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事例3 正面突破の解放軍【事件篇】

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 一発ずつシリンダーに模擬弾を詰める。いちいち倉科がやってくる度に、模擬弾装填の拳銃を準備するのが面倒だから――という理由で、中嶋から預かっていた模擬弾が、ようやく出番を迎えたことになるだろう。普段は拳銃を持ち歩くことすら、わずらわしく思えてしまうのだから、こんなことがなければ、ずっとロッカーの奥に眠ったままだったに違いない。

 模擬弾をフル装填すると、拳銃をホルスターの中へと収める。警察の人間が帯銃する場合、基本的に予備弾というものは持ち歩かないのだが、今回は事情が事情であるため、念のためにポケットの中にも模擬弾をねじ込んだ。

 続いて、普段からロッカーの奥で眠らせていたリュックサックを引っ張り出す。研修や出張の際、旅行バッグの代わりとして使用するものだ。家に持ち帰ればいいのに、持ち帰るタイミングを見失ってしまったものである。それを肩に引っ掛けると、捜査一課を足早に後にした。

 ――現状、アンダープリズンで中嶋達が助けを求めている。相手の数や装備を聞く限りでも、外からの救援が必要なのは間違いない。しかしながら、倉科が直接救援を求めることはできないし、頼みの綱である叔父も、他のお偉さんと話し合ってからでないと、救援は要請できない。話し合い自体にも時間がかかるだろうし、必ずや救援を要請するという着地点に到達するとも限らない。下手をすれば、アンダープリズンの人間を見捨ててでも、機密を優先するという結論にいたるかもしれない。

「――本当、俺の立場って損な役回りだよなぁ」

 車に乗り込むと、もう一度だけホルスターの位置調整と、そのホルスターの中に拳銃が入っていることを確認する。いつ救援を送ってやれるか分からず、少なくとも今すぐ救援を送ることが厳しいのであれば――自分が行くしかない。正直、自分一人が乗り込んだところで、そこまで大きく状況が動くとは思えない。しかしながら、部下がアンダープリズンにいる以上、黙って見ていろというのも無理な話である。

 エンジンをかけると、警察署のすぐそばにあるコンビニへと車を走らせる。コンビニで手当たり次第に飲み物と食べ物を買い漁った。会計を済ませ、ビニール袋を両手に車へと戻ると、それをロッカーから引っ張り出してきたリュックサックの中へと詰め込む。現在のアンダープリズン内部での食糧事情が分からない以上、備えあって憂いなしとはこのことだ。事前に準備をしておくに越したことはない。
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