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第一章

14.妃の死4

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 事態が急変したのは本当に偶然だった。

 何時ものように女官達の情報収取をしていた私の耳に届いたのはある一人の女の話だった。
 二年ほど前に後宮入りしたその女性は下級役人の娘だと聞いていた。特に目を引くような美女ではないけれど性格がいいことで定評のある女性だったらしい。後宮に入る前は官吏の夫を持つごく普通の平凡な妻だったようだ。それが突然の夫の死により彼女は天涯孤独の身になった。しかも、運が悪いことに実家は没落しており生活が立ち行かなくなったという。それで彼女は困窮の末、身売り同然で後宮に入ったらしい。そして何故かすぐに後宮を去っていた。
 それが私が初めて聞く彼女の物語だった。
 
「彼女がどうしたの?」

 私は青に聞いた。
 すると、青は眉間にシワを寄せた。
 
「実はオレも詳しい話は聞かないんだけどもな、どうやらその女に毒を盛られた奴がいるらしいぜ」
 
「え?まさか……」
 
「ああ、オレもその話を聞いた時は冗談だろうと思ったさ」
 
「誰なの?」
 
「尚美人の侍女だ」
 
 ――!? 尚美人!
 
「でもどうして?」
 
「知るかよ。けど、そいつはもうこの世にいないから真相は不明のままさ」
 
「毒を盛られたんでしょう? なら……その毒で?」
 
「いや。それがおかしいんだ。毒を飲まされた形跡は一切なかったらしい。周りにいた者達が騒ぎ立てていたからな。茶に毒が仕込まれたと言い張ってはいたが……」

「違うの?」

「ああ。痕跡を調べても何も出てこなかった。翌日には毒を飲まされたはずの侍女は池で溺死して発見された」

「それって、どういう事?」
 
「知らん。ただ、当時は侍女の狂言ではないかという噂が囁かれていたらしい。主人である尚美人に嘘が露見して責められた挙句の身投げじゃないかと言われていた」
 
「……そんな事ある?」

「ないとも言えないが……怪しさ満点だ。ただ、身投げした侍女を夜中に見た者がいたんだ。その証言で自殺と判断したらしいが……証言した侍女も三日後には死んだそうだ」
 
「立て続けに二人が亡くなっているのね」
 
「ああ」
 
 ますます意味が分からない。
 なぜ? なんのために? それに毒を飲んでいるわけでもない。死因も全くの不明。ただ、二人が亡くなった事は確かだ。
 
「証言した侍女は何で亡くなったの?」
 
 私がそう言うと青は大きくため息をついた。
 
「それがなぁ……。足を滑らせて階段から落ちたらしい」
 
「それだけ?!」
 
「ああ……しかも、かなりの高さから落ちて意識を失っていて翌朝にようやく目が覚めたって感じだ。足に傷があっただけで他には外傷はない。だが、その時既に手遅れの状態だったということだ。結局はそのまま亡くなったらしい」

 青の言葉を聞いて背筋に冷たいものが走った。
 まるで呪われているかのように次々と死んでいく人達。
 
「で、杏樹。お前はどうするつもりだ?」

 青は私を見据える。
 それは私の意思を確認しているかのようだった。青の視線を受け止めた私の答えは決まっていた。
 
「もちろん調べてみるわ。それに……このまま放っておく訳にはいかないでしょう?」
 
 私がニヤリとして答えると、青も同じように笑い返してきた。
 
「ああ、そうだな。頼んだぜ、杏樹」

 こうして私達は事件の謎を更に追いかけることにしたのだ。


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