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 産まれてから、いまに至るまで。一度だって侮辱されたことのないパメラ。何をしても許される環境で育ったパメラにとって、ヘイデンの言葉は信じられないものだった。

 加えて。

 マイラが宮殿に住むようになってから、大っぴらにストレス発散できる相手がいない日々。そして学園に来てから半日味わった、いわれのないクラスメイトの腹立たしい態度。

 パメラの中で、何かがぷつりと切れる音がした。


 パメラはテーブルに置いてある、紅茶の入ったカップを手に持つと、中身がこぼれることも構わず、無表情のままそれをヘイデンに投げつけた。

 カップはヘイデンの左頬を横切ると、うしろにある柱にあたり、粉々に砕け散った──が、それだけはすまなかった。

 ヘイデンがとっさに顔を左に向けてしまったため、粉々に散ったカップの破片が、ヘイデンの左目のまわりに、眼球に、刺さってしまった。

「……あ、ああああああああっっ!!!」

 ヘイデンが左目を左手で押さえ、絶叫する。その叫びに、食堂にいた全員がそこに視線を向けた。パメラは我に返ったように、口元を両手で覆っていた。見る間に顔から、血の気が引いていく。

 ヘイデンの左手の隙間から、血が滴ってくる。パメラはヘイデンの傍にきたはいいが、どうしていいかわからず、パニックになる。

「だ、誰か! お医者様を──」

 まわりにいる生徒たちに助けを求めるパメラの前に、椅子に座っていたヘイデンが立ち上がった。殺意を宿した右目で、パメラを睨み付けている。

「…………ひっ!」

 掠れた悲鳴をあげ、後退るパメラ。そんなパメラの左頬を、ヘイデンは躊躇うことなく、こぶしで殴った。加減などないそのこぶしに、パメラの身体は僅かに浮き、音をたてながら床に倒れた。

 しん。
 一瞬、水を打ったように食堂が静まり返った。医者を呼びに行こうとしていた生徒も足を止め、全員がただ、ヘイデンを見ていた。

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