元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第七章 ギルドと集団暴走

223 飛べるの?

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その日、ゲンの薬屋へやってきたテンキは、ナチと昼食に出かけるのを待っていた。

「では、その冒険者の方々はユースールを探りにきたと?」

テンキは、以前幼くなったコウヤへと絡んできたベルセンからやってきた男たちをお仕置きした。その時に、何かを探りに来たような、そういう誰かの意図を感じたためだった。

かなりユースールにも慣れてきた彼らが、改めて告白してきたらしい。

《点数稼ぎだなんだと言っていましたし、前衛の二人はあの時、腕に怪我をしていました。なんとか生活する分には使えるようになっていますが、あれは、中途半端に治療された後ですね。それと、一人は魔法薬中毒でしょう。常に体に変調を来すほどまでいっています》

前衛役の二人は、無理に利き腕でない手で得物を振るっている印象だった。青い顔をしていた青年は、貧血などの症状が常に出てしまうほど酷い魔法薬中毒だと見られる。

「コウヤ様……気にされるでしょうね」
《主のことです、だから彼らに採取研修を勧めたのでしょう。食事もきちんと取れているようには見えませんでしたし、Eランクだと言っていましたが、実力的にはギリギリでした。この辺りで討伐依頼など受けられなかったので》

採取研修は、ナチ達が採取に出かけるついでに請け負っているものだ。説明などで時間は少し取られてしまうが、新人研修となんら変わらないので、特に問題はないと考えている。きちんと採取ができる者が増えるのは大歓迎だ。

「なるほど……でしたら、こちらで他の町のギルドや教会の関与を探ってみます。今はそういった事情の聞き上手なゼナさんもいらっしゃいますし」
《ああ、ゼナさんなら良さそうですね》

うんうんと頷き合う。そこにゼナがやってきた。

「なにか呼ばれたように感じたのですが……」
「あ、ゼナさん。さすがです。少しご相談が」

リウム達と共に聖魔教へ移動してきたゼナ。見た目の年齢は二十になるかどうかという少し幼い印象もある女性。背も低く、発育が悪いのは栄養状態が悪かったからだろう。本人的にはかなり気にしているらしい。

それもそのはず。実際はリウムの年齢にも近い三十歳。そして、リウムの相棒だ。人生においてもパートナーになりたいとリウムに想いを寄せる一途な女性だった。ただし、見た目のせいで受け入れたリウムにも疑惑の目が向けられかねないため、不本意ながら口にすることはない。

このゼナ。とても勘が良いと評判だった。実際に『予知』スキルもある。そして、このユースールの神官特有の実践訓練を受けた結果、身体能力も高いことが分かった。因みに、ゼナの憧れの人はサーナだ。『お姉様』と呼んで慕っている。弟子にするのもやぶさかではないというのが、サーナの評価だった。

ゼナのような予知スキルはないが、彼らがまた採取研修を受けることはナチも確信したため、ゼナに事情を話す。

「……なるほど。承知しました。では、探ってみます。お姉様にも私の方から報告を上げておきましょう」
「はい。よろしくお願いします」

これにより、調査が密かに開始された。


◆  ◆  ◆

ギルドに入る前にコウヤはゲンの薬屋に寄った。実は、コウヤが小さくなっている間、レナルカを預けていたのだ。昼間の忙しい時間はギルドのマリーファルニェに預け、夜はナチが引き取る。そうやって世話を任せてしまった。

「おはようございますナチさん」
「コウヤ様っ。良かった。戻られたんですね」
「ええ。今日からバリバリ働きますよっ」
「……十分バリバリ働いていたような……いえ。あ、レナルカちゃんを連れていかれます?」
「はい。すみません。任せてしまって」
「いえ。夜にレナルカちゃんが居てくれると、患者さん達が落ち着いて眠れるようでしたので、こちらとしては助かっていました」
「ん?」

どういう意味だろうかと問うように見つめれば、ナチがクスクスと笑った。

「怪我人の方は夜になるとこれからのことなどを考えて不安になるみたいで、その時にレナルカちゃんを見ると、ほっとするというか……思考に沈むことがなくて落ち着いて眠れるんです」
「なるほど……そうでしたか。寝てるだけだと、余計なこと考えちゃいますもんね」
「そうですね。なので、よろしければ定期的に預からせていただけないかと」
「う~ん。そうですね。レナルカが大丈夫そうなら」
「はい。様子を見てということで。あ、連れてきますねっ、あっ」
「へ?」

ナチが奥の扉を開けた途端、そこからレナルカが飛び出してきた。

「まぁ~」

レナルカは飛んでいた。体は人の一歳児に届くかどうかというもの。だが、意思をしっかりと持った瞳に気付く。そして、背中から出ている羽でゆらゆらと不安定ながらも宙を飛んでいたのだ。

コウヤは体当たりするように飛んできたレナルカを抱きとめる。

「わわっ。びっくりした。え? 飛べるの?」
「きゃ~ぁ♪」

喜んでいる。

「レナルカ? 飛べるようになったの?」
「……あいっ」

じっとこちらを見つめた後、言葉の意味を理解したというように返事をした。

「獣人族などは成長が早いといいますが……本当に早いですね」

ナチが感心しながら頷く。

「最初っから首も据わってたし……お座りも一週間くらいで出来てたよね……もう立てるのかな?」

コウヤが抱き上げながら考え込む。そこでナチが遠慮しながら告げた。

「あの……三日前くらいから歩いてますよ? こちらへ来た時には掴まり立ちしてましたし……師匠が靴を注文していたはずです」
「え? あ、ゲンさんが?」

どうも、ゲンは不器用にもレナルカを可愛がってくれていたらしい。立てると知ってすぐに幼児用の靴を注文してくれたという。

「それは……申し訳ないですね」
「いえ。師匠も嬉しそうでしたので、出来上がりましたら受け取ってください。その方が師匠も喜びます」
「そうですか? レナルカ、よかったね」
「じぃじっ」
「え!?」

じっとコウヤの顔を見上げていたレナルカが、嬉しそうに口にする。

「じ……じぃじって……」
「師匠のことですよ。ふふっ。それで師匠がメロメロになってしまって」
「わ~……」
「まぁまっ」
「……えっと……」
「それはコウヤ様のことだと思いますよ? 今まで言いませんでしたし」
「まぁま!」
「そっか……」

パパ呼びを期待していたコウヤとしてはちょっと残念だ。

「じゃあ、行こうかレナルカ」
「あいっ」

タイミング良く返事したわけじゃないよねと思いながらも、コウヤはレナルカを引き取って薬屋を出た。

「ルー君、ここまででいいよ?」
「うん……ちょっとベルセンまで行ってくる」
「調査?」
「そう。不正とかの証拠があれば、先に回収しとこうと思って」
「そっか。わかった。あ、そうだ。コレを渡そうと思ってたんだ」

コウヤは艶消しした銀の腕輪を差し出す。

「これは?」
「ほら、俺とお揃いでバイクの代わりになるやつ」
「っ!? できたの!?」
「ちょっと時間かかっちゃったけどね。『グラビティボード』略して『グラボ』かな。風じゃなくて重力操作にしたんだ。完全な無音になるよ。もちろん、水の中も行ける。乗り方とかは、出して触ってみれば分かるようにしておいたから」
「ありがとう兄さんっ! 行ってきます!」
「行ってらしゃい。気を付けてね~」
「はい!」

相当嬉しかったのか、とっても素直な返事が返ってきてコウヤはクスクスと笑った。隠密行動を得意とするルディエのために色々と仕掛けも満載だ。ちょっと調子に乗り過ぎた感もあるが、あれだけ喜ばれてしまったのだ。反省はしないことにした。

「さてと、レナルカ。またマリーちゃんの所に居てくれる?」
「あいっ」
「休憩の時とかは行くからね。今日は戦闘講習なんだ。久し振りに体を動かせるかな~」
《主様……戻ったばかりです。無理はされませんように》
「気をつけるよ」

テンキの注意を聞きながらギルドに入る。

「おはようございま~す」
「ま~」

誰もが一瞬動きを止め、コウヤを見つめた後、詰めていたらしい息を吐いて動き出す。

「おぉ~。戻ったな」
「コウヤさんだ。やっぱりこうじゃないと」
「あ~、可愛かったけどなあ」
「バカ。コウヤちゃんはいつだって可愛いわよ」
「でも、子どもよかったよね~」
「よかったよな~」

しみじみ言われるとちょっと恥ずかしい。

「……子ども欲しいな……」
「結婚とか考えちゃうよね」
「そうそう。まじで、なあ……お、俺の子ども作って……っ」
「え? あ……か、考えて……みる……っ」
「マジで!? う、うん。考えてくれっ」
「いいな~」
「なら俺と……」
「もっと稼げるようになってから言って」
「あ、わ、わかったっ。必死で働く!」
「うん……っ」

なんだか続々とカップルが成立しだした。ギルドはちょっと異様な雰囲気になる。そこへ、マリーファルニェが唐突に現れた。

《じゃじゃ~ん♪ そんなあなたたちに『マリーちゃんの人生設計相談』どうかしらん?》
「「「「「人生設計相談?」」」」」

誰もが首を傾げている中、コウヤは嬉しそうにマリーファルニェを見ていた。

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