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「いえ、あの。アグネという方はどうされたのですか?」

 とたん、ミッチェルはあからさまに「……聞いてくれるかい?」と顔を曇らせた。


 エノーラとは別れてきたよ。そう報告したとき、アグネはとても喜んだ。けれど──。

『学園を卒業すれば、ぼくは平民だ。最初は大変だろうけど、二人ならきっと頑張れるよね』

 そう言うやいなや、アグネの表情が固まった。どういう意味ですかと問われ、ミッチェルはありのままを説明した。

 ──そして次の日。

『あの……お父様が、いずれ平民となる男との婚約など認めないとおっしゃられて……』

 アグネの言葉に、ミッチェルは激怒した。

『は? きみが言ったんじゃないか。家を追い出されてでも、ぼくと生きたいって!!』

『……だって……まさか本気にされるとは誰も思わないではないですか……』

 すみません、そういうわけですので。
 アグネはそう言って立ち去った。それから学園でミッチェルと顔を合わせるなり、慌てて逃げるようになったそうで。


「あんな女だったなんてね。ぼくが間違っていたよ。ぼくにはやっぱり、エノーラしかいない」

 真剣に、真面目な顔でミッチェルが語る。エノーラは呆れから、何も言えない。

「ぼくはまだ、ヴォルフ伯爵家の長男だ。きみと結婚するのなら、父上も、ぼくが爵位を継ぐことを許してくれるだろう。小さなころからそう教育されてきたのだから、やはり父上たちも、ぼくに家を継いでほしいと望んでいるはずだ」

 ミッチェルはエノーラの両手を、そっと掴んだ。

「エノーラ、愛しているよ。やり直そう。そしてヴォルフ伯爵家を、一緒に支えていこう」


 カーンコーン。カーンコーン。
 鐘の音が、校舎内に響いた。

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