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11章 双子、失踪事件

かくれんぼ、スタート

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今日は家族でスルト村に来ている。
ココットさんの代わりにカルステッドさんがお店を取り仕切っている事以外は、以前とさほど変わらない。

「じゃあ、必要なモノは仕入れでき次第エリュシオン様に連絡するから待っていてくれ」
「はい、いつもありがとうございます」

ココットさんのお店では、現在ガルドニア国内にある塩、コショウ等の調味料や市場には売っていない食材、メラニウム王国にある特産品や調味料などをカルステッドさんやアレク兄様が商会の人達と協力して購入できるようにしてくれている。
中にはモニカがエルフの村交渉したキーファ茶や工芸品もあるので、商会はどんどん支店や働く人数が増えて大きくなっているのだとか。

ちなみに、以前エルがリンダとアルマさんにお願いした任務・・・というかお使いのおかげで、あたしが求めていたお米は“リーズ”という名前でフェイフォンで生産されているモノだという事もわかったのだが、まだ取引相手などが決まっておらず物流するまでには至っていない。
基本的に自分の目で見たモノしか信用しないアレク兄様が直接会って交渉する予定なので、お米も「そのうち現地へ行って取引相手を探して、ついでに家も探してくるね」と言っていた。

ついでの内容がおかしいと言いたかったけど、エルまでもが「あぁ、メラルダのような家だったら即押さえておけ」と平然と返している辺り、“非常識=常識”はあたしだけに限った話じゃなくなってきている。


そんなこんなで、スルト村でもいろんなものが購入できるようになり、村なのにその辺の町よりも賑わっているというおかしな村になってしまった。

もちろん、物流が増えたことで人の出入りも増えたため、治安にもかなり力を入れているようだ。
この村の役人さんや、男性女性問わず希望者に関しては、カルステッドさんやキャロさんなどがビシバシ鍛えているため、だいたいの老若男女は護身術から人によって小隊長並の実力をつけているとリンダに聞いたことがある。
・・・おかしい。この村はいったい何を目指してるんだろう?
あたしの周りの非常識が村にまで影響しているのは絶対気のせいじゃないよね?

カルステッドさんと話ながらふと店の中を見ると、懐かしいモノを見つけて思わず立ち止まってしまった。

「ん?どうしたんだ、サーヤ」
「・・・この柱の凹み、初めてキャロさんと会った時にココットさんが誤って柱に頭をぶつけてできたキズなんです・・・」

この世界でエルに出逢って、初めて連れて来てもらったこの村で初めで出会ったココットさん・・・
オカマという強烈なキャラだったけど、とても良い人柄ですぐに打ち解けることができ、時には相談にも乗ってくれた大切な人だった。

「あ、あぁ・・・そんな事もあったな・・・」
「え?カルステッドさんもご存知なんですか?」
「あ、いや・・・ココットがそんなことを言ってたなぁと・・・」

急に会えなくなったと思ったら、帰らぬ人になってしまって本当に悲しかったけど、あたしは今でもココットさんのこと忘れません。
これからもずっと・・・――――――

「サーヤちゃぁん♡リリアちゃんにこ~んな洋服作ってみたんだけど、どうかしらぁん?」
「あ、キャロさん。どんな洋服ですか?」
「カルステッド、以前作った魔道具の販売状況を確認したい。奥で話せるか?」
「かしこまりました。リンダ、店番は頼んだぞ」
「はーい、了解です!」
「レオン、サクラ、少しの間お店の中の物見てて。欲しいモノがあったら後でパパに聞いて、OKもらえたら買ってあげるからね」
「「はいなの」」

エルはカルステッドさんとお仕事の話で店の奥の部屋へ行き、あたしはキャロさんにリリアの洋服を見せてもらうため、声をかけてから少しだけ双子から目を離した。
リンダがさりげなく双子の様子を見てくれてたけど、お客さんが来たことで接客がメインとなり見ていることが困難となってしまう。

「・・・キャロ、リリたんのふくつくったんだ・・・」
「まえは、ボクたちのふく、いっぱいつくってくれたのに・・・」
「ノンたんも、フラたんも、みんなリリたんばかりなの・・・」
「ミーたんや、カイたんもだよ・・・」

店内をとぼとぼ歩きながら会話をしていたレオンとサクラは、だんだん歩みが遅くなり終いにはしゃがみ込んでいじけてしまった。

「ままも、リリたんのおかしばっかとくべつ・・・くーのプリン、しろいのでいっぱいにしてくれないの・・・」
「みんな、ボクたちのこと、いらなくなっちゃったの・・・ふぇ、そんなの、やだぁ・・・」
「うぅ・・・そんなこと、ないっ、も・・・ふぇぇ・・・」

双子達が店内でしゃがみ込んで泣いている姿は、ちょうど死角になっている場所だったこともあり、あたしやキャロさん、リンダも誰も気づかない。
そして、急にリリアが泣き出した事であたしはさらにリリアにかかりっきりになってしまった。

「・・・ないてるボクたちより、ままはリリたんのほうが、だいじなのかな・・・?」
「ヒック、もうリリたんなんてしらない!くーたちをみてくえない、ままたちもしらないっ!!うぅ~~~~っ」
「くー、なかないで。ボクも、ボクもいるっ、からぁ・・・ふぇ」
「ッグズ、うん、あたしには、レオたんいるの。レオたんにも、くーが、いるのよ」
「ん、ボクたち、ままのおなかにいたころから、ずっといっしょ。これからも、いっしょなの」

互いに共感し励まし合う二人は、ひとしきり泣いた後で二人なりにこれからどうしたら良いかを考えた。

「ね、レオたん。どうしたら、リリたんみたいに、またいいこいいこしてもらえるかな?」
「んー・・・ままは、リリたんがなくとビックリして「どうしたの?」ってなるよね・・・」
「むぅ、くーはもう、なきむしじゃないの、“れでー”なのよ」
「ボクも、つおいおとこだもん!」
「「・・・」」

先程まで泣いていたことがなかったかのように会話を続ける二人に、“双子は店内で大人しくしている”と信じている大人達は一向に気付く様子はない。

「・・・ボクたちがいなくなったら、ままたちビックリするかな?」
「!!」
「おにわで、かくれんぼするみたいに、ここでかくれんぼしたら、ボクたちのこと、さがしてくれるかな?」
「かくれんぼは、おにさんがみつけるまでおわらないも!まま、いつもおにさんだからきっとさがしてくれゆよ!」
「でも、ここはかくれるばしょないよ?おそといく?」
「ん~、でもあのドア、あけれないよ?それに、でるときにおにさんにみつかっちゃう・・・」
「ボクね、アルにーにから、“おんみつのじゅつ”おしえてもらったの。それだとみつからないよ!」
「あ、レオたん。いまドアがあいたの!でるならいまなの!!」


こうして二人は、レオンの隠密術であたし達に気付かれることなく、買い物を終えたお客さんの後に続いて店を出ることに成功した。

あたしは、奥の部屋で商談をしていたエルが血相を変えて出てくるまで、二人が店内からいなくなったこと自体に気付かなかった・・・――――――――
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