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最終章 前世から来世へ

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 エミールとミレー公爵を乗せた馬車が去って行くと、モンタギュー侯爵がため息をつかれた。やけに憔悴なさっている。

「どうされました?」 

 アルベール様が、尋ねられる。

「いえ、ようやく特命から解放されて、ほっとしたのですよ」
「特命?」
「ここだけの話ですけれどね」

 侯爵は、声を落とされた。

「ジョゼフ五世陛下は私に、鷹狩りの際の『エミリー』を捜せと命じられたのです。ミレー家のゆかりの方なのだから、ミレー家の方に聞かれればいいのにと思いましたが。どうやら陛下としては、恥ずかしかったようで」 
「そんなこと、今さらでしょうに」

 アルベール様が、ぼそっと呟かれる。

「ただでさえ、殺人犯確保に麻薬の摘発でクソ忙しいのに、いくら捜しても見つからないし、どれほど大変だったことか。まさか、実在しない女性だったとはねえ」
「……それは、大変申し訳なかったです」

 アルベール様は、すまなさそうに仰った。私も、呆れた。あの時、『エミリー』に興味を持ったのかと揶揄したローズに対して、陛下はそういう意味ではないと仰っていたけれど。

(やっぱり、そういう意味だったではございませんか……!)

「いえ。それよりも、式典が終わったら、いよいよお二人の結婚式ですな。こちらは、先を越されてしまいました」

 モンタギュー侯爵が、にこにこされる。ミレー夫人の奮闘のおかげで、ご即位二十五周年記念式典(兼エミールのお披露目式典)の直後に、私とアルベール様は挙式することになったのである。婚約披露自体は、侯爵とコレットの方が早かったのだが、式は私たちの方が先に行うことになった。

「楽しみですわ」

 コレットも頷く。そして、とんでもないことを言い出した。

「私、当日は、モニクのお支度の手伝いに伺いたいですわ」
「あら、何を言っているの」

 私は、びっくりして固辞した。

「モンタギュー侯爵夫人に、侍女の仕事をさせるなんて。第一あなただって、ご自分の準備でお忙しいでしょう?」
「いーえ、それだけはさせてください。コルセット装着術で、私の右に出る者はおりませんわ。大好きなモニクの、一生の晴れ舞台ですもの。この手で、美しく着飾って差し上げたいのです」

 コレットが、頑なに言い張る。侯爵のお顔を見れば、「彼女の好きにさせてやってください」と仰った。

「じゃあ……、お願いしようかしら?」
「任せてください!」

 あの地獄の締め上げが待っているのかあ、と私は身震いした。

(でも、頑張ろう。アルベール様に恥を掻かせないような、美しい花嫁になるために……)
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