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第十三章 思いがけない王命

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「……わかりましたわ。ありがとうございます」
「お役に立てず、申し訳ない。……では、失礼しますよ」

 モンタギュー侯爵が、せかせかと出て行こうとされる。すると、エミールが声を上げた。

「お待ちください! バール男爵は、他にもたくさん悪事を働いていたのですよ。ええと……」

 エミールは、男爵の麻薬取引について、侯爵に告げようとしたようだった。だがアルベール様は、彼を押し止めた。

「今は、マルク殿下の安全が最優先だ。モンタギュー様のお手を煩わせるな」
「でも……」
「いいから! モンタギュー様、お気になさらず行ってくださいませ」

 侯爵は、私たちにうやうやしく挨拶されて、退室された。お見送りすると言って、コレットが後を追う。三人だけになると、エミールはぷっと頬を膨らませた。

「兄様、どうして麻薬の取引記録を出さないのです? 顧客リストも、どこかへ隠されたでしょう」
「あのリストに、ドニ殿下のお名前は無い。今回の事件とは無関係なのだから、出す必要は無いだろう」
「でも! 麻薬を買った人たちだって、罰せられるべきですよ」

 エミールは、しつこくブツブツ言っていたが、アルベール様は適当にあしらった。

「今の事件が、一段落したらな……。ところでお前、今日は大丈夫だったか? やたらと、国王陛下に構われていたようだが」
「女装はバレなかったみたいですけど、色々聞かれて大変でしたよ。何だか、妙に興味を持たれてしまって」

 エミールは、首をかしげた。

「生まれや家族について質問されましたけど、上手に誤魔化しましたよ。適当な作り話をするのは、兄様に似て得意なんです」
「俺に似ては、余計だ」

 アルベール様は、エミールの頭に拳骨を落とした。

「誤魔化せたのならいい……。ならエミール、先に馬車に戻っていてくれるか? 俺はモニクと、少し話がある」
「了解です」

 エミールは、心得たとばかりに頷いた。

「一時間、いや二時間くらい待ちますか?」
「そこまで気を回さんでいい!」

 アルベール様が怒鳴る。二度目の拳骨を予感したのか、エミールはぴゅーっと応接間を出て行った。
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