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2話
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「アース様、起きてくださいアース様」
そう自分のことを呼ぶ謎の声にアースが目を覚ますと、目の前には見たこともない大草原が広がっていた。
いったいここはどこなのか…戸惑うアースに一人の少女が飛びついてくる。
「アース様、ご無事で何よりです。私は、私は……」
そう言って少女は、アースの胸の中で泣き叫んだ。
無事……ではないだろ。
首と胴体とを切断するあの断頭台の痛みは、確かなものだったのだから。そう…だから、生きているはずはないのだが、手足に刻まれた傷の数々は間違いなく俺の身体そのものだった。
しかし、それにしても……
「いつまで泣き叫んでるんだ!だいたい貴様は何者だ!」
「アース様、私のことをお忘れですか?」
「忘れる…?忘れるも何も俺はお前のような奴を知らん!」
「ひっ、ひどい……。アース様ったら……。うわぁぁあん…」
そう言って少女はまたアースの胸の中で、泣き叫んだ。
当然その少女をひっぺがそうと試みるアースだったが、少女の細い腕のどこにそんな力があるのか、アースの体からいっこうに離れない。
それになぜだかは分からないが、少女に触れる手からアースは心地よさを感じた。それは性的な意味ではなく、まるで長年身連れ添ったものに対しての愛着のような心地よさだった。
だから結局強くでることもできず、少女の甲高い泣き声に負け先に折れたのは、アースの方だった。
「わかった。俺が悪かった。しかし、すまないが俺は本当にお前を思い出せない。だからお前の名前を教えてくれないか?そしたら、思い出せるかもしれない。」
「名前はないです。だけど、私はアース様とずっと共に歩んできましたよ。」
「は?何を言っている……」
「そして、私を使ってあのムカつくジュワユーズをぶった斬ってくれたじゃないですか?」
「待て待て待て、お前を使って?」
「はい!」
そう自慢げに言い切る少女の瞳はとても嘘を言ってるようには見えなかった。だいたい嘘をつくとして、俺に近づきたいのならもう少しマシな嘘をつけばいいだろうに。
それに、俺は反逆罪として処刑されたがジュワユーズを叩き折ったのを知る者は、あの時玉座の間にいた者だけのはずだ。帝国が誇る国宝がただの鉄剣におられたなどと、そんな汚名をわざわざ広めるはずもないであろうし……。
しかし、アースにはにわかには信じ難かった。いや、アースでなくても目を覚ましたら自分の鉄剣が少女になっていたなど、誰が信じることができようか。
もっといえば、目の前の少女は着ている衣服こそボロボロに穴があいていてアースの鉄剣の様相と似ていると言えなくもなかったが、露出した肌は百合のように白く、肩までのびた白金色の髪は美しく、アースを見つめる琥珀色に光る大きな瞳は勇ましいというより可愛らしかったのだからなおさらだ。
だが、自分も死んだはずなのに生きているという未知の状況下のせいか、ことさら少女の言い分にも謎の説得力があった。それに、自分の剣を自称する謎の少女をただ放っておくわけにもいかない。
そこでアースは、右足についた一つの小さな傷を指差し少女に問うた。
「お前がもし、俺の剣だというのなら、この傷、この右足の傷がどうしてついたのか答えられるはずだろう?」
「あぁ、それは…アース様が5歳の時、急に吠えてきた犬にびっくりして、誤って私を足に落としてしまった時に残った傷ですね。その時はアース様の剣でありながら、アース様を傷つけてしまい、大変申し訳ございませんでした……。」
そういって深々と頭をさげる少女に対しアースはただ顔を赤らめた。
しかしまさか本当に自分の剣だと最後まで信じられなかったアースは、誰にも打ち明けたことのない秘密をもって、少女の嘘を証明しようとしたのだが、見事に返り討ちにあったわけだ。
しかし、それを誤魔化すように一度咳払いをしたあと、何事もなかったかのように少女に尋ねる。
「して、我が剣よ。ここはどこなんだ?」
「わかりません。私もアース様より少し先に目覚めただけですので。」
「では、お前はどうやってここに来たのだ?」
「ただ、願ったのです。そして目覚めた時にはアース様のそばにいました。」
「そうか……。お前の忠義も大したものだな」
「いえ、当然です。ただ、もし褒めていただけるのであれば……その、ご褒美をいただけませんか?」
そういうと少女は頬を紅潮させ、口を尖らせ、アースを見上げた。
しかし、アースの目に映ったのは、そんな少女の愛らしい顔ではなく、そのもっと下、アースの足元でぐにょぐにょと蠢く水色の生き物だった。
そう自分のことを呼ぶ謎の声にアースが目を覚ますと、目の前には見たこともない大草原が広がっていた。
いったいここはどこなのか…戸惑うアースに一人の少女が飛びついてくる。
「アース様、ご無事で何よりです。私は、私は……」
そう言って少女は、アースの胸の中で泣き叫んだ。
無事……ではないだろ。
首と胴体とを切断するあの断頭台の痛みは、確かなものだったのだから。そう…だから、生きているはずはないのだが、手足に刻まれた傷の数々は間違いなく俺の身体そのものだった。
しかし、それにしても……
「いつまで泣き叫んでるんだ!だいたい貴様は何者だ!」
「アース様、私のことをお忘れですか?」
「忘れる…?忘れるも何も俺はお前のような奴を知らん!」
「ひっ、ひどい……。アース様ったら……。うわぁぁあん…」
そう言って少女はまたアースの胸の中で、泣き叫んだ。
当然その少女をひっぺがそうと試みるアースだったが、少女の細い腕のどこにそんな力があるのか、アースの体からいっこうに離れない。
それになぜだかは分からないが、少女に触れる手からアースは心地よさを感じた。それは性的な意味ではなく、まるで長年身連れ添ったものに対しての愛着のような心地よさだった。
だから結局強くでることもできず、少女の甲高い泣き声に負け先に折れたのは、アースの方だった。
「わかった。俺が悪かった。しかし、すまないが俺は本当にお前を思い出せない。だからお前の名前を教えてくれないか?そしたら、思い出せるかもしれない。」
「名前はないです。だけど、私はアース様とずっと共に歩んできましたよ。」
「は?何を言っている……」
「そして、私を使ってあのムカつくジュワユーズをぶった斬ってくれたじゃないですか?」
「待て待て待て、お前を使って?」
「はい!」
そう自慢げに言い切る少女の瞳はとても嘘を言ってるようには見えなかった。だいたい嘘をつくとして、俺に近づきたいのならもう少しマシな嘘をつけばいいだろうに。
それに、俺は反逆罪として処刑されたがジュワユーズを叩き折ったのを知る者は、あの時玉座の間にいた者だけのはずだ。帝国が誇る国宝がただの鉄剣におられたなどと、そんな汚名をわざわざ広めるはずもないであろうし……。
しかし、アースにはにわかには信じ難かった。いや、アースでなくても目を覚ましたら自分の鉄剣が少女になっていたなど、誰が信じることができようか。
もっといえば、目の前の少女は着ている衣服こそボロボロに穴があいていてアースの鉄剣の様相と似ていると言えなくもなかったが、露出した肌は百合のように白く、肩までのびた白金色の髪は美しく、アースを見つめる琥珀色に光る大きな瞳は勇ましいというより可愛らしかったのだからなおさらだ。
だが、自分も死んだはずなのに生きているという未知の状況下のせいか、ことさら少女の言い分にも謎の説得力があった。それに、自分の剣を自称する謎の少女をただ放っておくわけにもいかない。
そこでアースは、右足についた一つの小さな傷を指差し少女に問うた。
「お前がもし、俺の剣だというのなら、この傷、この右足の傷がどうしてついたのか答えられるはずだろう?」
「あぁ、それは…アース様が5歳の時、急に吠えてきた犬にびっくりして、誤って私を足に落としてしまった時に残った傷ですね。その時はアース様の剣でありながら、アース様を傷つけてしまい、大変申し訳ございませんでした……。」
そういって深々と頭をさげる少女に対しアースはただ顔を赤らめた。
しかしまさか本当に自分の剣だと最後まで信じられなかったアースは、誰にも打ち明けたことのない秘密をもって、少女の嘘を証明しようとしたのだが、見事に返り討ちにあったわけだ。
しかし、それを誤魔化すように一度咳払いをしたあと、何事もなかったかのように少女に尋ねる。
「して、我が剣よ。ここはどこなんだ?」
「わかりません。私もアース様より少し先に目覚めただけですので。」
「では、お前はどうやってここに来たのだ?」
「ただ、願ったのです。そして目覚めた時にはアース様のそばにいました。」
「そうか……。お前の忠義も大したものだな」
「いえ、当然です。ただ、もし褒めていただけるのであれば……その、ご褒美をいただけませんか?」
そういうと少女は頬を紅潮させ、口を尖らせ、アースを見上げた。
しかし、アースの目に映ったのは、そんな少女の愛らしい顔ではなく、そのもっと下、アースの足元でぐにょぐにょと蠢く水色の生き物だった。
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