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第1章出会い
悪役令息が目を覚ました先に天使がいた
しおりを挟むわたしの名前はルイス・ネヴァキエル アウステル公爵家嫡子だ。わたしはいつの間にか意識を失っていたようで、ただ空虚な暗闇の中、重苦しく身体が焼け付くほどの熱さを感じていたところに、ふとその身が軽くなった事で手放していた意識が戻った。
最初に見えたのは茜色に揺らめく天井だった。
意識定まらぬままに、頭をもたげて身を起こした時、炎を背景に、綺麗な金色の魔法陣の中心に立っている少女の印象的な姿が目についた。
〝こっちを見ろ〟と強い意志を滲ませたルベライトの瞳から目を晒せないままに、お互いを凝視した。
そして冷静になってきた頭は思い出す。意識を手放す前に家へ押し入って来た者達、使用人の叫び声、両親のー…
そうか、わたしは死んだのか。
だから、この少女が迎えに来たんだ。
「……。」
( じゃあ、此処は天国なのか?)
そう思ったわたしが辺りを見渡そうとした時、少女が顔に水を投げ付けてきた。
「!?」
「…まだ落ちないわね。」
ぱしゃぱしゃと、次から次へと水を投げ付けてくる。
「!?!?」
投げつけられる水に思わず身構え、目を閉じていたわたしの元へ、つかつかと少女の近寄ってくる足音がしたかと思ったら、次は顔をゴシゴシと湿ったハンカチで拭かれて、そのハンカチが赤く染まっているのが少し目に入った。しかしそれを少女が後ろにポイっと放り投げた事で視界から消えた。
「…貴方の周り、空気が澄んでいるんですね。これが精霊の加護の力ですか。ならこれは、此処に使うのがよろしいですわ。」
少女の独り言なのか、わたしに言っているのかは分からないけれど、呟やくように言ったあと、先程とは別の湿った布地でわたしの目隠しをすると、左腕を少女の肩に誘導される。
そしてわたしに話しかけてきた。
「炎が凄いので、早く出ましょう。
精霊の加護も炎に焼かれるのは、どうしようも出来ないでしょう。」
確かに精霊は空気の浄化や空気の流れは操れるが炎を消す事は出来ない。 そしてわたし達は火に囲まれているのだろう。物が焼け落ちる音と周囲に熱を感じる。焦げ付きそうな程に熱い。
「そんな状況ならこの目隠しを…」
「目隠しはとっちゃダメ!絶対ダメ!目が熱風で潰れますから!!」
「え、君は大丈夫なの?」
「えぇ!」
彼女はそう答えたあと、二人三脚するように少しずつ地下に行く為の階段の場所まで近付いている。
(やっぱり目隠しとった方が早そうだけど…一刻を争うんだろうし。)
黙ってとってしまおうかと思った時、わたしの左手に水滴が落ちた。
(…水?気休め程度の水を何で出したんだ…いやこれは…)
ひとつ、またひとつと落ちてくる滴の感触。
(ー…涙。)
「ねぇ、君、何で泣いているの?」
「泣いてません。…。」
「………。何で、君が泣いているの?」
「!!!……っ」
彼女の反応と自分が見た最後の記憶から、周りがどうなっているのか、わたしはようやく理解した。
そして少女は、そんなわたしに言葉を紡いだ。
「ー・決して、貴方を哀れんでいる訳ではありません。
私が、私の記憶を思い出しただけです。」
「ー・・そうか。」
炎が酷く物を燃え散らす音と、後ろの柱が倒れる音が同時に大きく聴こえてくる中、わたしは少女に誘導されて地下の階段へと足を進めた。
ーパタン
鉄の戸が閉まる音と共に、少女は目隠しを取ってくれた。
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