上 下
178 / 240
第十五章 明かされた秘密

3

しおりを挟む
(あ……。つまり、そういうこと……?)

 アルベール様の要求内容を察した私は、その場に固まってしまった。彼が、ため息をつく。

「いいでしょう? それくらい。本来ならもっと早く挙式できるはずだったのに、怪我のせいで延びてしまったんだから。一つ屋根の下にあなたがいるというのに、手出しできないなんて、ほとんど拷問なんですけどね」
「手出しは……、されている気もするのですけど……」

 アルベール様は折に触れて、自由な左腕で私を抱き寄せたり、口づけたりなさるのだ。よく考えたら、その方がよほど負荷がかかっているのでは。だが、そう言い返そうとした矢先、アルベール様はこう言い出された。

「そういう意味じゃありませんよ。今だって、部屋に二人きりで、ベッドがあって、絶好のシチュエーションだというのに。俺は、ひたすらおとなしく寝ていなければならないなんて。……こう言ったら、わかりますか? それとも、もっと具体的に説明した方がいい? 俺があなたに何をしたいのか。まずは……」
「止めて、止めてください!」

 私は、悲鳴を上げた。

「わかりましたわよ。やりますから……」

 私は、破れかぶれでワインをあおった。立ち上がり、覆いかぶさるようにアルベール様に口づける。どうにか液体を流し込むと、ややあってこくりと嚥下する音が聞こえた。

(これで、義務は果たしたわ)

 だが、唇を離そうとしたそのとたん、私は再び悲鳴を上げそうになった。アルベール様の左腕が伸び、私の上体を抱き込んだのだ。逃れようにも、彼は力強く私を押さえつけて、放そうとしない。自然と、彼に乗りかかるような体勢になってしまった。

「んんっ……」

 アルベール様の舌が、自在に私の口内を蹂躙する。左腕は、相変わらず私を拘束したままだ。さらに私は、妙な気配に気付いた。うなじの辺りに、手が這う感触がしたのだ。その手は、徐々に背中の方へと下降して行った。ドレスの内部に潜り込み、指の腹で素肌を優しく愛撫する。だが左手は、私を捕らえるのに、使用済みのはずだが……。

「アルベール様!!」

 ようやくアルベール様の唇から逃れると、私はわめいた。まさかとは思ったが、私の背中に悪戯を仕掛けたのは、彼の右手だったのだ。

「手先しか使っていないから、患部に支障は無い」

 けろりとそう言い放つアルベール様を、私はキッとにらんだ。

「大ありです! 大体……」

 その時、ガチャッと扉が開く気配がした。ぎょっとして振り返れば、モンタギュー侯爵が入って来られるところだった。

(穴があったら入りたい……)

 しかもどう見ても、私がアルベール様を押し倒している状態。侯爵も、固まってらっしゃる。

「失礼! いや、ノックは何度もしたのだが。なかなかお返事が無いもので、つい……」
「こちらこそ、お待たせして失礼しました。私の妻は、なかなか積極的でして」

 澄ました顔で、アルベール様が仰る。いっそ左腕も破壊してやろうか、と私は一瞬本気で思ったのだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪役皇女の巡礼活動 ~断罪されたので世直しの旅に出ます~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:166

貴方のために涙は流しません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:35,962pt お気に入り:2,371

ざまぁされちゃったヒロインの走馬灯

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,224pt お気に入り:58

思い付き短編集

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:205pt お気に入り:121

趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28,623pt お気に入り:11,874

ちーちゃんのランドセルには白黒のお肉がつまっていた。

ホラー / 完結 24h.ポイント:809pt お気に入り:15

処理中です...