【完結】悪役令嬢ライザと悪役令息の婚約者

マロン株式

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第2章事前対策

ライザの下へ爺やが助言求めに来た

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 事件から2週間が経った頃、アウステル公爵家の爺やが家を訪ねに来た。

 「先日は誠に有り難うございました。お礼が遅くなりまして…坊ちゃんも来れたらよろしかったのですが、未だ傷も癒えませんで。」

(心の傷か、身体の傷かは分からないけれど。…そうよね。)


「いえ。充分なお礼の品々は頂いておりますし、気にせずとも大丈夫です。」

(元々爺やが助けるのを、私の馬が当たって動けなくしたせいだし。)

 それにしても、白い眉毛で目元が見えない所が前世の私のお爺ちゃんに本当似てるなぁ、爺や。


 あれから悪役令息がどうなったのかも気になっていたし、爺やに懐かしさを感じていたので、庭先でお茶を飲みつつゆっくり話を聞く事にした。

「今後、あく…アウステル公爵(ルイス)はどうされるか決まっているのですか?ちょっと気になったものですから。ご不快であれば答え無くとも大丈夫です。」

「…いえ、恩人である貴方様にはお話しいたしましょう。これでも、わたくし人を見る目には自負がありまして。」


「人を見る目?」

「公爵に加護をもたらす精霊達が、騒ぐのです。
言葉は分かりませんが、騒いでいるのはわかります。
あの火事の時のように、ついて来いと言わんばかりに、わたくしの目の前を飛んでいて、ついて行った先にお嬢様の邸宅があったものですから…。であれば、きっとお嬢様と話をしろとのお告げだと勝手に思った訳です。」

(つまり、爺やの見る目と言うより、精霊のお告げ的なやつかな?こちらが聞くまでもなく話したくて来たのね。)

「お礼については、いいですよ。今で無くても。
…ただ、精霊の導き。ですか…。どうして精霊が騒いでいるのでしょうね。」

 もしかして精霊は、私に前世の記憶がある事を知っている?
これから起こる事で主人の悲惨な未来を回避出来る知識を有していると判断された…とか。

 ならば私にとっても死亡フラグ回避となるしメリットのある話だ。


「お坊っちゃんは、現在12歳でいらっしゃいます。
まだ大人の手が必要なお年頃故に、暫くは親戚の誰かしらに後見人として公爵家の運営等々を任せる必要があると思っています。親戚の中でも、話し合われているところで、近々隣国から父方の伯母夫婦が来られるとか。隣国伯爵家の領地運営経験も豊富ですし。そちらは弟君に任せて、坊ちゃんが自立するまでお力になってくれる手筈です。」

 聞いてると、別に心配要らなさそうではあるけど。強いて言うなら、私ならば「何故隣国から夫婦でわざわざ?」って思うけど。
 親戚として仲が良かったならあり得る話なのかな。私にはわからない話だが。

「……。間違いでは無い選択のはずなのに、方向性固まってから精霊が騒がしい。と。」

「はい。」
 
 「因みにお伺いしますが、そこにアウステル公爵のご意見は?」

「親族の意向に一任されています。」
 

 最近国内は平和だったし、そんな中、12歳の子供が急にあの事件経験して1人放り出されるのは、不安だものね…。きちんとしている一族の筈だし、大人の意見に任せるわよね。

 でも…ゲームでは一族への無条件の信頼が、裏目に出て〝血縁ですら人は信じられない〟と、ヒロインに言っていた。

 そしてこの記憶を持つ私の元に、精霊が爺やを連れて来たと言う事は、やっぱりその後見人に何かがあるのかな。


「…爺や、私はかなり捻くれているの。今から言う事で、変な子だと、思わないって、怒らないって約束してくれる?」

  お爺ちゃんに似ている爺やに嫌われるのは正直きつい。

「はい。思った事を何なりとお申し付けください。」

「では…まず、アウステル公爵家の財産はかなりの物と思います。その財産管理を含めた領地運営権を、このようにろくに調べも出来てないであろう短期間で、しかもタダで他人に握らせる事は、私ならば致しません。どうしても、なら。まず相手の財政情報と身辺情報を念入りに調べます。」

 語りながらも前世で私の母親が亡くなった時の葬式で親戚が相続で得られる金額を知って揉めていた事を思い出した。
 日本の法律だと未成年は何処かに引き取り先があるならそちらが優先だったし、法的責任能力のない子供自身で選べる選択肢は少なかった。

 だけど、この世界で公爵位を継ぐ悪役令息、ルイスは違う。 
 意思さえ固まれば公爵という権限を己で行使出来る。
 つまり自立を早めて生活しても国の法律上何ら問題はない。 

 まだ12歳と言っても、もう12歳。脳は出来上がっており、物の判別はつく。昔の日本ならば普通に働いててもおかしくない年齢だ。確かに領地運営という点において、学園で知識を深める前というのがかなり痛いけれど、ある程度は公爵家嫡男として家庭教師がつけられていたはず。

 そして毎日必要な雑務はきっと別の者がやっている筈だ。 
 言っては何だが、無能な跡取りがいても、ある程度収入が得られてしまうという貴族の領主が存在する。一概には言えないが必ず毎日居なければ回らないような仕事状況は想像しにくい。

 極端に言えば1年ほっといても手足に使っている人間で持ち堪えると思われる。(領主の許可必要なもの以外は。)

 そして直ぐに全ての権限を親戚に任せなくとも、他に方法が幾つかある。
 どうしても隣国の伯爵やってた人に運営任せないといけない状況なら、王宮にそれを報告して然るべき補佐を派遣してもらった方が信用できる。

 
 その辺り私がこの世界ではまだ無知な所と子供だから分からない理屈があり大丈夫なのかもしれないけど…。

 つまり総じて言うと、慌てて隣国の親戚にアウステル公爵の財布を握らせなくても良いと思う。相談役に今まで前公爵に仕えていた爺やもいる訳だし。きちんと、信頼出来る裏付けを書面で確認出来る後見人を選ぶ時間を設けるべきだ。

「いえ。他人では無く…一族の…」

「では、他人ではない親戚の過去数年に渡る領地経営実績と財務状況、税務状況、融資状況等々。こちらは文面上の数値でしっかりと把握されているのですか?莫大なお金が絡む事であればある程、お金を預ける相手方の裏付けあるしっかりした信用格付けは大事ですよ。あり得ない程の借入金、借入金があった場合の返済状況や企業経営状況、投資額、また散財していないか。等々後ろ暗そうな事はありませんか?ちゃんと調べましたか、その辺。」

「それは…。しかし、今までは問題なく運営されておりますので。お坊っちゃんは領地運営のやり方も先代当主に引き継がれないままでしたから教えてくださる方が誰か必要なんです。」

「わかりますが。焦って決める事では無いと思われます。
速やかな対応が必要な案件ではありますが、同時に重要過ぎます。かなり慎重になるべき所です。
今までの実績については外から見て感じた事ではなく、数字で表した資料やデータを元にして判断してからでも宜しいのではないでしょうか。過去5年…3年分で良いので。

因みに、血縁の叔母様は人柄も良く存じているでしょうが、その配偶者様は赤の他人。
女性の発言権がそれ程ある世ではありませんので、私ならばその辺り留意します。」

「…そう言われてみるとそうなんですが、あちらも親切で申し出てくださっておりまして。無碍にも出来ず…」

「それが1番引っかかるのです。隣国の伯爵をしていた方が、その運営権を弟に渡してまで、わざわざ国をまたいで来るのです。伯爵自身からすれば赤の他人であるのに。
他人の親切は自分の為と相場が決まっていると私は思います。
お金が絡むと尚更。
多少礼儀をかいても慎重になるべきです。それで相手が何か思うようなら、やはり任せられる人材と思えません。
正直、事件の後で傷心の中、頼れるものは頼りたい。そして後は悲しみに浸りたいでしょう。
ですが、爺やも良い歳なのですから、アウステル公爵が大切ならば、ここは爺やがしっかりして、アウステル公爵の為に慎重になるのです。先代公爵家に仕えてきた貴方であれば、そうした情報源のツテや人手が無いわけ無いですよね。」 

 …あ、爺やがホロホロ泣き始めてしまった。…お爺さんを虐めたみたいになってるよ今。どうしよう。

「…そうか、そうですな。わたくしとした事が…
あんな事件があったのだから尚更、坊ちゃんを守る為に寄ってくる人々への警戒をせねばなりませんな。」

 

 そりゃあ、今爺やだって辛いよね。長年誠心誠意仕えた公爵家があんな事になって。もう定年退職しても良さそうな年頃に見えるのに、こんな事態に巻き込まれて…
 
 爺やの気持ちを考えず、色々言い過ぎたかもしれない。


「すみません。爺や、私(前世の)育ちが良く無いのです。そして人より少し捻くれているのです。だから、今言った事聞かなかった事にしてください。」
 
「……いやいや、まだ、少女だというのに、この平和ボケしていた老いぼれよりもしっかりしておりますよ。」
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