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トーイの章

この幸福感には震えるよ

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洗濯を終えるとまたぬるい水を被って体をすすいで、布で拭いて、服を着て、三人でテーブルに着いて一息つく。

いや~、なんとも穏やかな気分だな。

なんで前世でこうしなかったんだろうと後悔しかない。この幸福感には震えるよ。

それからリーネが夕食の用意をするために立ち上がった時、

「ギャウッッ!!」

獣の悲鳴と物音。

「おっしゃっ!!」

俺は思わずガッツポーズを取ってた。そうして外に出ると、案の定、罠にネズミが掛かってたんだ。かなりでかいネズミだ。

「よーしよし! これで今日も肉が食べられるぞ!」

「はい♡」

「…!」

三人でテンションを上げつつネズミにとどめを刺す。その上で、

「すまんな。お前の命、ありがたくいただかせもらう……」

目を瞑り、祈りを捧げた。そんな俺の真似をして、リーネとトーイも、

「ありがたくいただきます」

「いただきます」

続いてくれた。日本でいう『いただきます』というあれは、結局、こういうことなんだろうなって実感する。『命をいただく』という実感がなくなったから疎かにされがちなんだろうが、やっぱりこういうことだと思うんだ。

そうして後はリーネに任せ、俺は改めて罠を仕掛け直した。その様子を、トーイも見てる。だが俺は、

「いずれはトーイにもやってもらうことになるが、今はまだ近付かないように。分かったな?」

敢えて抑えたトーンで、真面目な顔で、ゆっくりとはっきりとしっかりと伝わるように意識して言う。

「……うん…」

トーイもそう言ってくれた。

だから安心してしまったんだ。それが油断に繋がったんだろう。子供ってのは、ちょっと何かに集中してしまうと、それ以外のことが頭から飛んでしまうというのを失念してしまったんだ。



数日後、俺が鉄を打ってると、

「ぎゃっ!!」

という悲鳴。だが、俺はそれを耳にした瞬間、背筋に冷たいものが奔り抜けるのを感じた。ウサギやネズミじゃない、イノシシでもないことが分かってしまった。

「トーイっっ!?」

そうだ。トーイの悲鳴だと直感してしまったんだ。そして罠を仕掛けていた辺りを見ると、罠が手首に絡まって宙吊りになったトーイの姿。

「くそっ!!」

俺はナイフで蔓を切り、トーイを抱きかかえて家に戻り、テーブルの上に置かれていた木の食器などを払い除けてそこに寝かせた。

「鳥……つかまえようとした……そしたら……」

ボロボロと涙を流しながらトーイが口にしたそれで、庭に下りてきた鳥を捕まえようとして夢中になって罠のところに突っ込んじまったんだろうと察したんだ。

そうだ。これがあるから小さい子供からは目を離しちゃいけないんだ……!

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