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しおりを挟むパストラーナ伯爵家の人々と顔を合わせた時、少し泣きそうになってしまった。
同じ出来事や会話が繰り返されて、再びあれは夢じゃなかったと実感してしまったから。
あの時の私も子供もきっと……。
神様がもう一度チャンスを与えてくれたのなら、今度は自分の頭で考えたい。
前と同じく父はすぐに帰り、パストラーナ伯爵家の人々にものすごく気遣われてしまった。
巻き戻る前よりも幼い印象を与えてしまったかもしれない。でもそれでよかったみたい。
社交界へのデビューは1年延ばしてもらえて、17歳になってから初めて出席したパーティには、出産後のクララ姉様もいてくれた。
「大丈夫よ、ローラ。にっこり笑って」
姉の顔を見ていたら、本当に大丈夫な気がした。すごく心強い。
それに、ラウデリーノ様と1年一緒に生活した分、前と違って親しさも深まったと思う。
「ローラ、一曲踊ろう」
「はい、ラウデリーノ様」
ダンスはやっぱり緊張したけれど、ラウデリーノ様のリードは踊りやすかったし、姉が注意深くて飲み物をこぼすこともなく、無事に過ごせてほっとする。
それでも帰りの馬車でラウデリーノ様とお互いにパーティは好きじゃないと話し合って、これからも最低限のみ出席することになった。
時間が巻き戻る前より驚くほどうまくいっている。
1年後の18歳で結婚した時は、私から白い結婚を申し入れた。
ラウデリーノ様はいつも通り落ち着いた様子で耳を傾けてくれる。
話しやすい雰囲気だったのもあって、ミゲルのことを隠しておくのが申し訳なく思って打ち明けてしまった。
私達は夫婦というより兄妹の関係に近いかもしれない。とはいえ、正直に言いすぎたかも、とうろたえる私にあっさり言う。
「わかった」
「……図々しいことを言ってごめんなさい」
「いや、ラギナ子爵家の援助と、ローラが用意してくれた本のおかげで、予想したより早く立ち直れそうだ。それにもっと本に載っていたことを試したい」
そう言ってもらえてほっとする。
「他には? まだ言いたいことがありそうだ」
「その、私……結婚して3年経ったら、子供ができないことを理由に離縁してほしいです」
「……白い結婚なのに?」
ラウデリーノ様が眉を上げた。
夫だと思うと気後れしてしまうけれど、兄だと思うととても頼りになる。
「はい、無理を言ってごめんなさい。でも、そうじゃないと父に再婚しろと言われると思うので」
「……ローラにとって良くないと思う。それに、すでに子供のいる後妻にと言われる可能性もある」
それは思いつかなくて、はっと息を呑んだ。
「相手はあと3年待つと言っているのか?」
「はい。今、隣国に留学中なんです。あちらで高度な学問をおさめて、仕事と住まいを決めなくてはいけないので……」
今も月に一度、手紙のやり取りを続けている。
ミゲルはひたすら勉学に励んでいるみたいで、いつも結びは準備を終えたら迎えにいくと書いてあった。
「そうか……」
「もし、彼が心変わりして迎えにこなくても、私は3年後に離縁してほしいです」
ラウデリーノ様は少し困ったように笑った。失礼なことを言ってしまったかも、そう思って口を開いたけど、彼が先に話し出す。
「もしも、相手が迎えに来れなくなったら、その時はまた話し合おう」
「はい……わがままばかり言ってごめんなさい」
勝手なことばかり言っているのに彼は少しも怒らない。今は集中して葡萄畑に取り組みたいから、後継のことは急がないのだとも。
「ローラこそいきなり連れてこられて大変だっただろう。それなのに、領地のためにありがとう」
「……皆さまが優しくしてくださったからです」
突然割り込んで婚約者になった私に、嫌な態度をとる人がこの地にはいなかった。
今回は侍女のパウラも来てくれたし、月に一度のミゲルとの手紙のやり取りも心強かったから――。
「ラウデリーノ様、今しばらくよろしくお願いします」
そうして、私達は白い結婚を続けた。
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