184 / 356
184. 大親友の幼馴染
しおりを挟む「そ、そんな……」
「ホホホ! まだまだ若い子に負けたりなんかしないわ!」
ガクッとその場に崩れて膝をついたのは、オリアンヌお姉様。
───つまり、勝者は……
「お、お母様……!」
嫁姑対決の結果は姑の勝利だった。
お母様は静かに勝利の舞Ver.2を踊り出す。
その優雅な踊りに観戦者たちも目を奪われた。
「やっぱりフルールの母君だなー……」
リシャール様がしみじみと呟く。
「はい! 意外でしたわ……」
シャンボン伯爵家で一番、怒らせてはいけないのはお母様。
私の感じていた本能に間違いはなかった。
(私も負けていられませんわ!!)
次の戦いは私!
しかもお相手は大親友アニエス様の幼馴染。
そして、辺境伯騎士の最強と呼ばれる人───
メラメラしながら対戦相手のナタナエル様に目を向けると、ニコニコした顔で拍手しながらお母様の勝利の舞を見つめている。
「フルール、大丈夫?」
「大丈夫ですわ! アニエス様の大親友として幼馴染であろうと簡単に負けるわけにはいきませんの」
「フルール……」
「付き合いの長さには勝てませんが、思いの深さは負けませんから!」
私が胸を張るとリシャール様が苦笑する。
「伯爵令嬢が聞いていたら泣いてしまいそうな言葉だ」
「そうですわね! 嬉しくてアニエス様、大感激ですわ」
「…………ウン」
「では、行って参りますわ。旦那様!」
リシャール様はほんの一瞬だけ固まっていたような気がしたけれど笑顔で手を振ってくれた。
───トップクラスの若手最強の騎士。
彼を倒せれば、きっと私も一気に最強の公爵夫人までひとっ走りよ!
気合いを入れた私が勝負の場に到着すると、ちょうどナタナエル様も到着した所だった。
その向こうにアニエス様の姿が見える。
(あら? アニエス様の顔が赤いような……?)
休憩の間も嫁姑対決の間もこちらのナタナエル様と一緒に居たのは知っていたけれど……
そこでハッと気付く。
───アニエス様、大親友の私と幼馴染の彼が争うから、どっちもを応援したらいいのか分からず、ぐるぐる悩んで悩んで悩みすぎて熱が出てしまったのかも。
(大丈夫かしら?)
「ああ……なんか色々話していたらさ、赤くなっちゃったんだ」
「え?」
ナタナエル様の言葉に顔を上げると目が合った。
「アニエスのことだよ」
「まあ! そうでしたのね? なら、久しぶりに幼馴染であるナタナエル様とお会い出来て話せて嬉しかったのですね!」
「!」
私が笑顔でそう答えたら彼はパアッと嬉しそうに笑った。
「そうか! やっぱり? ……貴女もそう思う?」
「ええ! もちろんですわ! 私には分かります……!」
ナタナエル様の言葉に私も胸を張って大きく頷く。
「ああ、良かった。“なによ、何なのよ、突然帰ってくるなんて聞いてないわよ!” ───顔を背けてそう言われたけど」
「ふふふ、それは、“なんで? どうして? 突然帰って来るなんて心の準備が出来ていなかったわ、恥ずかしい、でも嬉しい!”……ですわね!」
「!」
またしてもパアッと顔を明るくして嬉しそうに笑った。
「他にも、“何がわたしの手が大事だからよ! 知ったようなことを言わないで!”って顔を赤くして憤慨していたけれど……」
「まあ! それは───“わたしが手を大事にしていること……知ってくれていたのね!”という嬉し恥ずかしい気持ちから出た言葉と表情ですわね」
「!」
私がそう答えると彼はますます嬉しそうに笑った。
「そうなんだよ! 俺もそう思ったんだ……良かった、やっぱり俺は間違っていないみたいだね!」
「ええ! 間違っていませんわ! 大親友の私が断言します!」
「───モンタニエ公爵夫人!」
「ナタナエル様!」
私たちは互いの手を突き出して固い握手を交わす。
素晴らしいわ! さすが幼馴染。
アニエス様の理解度がとても高い!
私が心の中で大感激していると横からおそるおそる声がかかる。
「お二人共…………すみませんが、握手ではなく手を組んで頂けませんかね?」
試合が始められないと審判に怒られた。
「あのアニエスに親友? と、聞いた時は驚いたけれど」
「訂正を求めますわ。大親友ですの」
手を組みながら試合開始の合図を待っている間も、私たちのアニエス様トークは終わらない。
「昔から、アニエスは誤解されがちだったから、まさかこんなに理解の深い人が居たなんて夢みたいだ」
「どうして皆様には分からないのでしょうね。アニエス様はあんなに可愛らしいのに」
「───そうなんだよ!」
私たちはチラッとアニエス様を見る。
アニエス様はこっちを見ながら顔を真っ赤にして泣きそうなくらい身体を震わせて喜んでいる。
「どうやら私たちの会話を聞いて感激してくれていますわ!」
「え? 本当だ。それは嬉しいね!」
私たちが微笑ましい気持ちでアニエス様を見ていたら、再び横からおそるおそる声がかかる。
「あの…………そろそろ、試合開始してもいいですかね?」
また、審判に怒られた。
(───くっ! 強いわ)
ようやく試合が開始された。
アニエス様との戦いの時に見せたピリッとした空気を出されると危ない──
本能でそう感じていた私は、先制攻撃を仕掛けようと思ったけれど上手くいかなかった。
(さすが、ニコレット様も認める男!)
なぜかニコレット様の食指は動かなかったそうだけども。
(ふふ、楽しいわ!!)
私がニコニコしているとナタナエル様もニコニコしながら笑っていた。
「……ぬるま湯につかったようにたるんでいた仲間の騎士たちが」
「え?」
「前に、ニコレット様について王都に行って帰って来たら別人みたいに鍛錬に集中するようになっていて」
ナタナエル様がニコニコ顔のまま語り出す。
「王都に行ってどんな心境の変化があったのかと思ったら」
「……」
「ニコレット様に弟子入りしていた見た目はか弱そうな令嬢に負けた……と悔しがっていたから本当に驚いたんだ」
「まあ! 懐かしい話ですわね」
あの時、共に汗を流した騎士たちも本日、何人かは参加してくれている。
早々に敗退してしまったようだけど、令嬢たちと楽しそうに観戦している様子が見て取れる。
「この大会、アニエスが参加していることにも驚いたけど……」
「はい」
「勝っても負けても皆、楽しそうなのがいいよね」
ナタナエル様はキョロキョロと会場内を見渡してそう口にする。
私は今、完全に防戦一方となっているのに……なんて余裕なの……!
(若手最強の……その名の通りだわ!!)
「先ほど、勝利した夫人なんてまだ楽しそうにクルクル踊っているよ?」
「私の母ですわ」
「へぇ? なら、貴女が強いのは血筋かな? 正直驚いている。最強の家族だね」
ピクッ
“最強”という言葉に私の身体が反応する。
(そうよ! 私は、最強の公爵夫人を目指すフルールよーーーー!)
私はグッと力を込めた。
282
あなたにおすすめの小説
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります
秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。
そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。
「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」
聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」と蔑んだ元婚約者へ。今、私は氷帝陛下の隣で大陸一の幸せを掴んでいます。
椎名シナ
恋愛
「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」
ーーかつて私、エリアーナ・フォン・クライネルは、婚約者であったクラウヴェルト王国第一王子アルフォンスにそう蔑まれ、偽りの聖女マリアベルの奸計によって全てを奪われ、追放されましたわ。ええ、ええ、あの時の絶望と屈辱、今でも鮮明に覚えていますとも。
ですが、ご心配なく。そんな私を拾い上げ、その凍てつくような瞳の奥に熱い情熱を秘めた隣国ヴァルエンデ帝国の若き皇帝、カイザー陛下が「お前こそが、我が探し求めた唯一無二の宝だ」と、それはもう、息もできないほどの熱烈な求愛と、とろけるような溺愛で私を包み込んでくださっているのですもの。
今ではヴァルエンデ帝国の皇后として、かつて「無能」と罵られた私の知識と才能は大陸全土を驚かせ、帝国にかつてない繁栄をもたらしていますのよ。あら、風の噂では、私を捨てたクラウヴェルト王国は、偽聖女の力が消え失せ、今や滅亡寸前だとか? 「エリアーナさえいれば」ですって?
これは、どん底に突き落とされた令嬢が、絶対的な権力と愛を手に入れ、かつて自分を見下した愚か者たちに華麗なる鉄槌を下し、大陸一の幸せを掴み取る、痛快極まりない逆転ざまぁ&極甘溺愛ストーリー。
さあ、元婚約者のアルフォンス様? 私の「穀潰し」ぶりが、どれほどのものだったか、その目でとくとご覧にいれますわ。もっとも、今のあなたに、その資格があるのかしら?
――え? ヴァルエンデ帝国からの公式声明? 「エリアーナ皇女殿下のご生誕を祝福し、クラウヴェルト王国には『適切な対応』を求める」ですって……?
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました
ほーみ
恋愛
その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。
「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」
そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。
「……は?」
まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。
〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。
藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。
そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。
私がいなければ、あなたはおしまいです。
国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。
設定はゆるゆるです。
本編8話で完結になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる