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番外編:その時、アルベールは~②

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 利き腕でないとはいえ、鍛え抜いた左腕は、あっさりモニクの自由を奪った。柔らかい肢体の感触を堪能しながら、アルベールは彼女の口内に、器用に舌を侵入させた。拒絶の言葉を封じるように、激しく唇を貪る。

「んんっ……」

 体をジタバタさせて、モニクがもがく。アルベールは、さらなる苛立ちを覚えた。自分たちは、間も無く夫婦になろうという仲なのだ。これくらいスキンシップをしても、いいではないか。

(そこまで、抵抗しなくたって……)

 無性に、意地悪をしてやりたくなった。右腕も、手先くらいなら多少は動かすことができる。アルベールは、右手をそっとモニクのうなじに這わせた。そして少しずつ、背中の方へと下降させていく。吸い付くような肌だった。一気に、情欲が湧き起こる。

(もう、構うものか。このまま……)

 やがて、アルベールが右手を使用していることに気付いたモニクは、ギャーギャーと怒り始めた。それでいて、濃厚なキスのせいで頬は紅潮し、瞳はとろんとしている。その表情は、迫力が無いどころか、アルベールを煽るだけだ。

「手先しか使っていないから、患部に支障は無い」

 言いながらも、左腕の力は緩めない。隙を突いて躰を反転させるか、とアルベールは思った。自分が上になれば、こっちのものだ。スタンバイした、その時だった。

 ガチャッと、扉が開く音がした。唖然としながら立ち尽くしていたのは、上司・モンタギュー侯爵だった。瞬間アルベールは、はたと我に返った。

(何を考えていた、俺? モニクを傷つけまいと、さっき誓ったばかりじゃないか。しかも、今は昼間)

「お待たせして失礼しました」

 アルベールは、上司に心底感謝しながら微笑みかけた。そして、心に決める。その代わり初夜では、焦らされた分を全て取り返すのだ、と。

 アルベール・ド・ミレーは、その決意を実行に移した。そしてモニクは、知らない間に貞操の危機は免れたものの、一ヶ月後に泣きを見るはめになった。結婚式から一夜明けた翌朝、動けない状態でベッドに伏せりながら、彼女は内心毒づいた。

(何もかも、バルバラ様のせいよっ……!)

 夫の怪我の原因となった義母を、モニクは心底恨んだのだった。

その時、アルベールは~②:了
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