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番外編:その時、アルベールは~①

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 王子殿下に向かって言う台詞では無いが、アルベールはドニのことを、いささかうさんくさいと感じていた。モニクを好きと公言しているが、今ひとつ真実味が感じられないのだ。

(あれは、人に恋している瞳ではない。……それに)

 アルベールが、そう言い切れる理由。それは、自分自身がモニクに恋しているからだった。

 とはいえ、直接モニクに言えば、傷つけること必至だ。以前それらしいことを漏らしただけで、彼女は気色ばんだ。しまったとは思ったが、後の祭りだった。

(無理も無い。彼女の女性としての尊厳を、傷つけたんだ。彼に憧れていたとも言っていたし……)

 コレットが聞いたら、ぶっ飛ばされていたことだろう。それきりアルベールは口をつぐんだが、ドニへの不信は拭えなかった。

「まあ、殿下。いらしてくださったのですか?」

 ドニの姿を認めたニコルが、華やいだ声を上げる。アルベールは、彼に簡単に挨拶すると、屋敷を出た。

(仕方ない。ニコル嬢の話次第では、モニクの嫌疑を晴らせるかもしれないんだ。三日後の夜は、行くしかない……)

 ニコルの着けていた強い香水の香りが、体に染みついた気がする。このまま帰宅すれば、エミールにからかわれるに決まっている。少し時間を潰してから帰るか、とアルベールは重いため息をついたのだった。



 そして三日後。アルベールは、憂鬱な気分でニコルの屋敷へと向かった。到着して、アルベールはおやと思った。屋敷の近くに、辻馬車が停まっているのだ。

(こんな所に停まって、何を……?)

 何となく気になってそちらを見やれば、窓はサッと閉まった。アルベールは、ドキリとした。一瞬ではあったが、隙間から赤毛が見えた気がしたのだ。

(まさか……!?)

 モニクのはずが無い。シモーヌの弔問へ行ったことも、ニコルと会うことも、彼女には秘密にしている。いくら犯罪捜査のためとはいえ、好きでもない女に媚を売っているなんて、知られたくは無かった。

 それに。万一アルベールがここへ来ることを知ったとして、なぜ待ち伏せなどするのか。モニクと自分との関係は、あくまで偽装だ。ドニに聞かれた時、彼女はアルベールを好きな理由を、一言も答えられなかった。聞いた人間がドニだからこそ、余計言いたくなかったのかもしれない。いずれにしても、あの事実はアルベールを傷つけるに十分だった……。

(考えるのは止そう。今はとにかく、ニコル嬢から話を聞き出すことだ……)

 言い聞かせてアルベールは、ニコルの部屋へと急いだ。チラと振り返れば、辻馬車は出発した様子だ。

(帰るのか……? まるで、俺がここに入るのを見届けようとしたような……?)

 今優先すべきは、ニコルからの証言だ。それは、わかっている。

(でも……)

 アルベールは、踵を返していた。
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