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貧乏男爵の日常

ラルド伯爵

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いくら優秀といっても、代官は代官。
どうしても各種の書類に当主のサインがある方が提出後の処理も幾分か早い。
そして実務経験を積むという意味でも、スーが王都邸宅で経営に専念するのは有益であった。

「失礼します。」

週末の休みを利用してスーが戻った朝、執務室のドアがノックされた。
入室を許可すると雑用メイドの一人が顔を出す。

「閣下、お客様がお見えです。
 ラルド伯爵様と名乗られております。」

「え…?」

スーに心当たりのある名前ではない、そもそもアポも無い。

「アラヤさん、ご存じですか?」

傍らに立つ優秀な代官は頷く。
様々な貴族家に仕えてきた経歴を持つので、当然貴族界には精通している。

「御名前のみは。
 特徴のある方ですが、詳細は後程ご案内しましょう。」

「そうですね。」

アポが無いとはいえ、相手は伯爵。
理由もなく追い返すのは無礼だし、居留守を決め込むのも悪手だろう。
とりあえず会うこととし、応接室に通すよう指示を出した。




ラルド伯爵はスラリとした長身で、服から見える肌はよく日に焼けていた。
左手にはステッキを持っている。
貴族でも伯爵位以上に所持が許されるが、一般的なステッキの倍ほども長く、そして装飾が一切ない珍しいものだ。
服装も比較的地味なもので、貴族というより武官といった感じがする。

「初めましてですね、閣下。
 フィッツ男爵スーです。」

「ラルド伯爵クリップだ、初めまして。」

差し出した手をガッシリと握り返すラルド伯爵からは、無骨という雰囲気が漂う。

「と言うか…家督相続があったのか?
 フィッツ男爵は中年男性だったはずだが。」

握手するラルド伯爵は嫌味や皮肉ではなく、本当に知らない様子だった。
あまりにもショッキングで、王宮内では文官や侍女に至るまで知れ渡っているのに。

「はぁ。
 ちょっと色々とありまして。
 今は私が当代です。」

「そうか。
 まぁ俺としては、先代からの相続を終えているのであれば問題は全くない。」

手元のカバンから書類を取り出す。

「納品書と、請求書一式だ。
 3千ゴールド、現金でも小切手でも貴族証文でも受け付けるぞ。」
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