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リーネの章

大人に謝られるなんて経験は

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そうして、俺とリーネは、ウサギ肉と野草のスープを堪能して、ほっこりした。

やっぱり、美味い料理があるというのは大事だな。今の俺、アントニオ・アークが生まれた村にはどうしてそれが伝わってなかったのか、不思議でならない。なんであの村の連中は、あんな不味いもので我慢できてたんだ?

まあ、それしかなかったから、それ以上の<美味いもの>を知らなかったからなんだろうが。

なんてことを思いつつホッとして、

「鍋がまた完成したから、今度は二つの料理を同時に作れるぞ」

俺はそう言って三つ目の鍋をリーネに差し出した。

「ありがとうございます! 頑張ります♡」

嬉しそうに微笑む彼女が本当にまぶしい。

ちくしょう、かわいいなあ……!

前世で実の娘をこんな風に可愛いと思えなかったことが悔しい。笑うくらいに小さな頃の俺にそっくりだったから、決して<托卵>とかじゃなかったのは確かなんだ。間違いなく<俺の子>だった。それなのに俺は、興味も持てなかった。

バカだ……バカすぎる……

なんて思いつつも、また、二人で体を拭いて、一緒のベッドで横になる。他愛もないことを話しながら、穏やかな気分で眠りにつく。

幸せだなあ……



で、翌朝。いい加減、風呂を形にしたかった俺は、ハッと目を覚まして、即、水を汲みに行った。

リーネはまだ寝てたからそっとしておいたが、天秤棒と桶がないのを見れば察してくれるだろう。

そして俺が一回目の水汲みから戻ってきた時に、

「おかえりなさい」

家の前に立っていたリーネに迎えられた。

「どうした?」

俺が尋ねると、

「ごめんなさい。起きたらトニーさんの姿が見えなかったから……桶がなかったから水汲みに行ったんだとは思ったんですが、その…寂しくて……」

おうおうおう! かわいいか!? これが『あざとかわいい』ってやつか!?

バカヤロウ! キュンときちまうじゃねえか!!

内心ではそんな感じで見悶えながらも顔には出さないようにしてたんだが、たぶん、嬉しそうな表情にはなってた気もするな。

そんな気もしながらも、

「ごめん」

と謝ってしまう。するとリーネも、

「あ、いえ、私こそごめんなさい……!」

って焦ってた。そうだな。大人に謝られるなんて経験は、まずないだろうからな。ここじゃ。俺も、大人が子供に謝ってるところとか、見た覚えがない。そりゃ戸惑うだろう。

まったく、厄介な世界だぜ。

だが、こうやってリーネと出逢えたのは、何にも代えがたい幸いだったと思う。正直、彼女に出逢ってなかったら、俺は本気で荒んでだろうしな。

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