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ゼレクの森、修行80年、使い魔アル

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 翌朝、村で宝石を総て換金。

 その金でハサミと布と剥ぎ用ナイフと初心者用の革製の防具一式を購入だ。

 何せ、こちらは公爵家の紋章エンブレム付きのマントと執事服なのだからな。

 目立って仕方がない。

 防具屋の試着室で背中の紐を切ってようやくコルセットを脱いだ。

 うわぁ~。

 結構デカイな。

 それに綺麗なピンク色。

 思わず鷲掴みしてしまった訳だが。

 すぐに布をハサミで切ってサラシにして胸に巻き、

 革製の鎧に着替える。

 コルセットはもちろん執事服やマントも売らないし、捨てない。

 手放したら絶対に変に思われるからな。

 弓と矢とリュックと地図と新聞と薬草図鑑も購入した。

 残りの金で食糧を山ほど購入だ。

 そして馬サイズの狼に乗って出た。

 まずは新聞を見る。

 何故か読めた。

 この世界の文字が。

 この身体の女の知識が使えるのだろうか。

 ともかくツイてた。

 地図を見る。

 更に王都ゼレクトリアが西寄りだったのでツイてた。

 まあ、西側には向かわないがな。

 追っ手が掛かるのは明白だし。

 目指すは森を南にだ。

 街道がないのがポイントだ。

 まあ、大丈夫だろう。

 オレは狼に乗って森の中を進んだのだった。





 森に入った目的は色々ある。

 まずは小動物系の魔物との戦闘だ。

 ともかく強くならなければならない。

 弓矢は苦手だが、仕方がない。

 兎系の魔物で練習した。

 この身体の筋がいいのか、オレが元々天才なのか、100発100中だった。

 剥いで兎肉と兎皮もゲットする。

 なるほど。

 この世界も魔物を倒せば倒すだけ強くなれる訳ね。

 それが分かっただけで儲けものか。





 さて。

 王都ゼレクトリアの西側の森はゼレクの森という。

 この森は王都ゼレクトリアの燃料も兼ねてるので、元々魔物は少ない。

 騎士の部隊や冒険者が定期的に魔物を討伐して、燃料拾いの平民達の安全を守ってるからだ。

 つまり、森の中に騎士の部隊が普通に居る訳で、それを接近される前に気付いてやり過ごしながら、移動していった。





 森の奥へと進んだ3日目の事である。

 微量だが妙な魔力を感じて、オレは引き寄せられるようにそちらに移動してしまった。

 魔力の発生源は野晒しにされた遺跡の魔法陣だった。

 ボロボロだが、

「魔法陣が生きてる?」

 狼の背から降りたオレは微量に魔力が漏れてる魔法陣を見て、

「? 転移用の魔法陣か、これ? なら楽々国外脱出じゃん」

 用途に気付き、何故か理解出来、

「ええっと、ピリ・クトスト・レ・アカ・・・・・」

 と魔法語を呟くと魔法陣が光り輝き、

「おっ、本当に使える?」

 魔法陣が発動したのだった。





 ◇





 光に包まれたオレが移動した先は塔の中だった。

 古い塔の中だった。

 というか、

「『時の流れ』から遮断された? もしかして時間が経過しない修行の空間か、ここって?」

 そう感じてオレは自問した。

 塔の中を探索する。

 無人だと判明した。

 井戸は生きてる。

 自然の水じゃない。

 塔の外は緑のある小さな島だったが、空の風景は星空だった。

 というか、緑の島の境界線は海ではなく、総て星空だった。

「やっぱり、修行の空間? どうしてあんな森に修行の空間に通じる魔法陣の入口があったんだ? 誰かが作った? ・・・逆か? あの遺跡の魔法陣の古さだと魔法陣の方が先か。王都の方が後から出来た?」
 
 と疑問に思ったオレだが、

「いや、そんな事はどうでもいいか。転移で国外脱出とはいかなかったが・・・それでも、これはこれでツイてる。この身体に修練を施すには持って来いの空間だからな」

 こうして鍛錬をする事にしたのだった。





 『走り込み』や『筋トレ』による基礎体力の向上。

 『瞑想』による『気』系と『魔力』系の開眼。

 『素振り』による剣技や槍技の習得。

 『魔法訓練』によるオレが知り得る魔法総てを習得。

 ついでに『身体の持ち主の壊れた精神』の断片からの知識吸収。





 空腹を覚えなかったのでオレはさらっと80年ほど修行した。





 だって食事をしなくてもいいんだぜ。

 こういうチャンスは限界まで貪欲に物にしないと。

 どうも80年が限界らしい。

 2回、めまいを覚えたところで『もしかしてこれ以上は拙い?』とピンときて、慌てて魔法陣を使って外に出たから。





 ってか、80年も修行したのに【竜気】も【竜魔】も開眼しなかったから。

 やっぱり竜系は無理か。

 特殊だからな。

 竜肉を食べた事がある程度ではダメっぽい。

 竜の血族じゃないと。





 まあ、その代わりと言ってはなんだが、この女の系譜は【炎】系だったらしく、

 【炎気】

 【炎魔】

 【火炎眼】

 【火吹き】

 【炎喰い】

 と色々と覚醒させたけどな。

 何せ、80年間、オレは必死に修行したから。

 ほら、オレって圧倒的な戦闘力で雑魚を潰すの凄く好きだから。

 強さは必須ってね。





 他にも、自分の魔力を使って、





 【使い魔】





 を作った。

 幼竜をイメージして作ろうとしたのに可愛い白ウサギになってしまったが。

 兎って。

 この身体の女の趣味だろうな、絶対に。

 マジで勘弁だから。

 【使い魔】との融合技を使ったら兎耳が生えるんだぜ。

 マジで恥ずかしいから。





 そんな訳で、最弱だったこの身体もそこそこ使えるようになったのだった。





 ◇





 修行の空間から魔法陣で出ると、オレは遺跡の魔法陣の中央に立っていた。

 乗ってた馬サイズの狼も眼の前に居る。

 つまり、タイムラグもないって事だ。

 オレは右手に『炎気』を溜めた。

 溜めれる。

 修行の空間で得た強さはそのままって訳だ。

 オレはニヤリと笑うと剣を振った。

 斬空剣。

 と名付けた斬撃技で遺跡の魔法陣を斬り刻む。

 使えないように破壊する為だ。

 どうしてかって?

 そんなの、修行の空間を使って他の奴が強くなられたら迷惑だからさ。

 得意の炎系を使わなかったのはどうしてかって?

 得意技を隠すのは常識だぜ。

 オレはこれから氷系の魔法を主軸の戦闘スタイルにするつもりだから。

 セコイ?

 いやいや、戦略と言ってくれよ。

 ともかくオレは狼に乗るとゼレクの森を南に進んだのだった。





 ◇





 直線状に進んだのにゼレクの森の中を抜けるに20日間を要した。

 その間にゼレクの森のぬし級のアースドラゴンを2頭狩猟して肉を喰らって、高級素材は根こそぎ剥いだ。

 というか、2頭討伐後にゼレクの森を移動中にドワーフ族の4人の素材調達部隊に遭えたお陰で、野営の即興鍛冶工房でアースドラゴン製のオーダーメイドの装備一式を作って貰った(残りの素材は代金として支払った。他にも銀や金のインゴットも代価として貰ったが)。

 なので、オレの今の恰好は、





 アースドラゴンの兜。

 アースドラゴンのブラ鎧。

 アースドラゴンのパンツ鎧。

 アースドラゴンのグローブ。

 アースドラゴンのブーツ。

 アースドラゴンのフード付きコート。

 アースドラゴンの右眼眼帯。





 となっていた。

『ご主人様、ビキニを着て恥ずかしくないのかピョン?』

 と質問してきたのはオレの右肩に乗ってる白ウサギの使い魔だ。

 名前はアル。

 オレが命名したんじゃない。

 自分で勝手に名乗りやがった。

 【言語能力】を与えたのはともかく【魔力総量の5分の1】を与えたのは失敗だったかもな。【自我】も勝手についてしまったし、口調もピョンピョン言ってて変だし。

「全然、男だからな」

 と答えたのはオレが暇だからだ。

『まだそんな事言ってるピョン?』

「事実なんだよ」

『はいはい。お腹が出てるけど、防御面での心配はないのかピョンか?』

「だから、オレはもう強いんだよ。【気での肉体強化】や【障壁の常時展開】も出来て。本当は装備なんて何でもいいんだぜ。このアースドラゴンの装備は他の連中に舐められない対策なだけだからな」

『ご主人様は美人だから、アホな男どもが寄ってきそうだピョン』

「美人か、この顔?」

 金髪碧眼白肌のありふれたお嬢様なんだけどな、この身体。

『美人だピョン。まあ、右眼の眼帯が台無しにしてるピョンけど。『それ』どうにか出来ないのかピョン?』

「仕方ないだろ。【火炎眼】が常時発動するまで開眼してしまったんだから」

『ってか、【暴走】だピョンね? 術者の意に反して燃えるピョンから?』

「うるさい」

『ってか、ゼレクの森の4ヶ所のボヤの原因がご主人様だってバレたら逮捕されるピョン、絶対』

「問題ないだろ、火炎系の魔物も森に徘徊してたんだから」

 と喋っていた。





 因みにオレの武器は当然、





 アースドラゴンの牙剣。

 アースドラゴンの牙斧槍。

 アースドラゴンの弓。





 この3つだった。

 正直、魔法や遠斬りが出来るようになったので弓は必要ないが、一応な。





 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇





 登場人物。





 アル・・・ロザリアの使い魔。愛らしい白ウサギ。自我がある。





 地名。





 王都ゼレクトリア・・・ゼーレ王国の首都。

 ゼレクの森・・・王都の南西側に広大に広がる。

 遺跡の魔法陣・・・ゼレクの森内に存在。時間の歪みがあり、修行用の魔法陣を古代人が作った。
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