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第8話:決行の時です
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「レティシア様、日が沈みかけております。そろそろ王宮に戻りましょう」
「そうね、今日は連れて来てくれて、どうもありがとう」
私が護衛騎士にお礼を言うと、一瞬目を大きく見開き
「とんでもございません。レティシア様の希望を叶え、お守りする事が私たちの仕事ですので」
そう言ってなぜか恥ずかしそうに笑っていた。この人たちとも、今日でお別れなのね。そう思ったら、なんだか少し寂しくなった。
王宮に戻った後は、いつもの様に1人で部屋で食事を済ます。もう1人の食事にも随分慣れた。食後は湯あみを済ませ、早めにベッドに入る。こうすることで、使用人たちが部屋から出て行ってくれるからだ。
使用人たちが出て行くのを見届けると、急いで荷物をまとめる。出来れば両親との思い出の品も持って行きたいが、何分カバンに入る量は限られている。お金の入った大きなバックも持って行かないといけない事を考えると、必要最低限のみを持って行く事にした。
それでもリアム様との婚約祝いにと両親から貰った、サファイアのネックレスは首から下げていく。よし、準備は整った。街で買ったワンピースに着替える。その時だった。
コンコン
「レティシア、もう眠ってしまったのかい?」
やって来たのは何とリアム様だ。急いでベッドに潜り込む。
「リアム様、どうかされましたか?」
本来ならベッドから起き上がり対応しなければいけないのだが、生憎今は町娘の様な格好をしている。こんな姿を見せたら、きっと追及されるだろう。仕方なくベッドに入ったまま対応する事にした。
「ごめん、寝ていたんだね。時間が空いたから、一緒にお茶でもと思ったんだけれど…」
「ごめんなさい、なんだか今日は眠くてたまらないのです」
「そうか、わかったよ。それじゃあ、また明日にするよ。ゆっくりお休み。レティシア」
そう言うと、おでこに口付けをして出て行った。どうして最後にこんな事をするのかしら?口付けなんてされたら、あなたから離れるのがまた辛くなってしまうじゃない…
瞳から涙が溢れそうになるのを必死に堪えた。駄目よ、今泣いたら。とにかくリアム様の為に、私は今日この国を出ると決めたのだから!涙を拭い、机の上に手紙を置いた。さすがに黙って出て行くのだから、手紙くらい残しても罰は当たらないだろう。
よし、準備は整った。ロープを窓に結び付け、カバンを担ぐと、ゆっくりとロープを伝って地上に降りる。カバンが思ったよりも重く、けっこう辛いがそれでもゆっくりと降りた。
そして隠し通路を通って王宮の外に出る。もちろん隠しておいた現金入りのカバンも回収する。
万が一他の貴族に見られて連れ戻されると大変だ。特に私はこの国では珍しいピンク色の髪をしている。髪を隠す為、大きめのストールを頭に巻き付けた。それにしても、辺りは真っ暗だ。そのせいで歩くのも慎重になり、街に出るまで1時間近くかかってしまった。
マズいわ、急がないと!慌てて馬車に乗り込み、港を目指す。馬車からは、昼間とは打って変わって薄暗く人もほとんどいない。そんな薄暗い道を進むと、港が見えて来た。早速チケットを見せ、船に乗り込む。生まれて初めて乗る船。まさかこんな形で船に乗る事になるなんてね…
部屋に荷物を置くと、デッキへとやって来た。デッキから街を見る。出稼ぎにでも行くのか、男性に抱き着く子供と女性。こっちでも男性と別れを惜しむ家族の姿が。皆大切な家族に惜しまれながら、この船に乗り込んでいるのね。
でも私は、誰にも見送られる事なくひっそりとこの国を出ようとしている。つい数ヶ月前は、両親に守られ大切な婚約者にも大切にされていた。あの頃の私は、この幸せが当たり前で、ずっとずっと続くと思っていた。でも現実は…
大切な両親も婚約者も失った…その現実を目の当たりにして、再び涙が込み上げて来た。どうしてこんな事になってしまったのかしら?今まで抑えていた感情が、ここに来て一気に爆発する。
どうしてお父様とお母様は死んでしまったの?どうしてリアム様は、ミランダ様を選んだの?どうして私は大切な人を失わなければいけなかったの?どうして?
その場にへたり込み、声を殺して泣いた。周りの人たちが、物珍しそうに見ている事にも気が付かず…それでも私は生きて行かないといけないのだ。涙を拭い、しっかりと立ち上がる。
楽しい思い出も、辛い思い出もこの国に置いて行こう。もう私は公爵令嬢、レティシア・トンプソンではない。これからは、ただのレティシアとして生きていくのだ。
ゆっくり動き出した船の上で、そう決意するレティシアであった。
※次回からしばらくリアム視点が続きます。
よろしくお願いいたしますm(__)m
「そうね、今日は連れて来てくれて、どうもありがとう」
私が護衛騎士にお礼を言うと、一瞬目を大きく見開き
「とんでもございません。レティシア様の希望を叶え、お守りする事が私たちの仕事ですので」
そう言ってなぜか恥ずかしそうに笑っていた。この人たちとも、今日でお別れなのね。そう思ったら、なんだか少し寂しくなった。
王宮に戻った後は、いつもの様に1人で部屋で食事を済ます。もう1人の食事にも随分慣れた。食後は湯あみを済ませ、早めにベッドに入る。こうすることで、使用人たちが部屋から出て行ってくれるからだ。
使用人たちが出て行くのを見届けると、急いで荷物をまとめる。出来れば両親との思い出の品も持って行きたいが、何分カバンに入る量は限られている。お金の入った大きなバックも持って行かないといけない事を考えると、必要最低限のみを持って行く事にした。
それでもリアム様との婚約祝いにと両親から貰った、サファイアのネックレスは首から下げていく。よし、準備は整った。街で買ったワンピースに着替える。その時だった。
コンコン
「レティシア、もう眠ってしまったのかい?」
やって来たのは何とリアム様だ。急いでベッドに潜り込む。
「リアム様、どうかされましたか?」
本来ならベッドから起き上がり対応しなければいけないのだが、生憎今は町娘の様な格好をしている。こんな姿を見せたら、きっと追及されるだろう。仕方なくベッドに入ったまま対応する事にした。
「ごめん、寝ていたんだね。時間が空いたから、一緒にお茶でもと思ったんだけれど…」
「ごめんなさい、なんだか今日は眠くてたまらないのです」
「そうか、わかったよ。それじゃあ、また明日にするよ。ゆっくりお休み。レティシア」
そう言うと、おでこに口付けをして出て行った。どうして最後にこんな事をするのかしら?口付けなんてされたら、あなたから離れるのがまた辛くなってしまうじゃない…
瞳から涙が溢れそうになるのを必死に堪えた。駄目よ、今泣いたら。とにかくリアム様の為に、私は今日この国を出ると決めたのだから!涙を拭い、机の上に手紙を置いた。さすがに黙って出て行くのだから、手紙くらい残しても罰は当たらないだろう。
よし、準備は整った。ロープを窓に結び付け、カバンを担ぐと、ゆっくりとロープを伝って地上に降りる。カバンが思ったよりも重く、けっこう辛いがそれでもゆっくりと降りた。
そして隠し通路を通って王宮の外に出る。もちろん隠しておいた現金入りのカバンも回収する。
万が一他の貴族に見られて連れ戻されると大変だ。特に私はこの国では珍しいピンク色の髪をしている。髪を隠す為、大きめのストールを頭に巻き付けた。それにしても、辺りは真っ暗だ。そのせいで歩くのも慎重になり、街に出るまで1時間近くかかってしまった。
マズいわ、急がないと!慌てて馬車に乗り込み、港を目指す。馬車からは、昼間とは打って変わって薄暗く人もほとんどいない。そんな薄暗い道を進むと、港が見えて来た。早速チケットを見せ、船に乗り込む。生まれて初めて乗る船。まさかこんな形で船に乗る事になるなんてね…
部屋に荷物を置くと、デッキへとやって来た。デッキから街を見る。出稼ぎにでも行くのか、男性に抱き着く子供と女性。こっちでも男性と別れを惜しむ家族の姿が。皆大切な家族に惜しまれながら、この船に乗り込んでいるのね。
でも私は、誰にも見送られる事なくひっそりとこの国を出ようとしている。つい数ヶ月前は、両親に守られ大切な婚約者にも大切にされていた。あの頃の私は、この幸せが当たり前で、ずっとずっと続くと思っていた。でも現実は…
大切な両親も婚約者も失った…その現実を目の当たりにして、再び涙が込み上げて来た。どうしてこんな事になってしまったのかしら?今まで抑えていた感情が、ここに来て一気に爆発する。
どうしてお父様とお母様は死んでしまったの?どうしてリアム様は、ミランダ様を選んだの?どうして私は大切な人を失わなければいけなかったの?どうして?
その場にへたり込み、声を殺して泣いた。周りの人たちが、物珍しそうに見ている事にも気が付かず…それでも私は生きて行かないといけないのだ。涙を拭い、しっかりと立ち上がる。
楽しい思い出も、辛い思い出もこの国に置いて行こう。もう私は公爵令嬢、レティシア・トンプソンではない。これからは、ただのレティシアとして生きていくのだ。
ゆっくり動き出した船の上で、そう決意するレティシアであった。
※次回からしばらくリアム視点が続きます。
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