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トーイの章

すごく嫌な夢

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なんてことを考えながら、俺はいつの間にか眠ってた。そんな風に考え事してる間に眠れるってのは、すごいことだと俺は思う。なにしろ前世じゃ、あれこれ考えてしまってなかなか寝付けないってのが普通だったからな。

同じように考え事してるはずなのに、なんなんだろうな。この差は。やっぱり、俺自身がリーネのおかげで安心できてるってのが大きいのかもな。

そして俺は夢を見た。なぜだか、夢の中で、

『ああ、これは夢だな』

って自覚できてた。でも夢の内容自体はすごく嫌なそれだった。

リーネとトーイが、明らかに俺を軽蔑してる目で見てるんだよ。しかも、前世の俺の家に三人で住んでたんだ。なのに、俺はそれを不思議には思ってなかった。普通にその家で、リーネやトーイと暮らしてる気になってた。

でも、リーネは食事を作ってくれなくて。

「え…と、メシは……?」

遠慮がちに尋ねた俺に、リーネは、

「は……? まともに家に金も入れない男がなんでメシの用意してもらえると思えんの?」

とか言ってきた。それこそゴミを見るような目で。

しかもトーイに至っては、包丁を手に俺を恐ろしい目で睨み付けてる。

「お…おい、危ないぞ、そんなもん。ちゃんと片付けろよ……」

俺は言うんだが、トーイは何も言わずに、ゆっくりと包丁を振り上げる。

「おい…! 待てって、シャレんなってねえから……! な? 置けって、とにかく冷静になって話をしよ…?」

焦る俺は思いっ切り下手になって何とか落ち着かせようと必死になってた。そんな俺に、リーネが、

「話し合い……? 今さら何言ってんの。あんたが私達と何も話そうとしなかったんでしょうが。こっちは何度も話し掛けてたのに、『疲れてんだからよ』とか『うるせえ』とか、あんたが聞く耳もたなかったんでしょ。それで今んなって話し合いとか、甘ったれたこと言ってんな…! あんたはもう、結論を出したんだよ。私達のことなんてどうでもいいって切り捨てたんだ。だから私達もあんたを捨てる。何もかも手遅れなんだよ……!」

一気にそう吐き捨てるように言ったリーネの顔は、確かにリーネの顔なのに、女房の表情だった。女房が俺を見る時の表情になってたんだ。

ということは、トーイのこれは、ゆかり…か? ゆかりは俺とはもう口も利く気なくて、とにかく死んでくれって思ってたってことか……?

ああでも……そうだよな……俺だって、自分が女房やゆかりの立場だったら、リーネやトーイと同じこと言うし、するよな。

このリーネやトーイは、前世の女房やゆかりであると同時に、他でもない俺自身なのか……

俺に対する、俺自身の感情……

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