕ちるならどこまでも

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 それから、三日が経過した。モンタギュー侯爵は、アンバー殺しの捜査を急ピッチで進められているらしい。だが、未だ容疑者逮捕には至らない様子だった。

 一方の私は、手詰まり状態だった。ガストンや森番に直接話を聞いてみたが、二人とも、モンタギュー侯爵に話したことと同じことしか口にしない。特にガストンには、念入りに追及したものの、かたくなな態度を崩すことは無かった。

(記憶も、ちっとも戻らないわね……)

 机の上に積み上げた本を眺めながら、私はため息をついた。医師に相談するのが手っ取り早いのだろうが、殺人事件が絡んでいる以上、それもはばかられた。何かのきっかけで、自然に戻るのを待つしかないだろう。

 ――忘れられてよかったと、俺は思いますよ。

 ふと、アルベール様のお言葉が蘇る。あの時は、私を気遣ってくださっているのだとばかり、思っていたけれど。でも、もし彼が犯人だとしたら、当然忘れて欲しかったことだろう……。

(何を考えているのよ)

 私は、ハッとして自分自身を戒めた。アルベール様が、殺人など犯されるわけが無い。第一、アンバー殺しの夜は、私の部屋にいらしたではないか……。

(でも、そういえば)

 私は、はたと気付いた。森番が不審な男を目撃したと言ったのは、アンバーが解雇されてサリアン邸を出た、次の日だ。屋敷を去った夜、アンバーは一体どこに泊まったのだろう。

(その男の所、でしょうけど。でも、口封じ目的で彼女を殺すなら、犯人はすぐに実行するのじゃないかしら。なぜ、一日置いたの……?)

 待てよ、と私は思った。皆、男が目撃された日が殺害日だと思い込んでいる。だが森番は、殺人現場を見たわけではない。アンバーは屋敷を出たその日に殺され、翌日犯人が何らかの目的で、現場に戻った可能性もあるではないか……。

(前世で見ていた推理ドラマでも、『犯人は必ず現場に戻る』とか言っていたわ……)

 こんなところで、前世の趣味が役に立つとは。しかしそうなると、アルベール様のアリバイは消えることになる。

(だから、彼を疑ってはダメだというのに……!)

 居ても立っても居られず、私は立ち上がった。ミレー家へ行こう、と考えたのだ。

(直接、アルベール様に問いただすわ。そして、真実を語っていただくのよ……!)
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