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リーネの章

前世の記憶

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俺がここに転生して、前世の記憶を取り戻したのは、五歳の頃だ。ちょっとした<事故>がきっかけだった。

ただ、<記憶>は戻っても、さすがにそれまで五年間、子供として生きてきたからか、<八十のジジイの感覚>には戻らなかったけどな。少々、<ませたガキ>になったくらいだ。

考えてみれば当然かもしれない。<前世の記憶>なんて、今の俺からすれば<他人の詳細な情報>みたいなものだ。やたら綿密で八十年の人生をリアルタイムで描いたノンフィクションを見せられたような感じと言えば分かるだろうか?

確かに俺の記憶なんだが、もはや肉体が別人のそれだから、どこか他人事のようにも思えるんだよ。

だからか、前世のこと自体、やけに客観的に見られるようになっていた。

とは言え、こっちで子供として生きてる間は、理不尽な大人の下でいかにして無難にやり過ごすかってことばかりに集中してて、ゆっくりと過去を振り返る余裕もなかったけどな。十五で<大人>の仲間入りを果たしても、鍛冶の師である父親の下でコキ使われて、やっぱり余裕がなかったな。それがこうして、いろいろ考えられるようになったってのは、皮肉な話だ。

一方、リーネの方は、顔を伏せて体を縮こまらせて、所在無げにしている。ここの子供としては<普通の姿>か。大人の理不尽に怯えて、小さくなっているのが多数だな。

たまに、大人に食ってかかる奴もいるが、そういうのは大抵、ボコボコにされて、下手すれば死ぬ。しかも、そういう<生意気な子供>が折檻の果てに死んでも、誰も殺した側を責めない。『子供が悪い』からだ。

逆に、子供が大人を殺せば、もう、その村にはいられない。捕まってリンチを受けて殺されるか、逃げ延びても盗賊とかになるのが関の山だ。で、これもやっぱり、『子供が悪い』ってことになる。

だが今の俺には、大人の醜悪さが客観的に見えてしまうんだ。

<幼稚な大人の本性>

がな。これも、前世の自分を客観的に見られるようになった影響かもしれない。

だから、リーネに対しても、理不尽に振る舞おうという気にはなれないんだ。

幸い、リーネの様子を見てると、彼女の境遇はまだマシな方な気がする。酷いのになれば、<性的な慰み物>にされる場合もあるからな。しかも、女の子だけじゃない。男だってそういう目に遭うのがいる。実際、俺の村にもどっちもいた。

そういう奴はな、大人に対する怯え方がもっと過敏なんだ。近付くだけで体を強張らせる。

が、リーネにはまだそれがない。だからこそ、倒れていた俺に声を掛けてくれたんだろうけどな。じゃなきゃ、間違いなく見捨てていたどころか、下手をするとトドメを刺されていた可能性すらあるだろうな。

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