王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

文字の大きさ
152 / 356

152. 悪役夫人は愉快に嘲笑う

しおりを挟む


(もう!  せっかく衝撃的な事実が判明したところだったのに!)

 大親友との絆をさらに深めようとするのを邪魔するなんて!
 もっと、“悪女は今日も愉快に嘲笑う”について語らせて欲しかったわ。

 そんな思いで私は、息を吹き返したフラ父の方に顔を向ける。

「……何か?」

 フラ父の顔がカッと真っ赤になり、ぐったり中の息子フラフラ男を指さしながら再び怒鳴った。
 その声は、被害者令嬢たちも何事かと立ち止まってしまうほど大きかった。

「────息子を……こんなにしおって!」
「こんな、とは?」
「見てわかるだろう!?  心にも体にも大きなダメージを負った!」
「まあ、嫌ですわ。人聞きの悪いことを仰らないでくださいませ?」

 私はフッと鼻で笑う。
 そして目一杯悪女っぽい微笑みを浮かべた。

(……そう。ここは崖、悪女が愉快に嘲笑うあの崖よ!)

「何を言う!  夫人……貴様、今日は最初から我々を嵌めるつもりで呼んだのだろう───」
「ホーホッホッホッ!  私は忠告しましたわ。どうなっても自業自得だと」

(ふふん!  なかなかいい感じの高笑いが出来たわ!  どう!  悪女っぽいでしょう?)

 私は豪快に高笑いしながらチラッと、リシャール様とアニエス様に視線を向ける。
 リシャール様は私を凝視しながらポツリと呟く。

「フルール……ノリノリじゃないか。これは、もしかして崖の上とやらで高笑いしているつもりになっているのか……?」
「なんてことなのフルール様……今日の装いも相成って再現度が高いわ」

(いい反応ね!)

 どうやら、二人にはいい感じにこの場が崖の上に見えているよう。
 それならば───崖の上の悪役夫人フルール……このままどんどん突っ走るわよ!!

 私はニヤリと妖しく微笑む。

「──閣下?  あなたの息子さんが、こちらにいらっしゃる可憐で純粋なご令嬢たちに何をしたのかは聞いたのでしょう?」

 集まった令嬢たちの視線も受けてフラ父が押し黙る。

「……ぐっ」
「私は、あくまでも真実を明らかにするために、この場を提供したに過ぎませんわ」

 コツコツコツと私は靴のヒールの音を鳴らしながらフラ父とフラフラ男の元へと近付いていく。

(ん~、悪役っぽくて気持ちいい音だわ!)

「……し、真実……」

 近付いてくる私から気まずそうに目を背けるフラ父。

「ふふ、どうでした?」

 私は再び妖しくニヤリと笑いながら訊ねる。

「っ……!」
「息子さんは閣下によく似た、顔だけで、中身がなく薄っぺらい愛の言葉が寒くて優柔不断でエスコートが下手な口だけ男なのだと明らかになったのでしょう?」
「~~~~っ!」

 フラ父が先日同様、悔しそうに唇をギリッと噛んだ時だった。
 ──ぐはぁ!
 横からそんな声を上げたのはフラフラ男。
 フラフラ男は苦しそうに胸を押さえ、無駄なキラキラを失いボコボコになった別人のような顔を私に向ける。
 顔は真っ青だし、なんなら目には涙も浮かべていた。

「……夫人、き、君はとんでもない悪女だな!」
「はい?」

 フラフラ男のその言葉に驚いた私は目を大きく見開く。

(悪女……悪女と言われたわ!  これはラストシーンね!)

 悪女は今日も愉快に嘲笑う───のお決まりのラストシーンで必ず言われるセリフ。
 私はフフッと鼻で笑う。

「まあ!  私が悪女ですって?」 
「あ、ああ、そうだ……旦那では満足出来ていないなどと言って俺を誘い出しその気にさせておいて……」
「……」

(ん?  旦那様で満足出来ていない?  何の話?)

 リシャール様に不満なんて無いのだけど?
 とりあえず、このまま続きを聞くことにする。

「だが実際は俺を弄んだ……実に手慣れているじゃないか。どうせ!  普段からそうやって男を誘っては破滅に導いて嘲笑っているのだろう!?」

(フラフラ男の言っていることの半分も分からなかったけれど、とりあえず、よくあるセリフが来たので大丈夫!  このまま続けることにするわ!)

「ホーホッホッホ!  あなたまさか今更、気付きましたの?」
「く……だが、いいのか!  今、この場には君の夫がいて夫人のした悪事が全て聞かれているんだぞ!」
「!」

 私はその言葉にハッとする。

(すごいわ、フラフラ男……悪役の求めているセリフをありがとう!)

 実はフラフラ男も愛読者かと勘違いしたくなるくらい私の求めているセリフを言ってくれる。
 そんな歓喜に震えた私の感動を動揺と受け止めたのか、フラフラ男は最後の気力を振り絞って悪役夫人フルールを糾弾しようと追及を続けた。

「ははは!  このままなら夫人だって愛する夫に捨てられ身の破滅だ!」
「そうだな!  いくら公爵でもこんな悪女を妻にしたと知れば公爵家の恥だからな! 悪妻は離縁されてしまうがいい!」

(本当にそっくりな親子ね!)

 フラ父も元気よく息子の主張に同意してきた、その時だった。

「────離縁?  何を言っている?  僕がそんなことをするわけないだろう?」

 そう言ってこちらにやって来て私の隣に並んだリシャール様が肩に腕を回して私を抱き寄せる。
 私はクスッと笑って愛しいリシャール様を見上げた。
 リシャール様は無言でいつもの国宝級の微笑みを私に向ける。

「り、離縁しないだとーー!?  公爵、それは正気か!」
「ち、父上の言う通りだ!  夫人は夫に内緒で俺を誘惑しようとしたとんでもない悪女なんだぞ!」

 二人の主張をリシャール様はあっさりと笑い飛ばした。

「ははは!  残念ながら僕は妻のこの(一生懸命頑張って演じている)悪女っぷりも愛していますからね」
「なっ!  愛している!?」
「リシャール殿!?」
「ええ。僕の妻はこういう(予測のつかないことをしでかす)所がとっても可愛いのでね」

 リシャール様はそう言いながら、チュッと私の頬にキスをする。

「なっ、何をしているんだ!  その悪妻のことが、か、可愛いだと!?」

 この行動にフラ父は慌てだし、フラフラ男もリシャール様に向かって怒鳴る。

「本気で言っているのか!  リシャール殿!」
「もちろん。とっても愛しくて──可愛い」
「……っ!」
「嘘……だろ……」

 リシャール様の言葉に二人が愕然とする。
 悪役夫人フルールの弱みを握って責め立てるつもりだったようだけど……残念ね!

(すごいわ、リシャール様!  最高のアシストをありがとう!)

 私は最高のラストシーンへと向かうべくこれまでで一番高らかに笑う。

「オーホッホッホ!  残念でしたわね?  夫はもうすでに私の虜ですの!」

(一度は言ってみたかったこのセリフ!)

「くっ……」
「……虜」

 悔しそうな親子二人に、悪役夫人フルールは最高の笑顔を向ける。

「この私と張り合って破滅に導く?  なんて身の程知らずなのかしら……ふふ」
「……っ」
「くっ……夫人っ!!」
「さあ───もう大人しくお帰りになって、さっさとこちらの皆様への慰謝料支払いの準備でも始めたらどうです?」


 崖の上にいるつもりの悪役夫人フルールは愉快に嘲笑った。
しおりを挟む
感想 1,477

あなたにおすすめの小説

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」と蔑んだ元婚約者へ。今、私は氷帝陛下の隣で大陸一の幸せを掴んでいます。

椎名シナ
恋愛
「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」 ーーかつて私、エリアーナ・フォン・クライネルは、婚約者であったクラウヴェルト王国第一王子アルフォンスにそう蔑まれ、偽りの聖女マリアベルの奸計によって全てを奪われ、追放されましたわ。ええ、ええ、あの時の絶望と屈辱、今でも鮮明に覚えていますとも。 ですが、ご心配なく。そんな私を拾い上げ、その凍てつくような瞳の奥に熱い情熱を秘めた隣国ヴァルエンデ帝国の若き皇帝、カイザー陛下が「お前こそが、我が探し求めた唯一無二の宝だ」と、それはもう、息もできないほどの熱烈な求愛と、とろけるような溺愛で私を包み込んでくださっているのですもの。 今ではヴァルエンデ帝国の皇后として、かつて「無能」と罵られた私の知識と才能は大陸全土を驚かせ、帝国にかつてない繁栄をもたらしていますのよ。あら、風の噂では、私を捨てたクラウヴェルト王国は、偽聖女の力が消え失せ、今や滅亡寸前だとか? 「エリアーナさえいれば」ですって? これは、どん底に突き落とされた令嬢が、絶対的な権力と愛を手に入れ、かつて自分を見下した愚か者たちに華麗なる鉄槌を下し、大陸一の幸せを掴み取る、痛快極まりない逆転ざまぁ&極甘溺愛ストーリー。 さあ、元婚約者のアルフォンス様? 私の「穀潰し」ぶりが、どれほどのものだったか、その目でとくとご覧にいれますわ。もっとも、今のあなたに、その資格があるのかしら? ――え? ヴァルエンデ帝国からの公式声明? 「エリアーナ皇女殿下のご生誕を祝福し、クラウヴェルト王国には『適切な対応』を求める」ですって……?

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました

ほーみ
恋愛
 その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。 「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」  そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。 「……は?」  まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

処理中です...