王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

文字の大きさ
3 / 356

3. 真実の愛と言うけれど

しおりを挟む

「ふぅ……フルール。この短期間にどうしてそんな考えに至ったのか。その理由をだな一応、聞かせてくれるか?」

 お兄様が大きなため息を吐き、こめかみ付近を押さえながら聞き返してきた。
 なんだか頭が痛そう。大丈夫かしら?

「フルールはどこからどう見ても存在しているじゃないか。そりゃ……ちょっと人の話を聞かない時もあるし、おかしな想像力を働かせて変な方向に全力で突っ走った結果、止まれずに事故に遭う……なんてことはよくあるが…………可愛い妹だ」
「お兄様……」

(なぜかしら、可愛い妹と言われているのに素直に喜べない私がいるわ)

 残念ながら、お兄様の言いたいことは半分くらいしか分からなかった。
 でも、今はそんなことよりも私の気になっていることの方が大事なのよ!
 そう思ったので私はお兄様に説明する。

「だってお兄様。皆さんの中では“私”がすっかり消えているんですもの」
「皆の中?  フルールが消えている?」

 お兄様が意味が分からんぞという顔になる。

「ええ。ほらここにいる誰一人として、“ベルトラン様の婚約者”の存在を気にしていないのですよ?  ですから私……自分の存在そのものが怪しくなってしまって」
「あー……確かにお前たちの婚約はそれなりに知れ渡っているはずだ、な?」
「でしょう?  私はベルトラン様との婚約を解消した覚えはありませんし」
「それは……」

 私の発した婚約を解消という言葉にお兄様は悲しそうに目を伏せた。
 お兄様が何を言いたいかは分かっているわ。
 こんなことになってしまったので、私とベルトラン様の婚約はもう続けられないもの。

「……お兄様はベルトラン様の浮気を知っていたんですね?」
「うっ……」

 私のその問いかけにお兄様はバツの悪そうな表情を浮かべる。

「先日の……さっき話題に出ていたモンタニエ公爵令息……リシャール様がベルトランのタキシードを……って言われていた夜会に参加していたんだよ」
「ああ!」

 そうだったわ。
 確かその夜会は本当は私も参加予定だったけど、体調不良で欠席してしまったのよね。

「その時にベルトランと王女殿下の距離が妙に近いなと思ったんだ」
「距離……」
「ああ、婚約者のリシャール様も近くにいるのに王女殿下はベルトランとばかり話していて、ダンスも連続で二回以上踊ろうとしていたんだ」
「えっ!  れ、連続で?」

 私は驚く。
 ベルトラン様は婚約者である私とでも連続で踊ったりしない人だった。

(恥ずかしいから……とか言っていたけれど、もしかしてあれは嘘だった……?)

「さすがにその時はリシャール様が止めに入っていたんだが、王女殿下は明らかに機嫌を損ねてしまっていたな」
「そんなことが……」

 どうやら、二人の仲は私が思っている以上に親密らしい。

「言われてみれば、ベルトラン様がよそよそしくなったように感じたのもその頃からだったような気がします……」

 なるほど。
 きっとその夜会でベルトラン様は王女殿下と出会って恋に落ちたんだわ。
 そしてどうやら運命も感じてしまった……だから、真実の愛……

「……」

 私はグッと両拳を握りしめる。
 考えれば考えるほど、自分が惨めになっていく気がする。
 私とベルトラン様の三年間はなんだったの?

「それで、ベルトランのあの様子……父上とも相談してフルールにどう伝えるべきかをちょうど話していたところだったんだ」
「お兄様……」

 お兄様は深いため息を吐く。

「ベルトランも王女殿下もそれぞれ婚約者がいる身だから、さすがに早まったり軽率なことはしないと思っていたんだが……甘かった。なんでこんなことに」

 お兄様が苦虫を噛み潰したような顔をする。
 それはそう思うわよね。
 だって、ベルトラン様も王女殿下も思いっ切り早まって軽率な行動しているとしか言えないもの。
 王女殿下はこんな所で婚約破棄なんて言い渡すし、ベルトラン様に至っては、私の存在を絶対忘れていると思う。

(今日は私もパーティーに参加すると話していたはずなのに!)

 そう思いながら、チラッと二人に視線を向けると、もうこの恋にはなんの障害もありません!
 と言わんばかりに完全に二人の世界に入っていた。
 ベルトラン様のあんなデレデレした表情、初めて見たかもしれない。
 あれが、真実の愛を見つけた人の───……

(…………ん?  いえいえ、ちょっと待って?)

「……」

 なんだかおかしくない?
 そう思った私は顔をしかめる。

「フ、フルール?  いきなり眉間の皺の数が凄いことになったが……ど、どうしたんだ……大丈夫か?」
「……」
「お前がそんな顔をする時は……くっ!  危険なんだ。今日は何をする気だ?  突撃か?  まさかあそこに突撃する気なのか!?」
「え?」

 私はただ考えごとをしていただけなのに、何故か目の前のお兄様が怯えている。

「突撃ではなくて……あの?  お兄様……私、ついつい真実の愛とか運命だというロマンチックな響きにうっかり流されそうになっていたのですが」
「うん?」

 お兄様が不思議そうに首を傾げる。

「ベルトラン様も王女殿下もやっていることは、ただの浮気ですわよね?」
「え?」
「真実の愛なんて言っていますけど……あれって自分たちの浮気を正当化して、雰囲気に流された周囲の人たちに祝福されてデレデレしちゃっているだけなのでは?」

 それに、それに、それに!
 王女殿下は何やら、婚約者のリシャール様のことを悪役令息なんて呼んでいたけれど、あれって無理やりリシャール様を悪役とやらにして自分たちを正義にしただけのような……
 私の頭の中に“演出”という二文字が思い浮かんだ。

「お兄様……どうしましょう。私、ショックです」
「フルール。落ち着くんだ……そうだよな。浮気されていたなんてショックだろう?」
「いいえ、それよりもベルトラン様がこんなに阿呆でおバカな方だったことを三年間も見抜けなかったことがショックなんです!」
「……は?」

 お兄様が驚愕の表情で私を見てくる。
 王女様はベルトラン様のことを優しくて素敵とか言っていたけれど……これはきっとあれね?
 恋は盲目とかいうやつに違いないわ!

「……え?  待ってくれ。フルールがショック受けるのはそこなのか?」
「ええ。今、自分の男性の見る目の無さに大きな大きなショックを受けていますわ」

 結婚前に分かって良かったとは思うものの、やっぱり三年間というのは大きい。

「──お兄様!  お父様とお母様はどこですの?」
「え?」
「帰りましょう!」
「かえ……る?」

 お兄様は目をパチクリさせて私を見る。

「こんなパーティーにもう用はありません!  今すぐ帰宅してベルトラン様から……いえ、モリエール伯爵家からたっぷりの慰謝料をむしり取るための計算をしなくては!」

 私はお兄様の腕をガシッと掴む。

「フ、フルール……?」
「あぁ……存在を消された精神的苦痛もたっぷり上乗せしないといけないわ」
「え?  え?  待ってくれ。開き直ったフルールが怖いんだが……どこに行こうとしているんだ?」

 お兄様の顔がピクピク引き攣っている。
 腕を強く掴みすぎてしまった?

「どこに行く?  もちろんさっきから言っています。家に帰りますけど?」
「そ!  ……うじゃないんだよ、フルール!」
「……?  変なお兄様。とにかく時間が惜しいのでさっさと帰りましょう!」
「う、フ、フルール! 引っ張るな……こら!  おい……」

 そうして私はお兄様を引き摺りながら、お父様とお母様と合流しパーティー会場からさっさと立ち去ることにした。



 だけどそのパーティーからの帰り。
 またしても私の運命を大きく変える出会いが待っているなんて、この時の私はまだ知らない。

しおりを挟む
感想 1,477

あなたにおすすめの小説

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」と蔑んだ元婚約者へ。今、私は氷帝陛下の隣で大陸一の幸せを掴んでいます。

椎名シナ
恋愛
「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」 ーーかつて私、エリアーナ・フォン・クライネルは、婚約者であったクラウヴェルト王国第一王子アルフォンスにそう蔑まれ、偽りの聖女マリアベルの奸計によって全てを奪われ、追放されましたわ。ええ、ええ、あの時の絶望と屈辱、今でも鮮明に覚えていますとも。 ですが、ご心配なく。そんな私を拾い上げ、その凍てつくような瞳の奥に熱い情熱を秘めた隣国ヴァルエンデ帝国の若き皇帝、カイザー陛下が「お前こそが、我が探し求めた唯一無二の宝だ」と、それはもう、息もできないほどの熱烈な求愛と、とろけるような溺愛で私を包み込んでくださっているのですもの。 今ではヴァルエンデ帝国の皇后として、かつて「無能」と罵られた私の知識と才能は大陸全土を驚かせ、帝国にかつてない繁栄をもたらしていますのよ。あら、風の噂では、私を捨てたクラウヴェルト王国は、偽聖女の力が消え失せ、今や滅亡寸前だとか? 「エリアーナさえいれば」ですって? これは、どん底に突き落とされた令嬢が、絶対的な権力と愛を手に入れ、かつて自分を見下した愚か者たちに華麗なる鉄槌を下し、大陸一の幸せを掴み取る、痛快極まりない逆転ざまぁ&極甘溺愛ストーリー。 さあ、元婚約者のアルフォンス様? 私の「穀潰し」ぶりが、どれほどのものだったか、その目でとくとご覧にいれますわ。もっとも、今のあなたに、その資格があるのかしら? ――え? ヴァルエンデ帝国からの公式声明? 「エリアーナ皇女殿下のご生誕を祝福し、クラウヴェルト王国には『適切な対応』を求める」ですって……?

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました

ほーみ
恋愛
 その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。 「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」  そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。 「……は?」  まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

処理中です...