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トーイの章

避けたいところだよな

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麓の村に残ってた小麦については残念だったが、まあ、俺達の後に火事場泥棒に来た連中にも多少の獲物がなけりゃ納得もできないだろうし、そうなるとまた凶暴化するかもしれないからな。だから多少は取り分が残ってた方がいいんだと思う。

もっとも、俺達は大人一人に子供が二人という非力なそれだったから二日掛けても日用品と小麦十五袋がやっとだったが、まあまあ人数もいたみたいだし、それこそ根こそぎ掻っ攫っていくだろう。貴金属の類や金が見当たらなかったのは、村での衝突で生き残った奴が持ち去った可能性が高いけどな。

そんなわけで、誰も俺達のことなんて非難できないし、俺達も誰かを非難することはできないんだよ。ここがこういう世界だっていうだけの話だ。

ただ、『殺して奪う』ってのはまあ避けたいところだよな。俺がそれを認めてたら、それこそリーネやトーイがそういうのになってしまうかもしれねえ。いよいよ追い詰められて『生きるか死ぬか?』って段になったら<生存競争>という意味でなりふり構ってられなくなるだろうにせよ、そこまでじゃないならやらないにこしたことはないと思う。

何より、相手を殺そうとするんなら、自分も殺される可能性も高くなる。そもそもここの連中は、生まれたその瞬間から親に殺されてもおかしくないような境遇で育ってきた奴らだ。黙っておとなしく殺されてくれるようなタマじゃない。前世の平和ボケした日本の強盗程度じゃ逆に反撃されてなぶり殺しにされたって俺は驚かねえよ。

イノシシはおろかクマ相手だってナイフ一本で立ち向かうこともあるような頭おかしい奴だってザラだしな。

現代日本から異世界転生や転移した奴らなんて、それこそチート能力でも授からなきゃそりゃ相手にならないだろ。話として成立させるには必要なんだって実感したよ。俺が今こうして生きてられてるのは運が良かっただけだ。それ以外の何物でもない。

だからこそ、その<剛運>が俺に与えられたチート能力なんじゃないかって思うんだ。とは言え、確信できるわけじゃないから、無謀なことは避けなきゃとも思う。

調子に乗って『殺して奪う』なんてのをやってたらすぐにこっちが殺される側になるとしか思わないんだ。

『臆病だ』『ビビりだ』と言いたいなら勝手に言ってろ。この世は生き残ってナンボなんだよ。

ひたすら鉄を打ちながら俺はそんなことを考える。

そして俺が鉄を打ってる間、リーネは風呂の残り湯で洗濯してくれていた。洗濯用の桶も手に入ったからな。トーイも手伝ってくれてるようだ。

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