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事例1 九十九人殺しと孤高の殺人蜂【事件篇】

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 尾崎の言葉通りに、途中でファストフード店に寄って少しばかり時間を潰す。縁は飲み物だけで過ごしたが、尾崎にいたっては間食のレベルではすまない量の食事をとる始末だ。ある意味で尊敬してしまうくらいの食いっぷりだった。

 なんだかんだで時間を潰し、頃合いを見計らって縁達は学校へと向かう。校門で待ち構えるなんて悪い噂が広がりそうだが、ここは背に腹は代えられない。他に方法はあるのだろうが、典型的かつシンプルな聞き込みにあたることになった。車を路上に停め、校門の前にて生徒が出てくるのを待つ。

 学校のベルが鳴り響き、しばらく待っていると下校のために生徒がちらほらと校門へと姿を現し始める。縁と尾崎は車を降り、片っ端から生徒に声をかけた。広瀬という生徒を知っているか。知っているのであれば、話を取り次いで欲しい。そんな、無茶苦茶な内容での聞き込みだ。

 もちろん、簡単に広瀬のことを知っている生徒は捕まらなかった。ある生徒は怪訝けげんそうに首を横に振り、ある生徒はスマートフォンの画面を覗いたまま、こちらのことを見向きもせずに「知らない」と一言。分かりきってはいたが、ピンポイントで広瀬を探し出すには苦労を要した。 

 果たして何人の生徒に声をかけただろうか。声をかけられた生徒が教師に告げ口をしてもおかしくはない程度に声かけをした末に、ようやく広瀬なる人物を知っている男子生徒に出会うことができた。

 こちらが警察であることを告げると、その男子生徒はやや興奮した様子で答えてくれた。なんでも広瀬とは同じクラスらしい。こっちからは聞きもしなかったのに、わざわざ名を名乗ってくれた。彼の名は橋場学はしばまなぶというらしく、刑事をこころざしているそうだ。憧れを持つのは結構なことであるが、なんだか刑事を特別視しているような印象を抱いた。そんなに大層な職業ではないのだが。

 彼の話を聞いた段階で、また新たなる情報が手に入った。なんでも、問題の中心人物である広瀬は田野雪乃と交際をしていたらしい。第一の犠牲者と接点があるばかりか、かなり身近な立ち位置にいたようだ。心の傷をほじくりだすようで申し訳ないが、詳しい話が聞きたい――。そのように伝えて橋場に広瀬を呼んできて貰うように頼んでしばらく。校門に橋場と広瀬らしき人物がやってきた。広瀬らしき人物は、小柄でどこか可愛らしい印象のある雰囲気だった。

「初めまして。捜査一課の山本です」

 尾崎のように警察手帳を所持してはいないが、広瀬であろう人物に対して頭を下げる山本。尾崎は誇らしげに警察手帳を見せて「尾崎っす!」と、フランクな挨拶。橋場はそれを見て「やべぇ、本物の警察手帳かっこいい」と漏らす。
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