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クロス島へ、チャーリーを失うのは拙い、軍船が沈んだ

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 ナガン諸島連合の本島にあたるクロス島。

 その首都のナガン諸島最大のカサブラ港に停泊した軍船が船底に穴を開けて沈没していた。

 昼間なので港には人が居て、救助活動をしている。

 沈没していく軍船はナガン諸島連合ではなく、タンテト連合の国旗を掲げていた。





 オーケイ。

 何も言うな。

 おまえらが言いたい事は分かってる。

 ドヤ顔で『おまえがやったんだろ』って言いたいんだろ?

 だがな、少し考えてみて欲しい。

 オレがやったにしては『ショボいな』と疑わなかったのか?

 えっ?

 言い訳をしてる時点で怪しい?

 早く答えろって。

 チッ、騙されなかったか。

 教えてやる。

 確かにオレがやった。

 だが、オレの説明もちゃんと聞けよ。

 いいな、良ぉ~く聞くんだぞ。






 オレは悪くない。

 悪いのはこの馬鹿どもだから。





「助かったなのだ、ロザリア」

 鳥かごから出たチャーリーがオレに感謝する中、

「マジで頼むわよ、チャーリー。死なれたら凄く迷惑なんだから」

 空中で透明になってるオレはそう言い、影からアルが、

『ナガン諸島連合の独立路線派の連中の思う壺だピョン』

『そんな訳あるか。オレは今回【透明】で隠密なんだからよ』

 オレはチャーリーの入っていた鳥かごを海に捨てながら、回想したのだった。





 ◇





 オレはまだナガン諸島連合に居た。

 今度はモンロー島から首都カサブラがあるクロス島に移動だ。

 何しに出向いたのか、と言えば表彰だった。

 討伐した巨大クジラの譲渡が嬉しかったのか、国家元首に呼ばれたのだ。

 それで体調がまだ万全じゃないのに強行移動したって訳さ。





 ってか、23日が経過して、まだダルイって。

 この令嬢からだ、虚弱体質なのか?

 元の世界の身体だった時は10万の戦闘力の上乗せくらいで、ここまで不調になる事はなかったんだが。





 まあ、それはともかく、






 そんな訳で、

 オレはナガン諸島連合の元首の議長シャアツと官邸で会談していた。

「この度は本当に討伐した巨大クジラの譲渡、ありがとうございました」

 戦闘力520。

 虎人の60代で、まだまだ筋骨隆々だったが、妙に腰が低い奴だった。

 違和感がなかったら問題はなかったのだが、違和感ありまくりだから問題だった。

 つまりは嘘臭い。

 権力者のこういうのが一番の曲者だ。

 そして、かなりの確率でムカツク奴と決まっていた。

 現に40頭って過少申告してるし。

 50頭は倒したはずなのに。

 沈んで回収出来なかった?

 まあいい。

 オレに土下座謝罪するような事だけはしてくれるなよ。

 そう思いながらも勇者として、

「いえいえ、勇者として当然の事をしたまでです」

「因みに西の果てまで何をしに?」 

 ほら、すぐに探りを入れてきた。

「見物ですよ。一度は大瀑布を見ておかないと、と思いまして」

「なるほど。そう言えば勇者なのだとか? 我が国でも勇者認定してよろしいでしょうか?」

「ええ、もちろんです」

 オレは満面の笑顔で答え、あっという間に、

「ナガン諸島連合はロザリアを勇者と認めます。以後、世界平和の為に励まれるように」

 謁見の間で勇者認定されたが、

 違う、そうじゃないっ!

 お偉いさんに認められるんじゃなくて、民衆から賛辞の声を聞きながら発表されないと。

 パレードをしろよ、とまでは言わないが、式典をだな。

 コイツは何も分かっていない。

 それとも何か発表を急ぐ理由でもあったのか?

 もしくは方便?

 名前だけの勇者認定をしておいて、民衆には知らせない気か?

 つまりは勇者のオレを利用するしようとしてる?

 そういうのって一番許せないよなぁ~。

 おっと、イカン、イカン。

 何か暴れる前提の流れになってきてる。

 今は素顔の勇者行脚の最中なんだから暴れるのはダメだろ。

 オレは不平を言う事なく、

「ありがとうございます」

 と議長に礼を述べたのだった。






 ◇





 与えられた滞在部屋にて、

「ねえ、何か知ってる? この国、 少し変よね?」

 とのオレの質問に、

「イエロ将国の所為じゃないの?」

 それがシューの意見だった。

「というと?」

「確かナガン諸島は、外交弱者で長年不平等条約を結ばされてるって話よ」

「具体的には?」

「通貨の金銀が少ないから関税が掛けられて小麦も通常の値の3倍で買わされてるとかだったと思うわ」

「そんなの買わなきゃいいだろ?」

 それがアシュの考えで、

「地図を見なさいよ。ナガン諸島連合は島々の集まりで、土地面積も、豊富な水源もないから田畑に適さず、面する大陸はイエロ将国とタンテト連合だけ。イエロ将国とタンテト連合がツルんだらお手上げじゃないの」

「つまり搾り取られてる?」

 アシュの問いに、

「みたいね」

「じゃあ、勇者認定はその二国へのアピールって訳ね?」

 オレは状況を理解したが、

「政治利用されるのは嫌いだから、この島からはさっさとお暇しましょうか」

 そう方針を固めた訳だが、






 5日後に民衆へのお披露目会があるとかで滞在を強要された。

「別の土地に行きたいんですけど、私達?」

「申し訳ございません。既に勇者祭の準備を始めていますので、しばらく滞在をお願いします」

 そう答えたのはオレ付きの女官だった。

 人間で、20代前半。金髪アップにインテリ眼鏡の巨乳ちゃんだ。

 オレの女好きは、オレの身体に付着した女達の匂いでバレバレだから、あてがってきた?

 生僧だったな。

 いくら美人でも戦闘力1桁は論外なんだけどよ、こっちも。

 まあ、教えてやる義理もないか。

「勇者祭ねえ」

 勇者を招待した良くあるお祭りだが、大概、腕試しとかがある。

 面倒臭いな。

「そういう事なら」

 そんな訳で仕方なく滞在する事となった。





 ◇





 さて問題。





 暗殺に適した時間帯はいつでしょう?





 答え。






 就寝時。

 入浴時。

 更衣時。

 非武装となる式典時や謁見時。

 食事時。但し条件付き。毒を盛るのに成功した直後。

 などなど。





 ◇





 そんな訳で速攻だった。

 クロス島に到着した当日の入浴時に襲われた。

 せっかく、官邸の大浴場の女風呂でアシュの身体を洗ってたのに。

 ドアどころか壁をドゴンッと破壊して大量の覆面をした男が雪崩れ込んできた。

「殺せ、偽勇者をっ!」

 最初に言っておく。

 オレは中身が男なので、胸を隠して『キャア、 痴漢』などのリアクションは取らない。

 そしてオレは不機嫌だった。

 不機嫌な理由、その1、アシュの裸体を他の野郎に見られたから。

 不機嫌な理由、その2、偽勇者と言われたから。

 不機嫌な理由、その3、まだ体調が万全じゃないのに襲われたから。

 不機嫌な理由、その4、夕食に喰えないナマの魚肉の海鮮料理が出たから。

 不機嫌な理由、その5、賊の最高戦闘力が50と雑魚だったから。

 以上の理由から、

「【氷の矢】っ!」

 賊20人くらいを魔法で瞬殺した。

 普段の運が良ければ生きてていいぞコースではなく、

 今回は全員絶命コースだ。

「ギャアアア」

「ゲフッ」

 と全員が倒れる中、裸のオレは、

「雑魚は氷の棺で眠るのね」

 静養中に過ぎて考えてたこの令嬢からだの決め台詞と共に前髪かきあげポーズを取ったのだった。





 ◇





 初日の深夜にも襲われた。

 この島の風習なのか、壁をまたドゴンッと開けて襲ってきた。

 せめてドアから入って来いよ。

 こっちはベッドでリラと抱き合って眠ってたのに。

「偽勇者を・・・」

「【氷の矢】っ!」

 賊10人くらいをオレは魔法で瞬殺した。

 それでは終わらず、当然、部屋は移動となった。

 本当に馬鹿らしい。






 ◇





 翌日の午前中、クロス島の表通りを見学に出向けば、

「死ね、偽勇者っ!」

 一般人に扮した男に剣で斬りかかられたが、戦闘力30だったので、アシュが、

「ご主人様に何しようとしてやがるんだっ!」

 との蹴り1発であっさりと倒していた。





 ◇





 本邸に戻るまでもなく、警備兵が賊を逮捕していくのを横目で見ながら、オレは表通りで女官の巨乳ちゃんに、

「で? どうなってるのかしら? これは?」

 不機嫌そうに質問した。

「実は、ナガン諸島連合は独自路線派と大陸追従派が居りまして・・・」

 それ以上の説明を聞くまでもない。

 面倒事に巻き込まれてるのは一目瞭然なのだから。

 そして、オレは勇者だが、そういう事を嫌うのだ。

「これ以上、巻き込まれたくないので出発しますね」

「お願いですから居て下さい。ナガン諸島連合から大陸追従派を一掃するチャンスなんですから」

「知らないわよ。自分達の国なんだから自分達でやりなさいな」

「そうおっしゃらずに」

 と言い合ったが、結局は、

「もう来る事もないのだから街を見学していくなのだ」

 肩に乗るオウムのチャーリーの案を採用したが、それが悪かった。





 それは一瞬の事だった。

 露天商で名産品の真珠の首飾りなんかを手に取っていた時に、何かがビュンッと頭の上を横切り、

「ヒィ、助けてくれなのだぁぁっ!」

 オウムのチャーリーの声がした空を見たら、燕のデカイのがチャーリーを鷲掴みにして逃げていた。

「はあ?」

 待て待て待て。

 チャーリーは大地の女神ミーカルの使いだぞ。

 失うのは非常に拙いっ!

 オレは全速力の【跳躍】で空中ジャンプして燕が掴むチャーリーに手を伸ばしたが、届く寸前で加速されて、3回空中ジャンプしたが、距離はどんどん離れる一方だったので、

「【氷のーー】」

 魔法を使おうとしたが、燕に掴まれてるチャーリーが、

「ダメなのだ、ロザリアっ! ロザリアの魔法の威力だと吾輩が死ぬなのだっ!」

 チッ。

 断念してた。

 聖獣なのに非戦闘員だからな、チャーリーは。

 戦闘力0だし。

「そう来たか」

 オレは不機嫌そうに飛んでいくチャーリーを睨んだのだった。






 ◇





 そんな訳で、

 クロス島のカサブラ港に停泊していたタンテト連合の軍船がチャーリーを攫った犯人だった。

 どうして判明したのかって?

 オレはチャーリーの居場所を探知出来なかったが、

 チャーリーは喋れる聖獣だ。

 戦闘力はないが【念話】は出来る。

『今、カサブラ港なのだ。船に降りたなのだ。鳥が人間になったなのだ。国旗は赤と黒牛なのだ。軍人に捕まったなのだ』

 教えてくれたので、速攻で出向いた。

 勇者として正面から出向くのではなく、【透明】魔法でコッソリと。

 そして軍船内を捜索。

 ほらほら、オレ、影魔法が使えるから、ドアを開けなくても余裕で移動出来るからな。

 船長室の鳥かごの中にチャーリーは入っていた。

 室内には誰もいない。

 当然だ。

 奪還されないように甲板に勢揃いして近付く人間を警戒してるのだから。

 だから、船底に穴を開けてやると、あっという間に大騒ぎで、

「浸水してるぞっ!」

「退避だ、退避しろっ!」

「提督、鳥はどうしましょう?」

「知るか、逃げろっ!」

 と軍人どもがボートで非難する中、透明のオレは悠々と空中ジャンプして、沈没する様子を眺め、





『ナガン諸島連合の独立路線派の連中の思う壺だピョン』

『そんな訳あるか。オレは今回【透明】で隠密なんだからよ』

 チャーリーの入っていた鳥かごを海に捨て、チャーリーを攫ったデカイ燕が上空を飛行してたので、

「【氷の矢】っ!」

 と魔法を当てると、人間に戻って墜落していったのだった。





 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇






 登場人物。





 戦闘力520・・・シャアツ・ナルバ。ナガン諸島連合議長。

 女官の巨乳ちゃん・・・ブレア。人間。文官としては優秀。

 デカイ燕の人間・・・バリス・ガブリエン。タンテト連合将校。魔十教団幹部『最速王』。戦闘力710。人間と燕と英霊の融合体。短距離転移使いで本当は強かった。





 国名。





 タンテト連合・・・大陸の最北西に位置する。元首は大統領。





 地名。





 クロス島・・・ナガン諸島連合の本島。

 カサブラ港・・・クロス島の港。ナガン諸島最大。

 首都カサブラ・・・ナガン諸島連合の都。港町。クロス島にある。
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