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第八章 学校と研修

321 変わられたなあ

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コウヤはそれぞれの支部の前にもモニターのように前線の様子を映し出して見せる。様々場所やアングルでそれぞれ五枚出している。

「これ、便利な魔法だね」

シンリームが感心して呟く。さすがに剣の稽古は受けているとはいえ、今日冒険者登録をした彼を前線に向かわせるわけにはいかない。残った騎士達は護衛だ。

「近いうちに魔導具として作る予定です。ミラ様やジル父さんにも、お披露目までに欲しいと言われたので」

テレビ中継のような、そんなことが出来たら良いなとは、ベルセンの集団暴走スタンピードの時に考えていた。そうして、多くの者の目に映し、対策を一人一人が考えられることが大事だと思ったのだ。

たまたまそういう話をし、建国祭の時などにも国王の顔なんかが遠くに居る民達にも見えたら良いのではないかとの考えを告げた。自国の国王の顔くらい知っておいてもらいたい。

ギルドでは、先駆けてテレビ電話のようにして、リモート会議も可能な魔導具は用意している。それを応用し、王都から遠く離れた場所でもそれが多くの人に見えるように出来たらいい。

今回の集団暴走スタンピードの様子などでも、一般人は知ることが出来ない。ただ縮こまっているというのは、ストレスだ。外の状況を確認できれば、いち早く避難指示などにも応えてもらえるだろう。

今も、前線の様子が見えたことで、領主の指示を受けて出ようとしてギルド職員と押し問答していた兵士達が沈黙した。

自分たちには無理だと分かったのだ。逆に領主の方へ連絡を走らせている。他の支部もそんな感じだろう。

この技術の有用性が証明されたなとほっとするコウヤだが、シンリームは違う角度で見ていたようだ。

「そっか。これなら、コウヤくんの可愛さを民達にもしっかり見せられるもんねっ。うん! 是非お願い!」
「えっと……はい」

そうか。そのために欲しいのかと、ここでコウヤはようやくジルファス達がお披露目までに欲しがっている理由に気付いた。

今日のリクトルスの様子もそうだが、子どもを撮影するというのは、親にとって何よりも重要な特別任務らしい。

早めに仕上げて、各所に丸投げしようと頭の中の予定を繰り上げた。

モニターを見ていると、そこにビジェとニールが映り込んだ。

「あ、二人も出てた」

いつの間にと目を丸くする。

「うわあ、ニールって宰相の書記官の一人だったよね? なんであんなに強いの……」

残っていた騎士達も、ニールの戦いぶりを見て驚いていた。

「ルー君も強いって言ってたけど、本当に強いね」
「強いなんてものじゃないよね!?」

ほわほわと緩い感じで感心するコウヤとは違い、シンリームの動揺はすごい。近衛騎士達も近付いてきて意見する。

「コウヤ様。アレは文官の動きじゃないですよっ」
「ユースールの文官のおかしさより酷いですって!」

ユースールから来た文官のおかしさは、既に知らない者が居ないほど、王城に知れ渡っていた。そろそろ、王城内の文官が全て、傘下に入っているのではと噂されている。セリネがコウヤにわざわざ『躾終わりました!』と報告して来たのが半月前のことなので、間違いない。

「う~ん、まあ、でも神官さん達と同じくらいってルー君も言ってたしね」
「教官が!? それ、異常ですから!!」

やはり、ニールの強さは異常らしい。

「うわあ……あれがコウヤ様の近衛に立候補したら、確実ですね……」
「一席減るな……また荒れるぞ」
「あれは筆頭だろ」

現在、お披露目の準備と並行して、コウヤの近衛騎士の選出も行っていた。調整のため、他の王族の近衛騎士も入れ替えが発生することになる。ジルファス付きだった近衛が数人コウヤ付きになり、新たに有望な者を他の騎士団から引き上げる。そうして、調整するのだ。

今ここに残っている近衛騎士は、シンリーム付きの者たちだ。他人事のように見ていられる。

そこで、思い出したようにシンリームが手を打った。

「ああ、でも確か彼は、コウヤ君の侍従長に立候補してたよね」
「それ、本当だったんですね。ベルナディオ宰相は許可したんでしょうか」

貴重な書記官を手放すのは心配だ。

「他の書記官達が渋ってるみたいだけどね。ただ、そろそろ各地に派遣した文官を呼び戻そうとしてるみたいだから、そこから新しい書記官も選べばいいとか言っていたよ」

領主の補佐をしているゼフィル達、庶民上がりの文官達。彼らを呼び出す算段を付けているようだ。折よく、王城の文官達の教育も終わっている。この機会に大きく人事の見直しをするつもりらしい。

「あ~、でも、戻ってくる文官達も、コウヤ君付きになりたいとか言いそう……」
「え? 文官は付かないですよね? 領地があるわけでもないですし」
「うん。だから、文官辞めて侍従になるんじゃない?」
「……」

ありそうだと思ってしまったコウヤはおかしくない。

そろそろ終わるかなという所で、一部の場所が騒がしくなった。

「ん? あの人たち……」
「なあに? どうかした?」

コウヤが気付いて目を向けた先には、ビジェと助けた三人を含めた国の関係者が本部に詰め寄る所だった。

「あれ、あの三人はお姫様とビジェの妹さんです」
「あの先頭の女性は?」
「知らないです」

三人は恐る恐るついて行っており、少し止めようとする素振りも見せているが、先頭を切ってきた女性が強気に怒鳴り込んでいくのが見えた。その女性は、ビジェの妹とあまり年齢は変わらないだろう。女性の周りの騎士達も険しい顔をしていた。

とはいえ、本部とは結界越しになるので、シールスとタリスは面倒くさそうに顔を出して、それに対応する。

コウヤは失礼とは思いつつも、こんな時に怒鳴り込んでくる迷惑な女性と認識し、遠目に鑑定をかけた。

「あ、どうやら彼女、ここの第一王女みたいです」

先に助けた少女達の様子から見ると、母親が違うのかもしれない。かなり遠慮している様子が見られた。

「へえ……なら、行ってみようか。力になれるかもしれないしね。何よりあの感じ、昔の母上を思い出すよ」

王女という肩書きがあるから、強気で向かって来る。その肩書きだけで生きてきた者なのだろう。世間知らずとも言う。

そんな彼女だから、他国の王子であるシンリームには強く出られないだろう。騎士達を引き連れて歩み寄って行くシンリームは、自信と余裕に満ちており、コウヤはなんだか感慨深く思った。

「変わられたなあ」

かつては、母親に抑えられることが当たり前で、どこか心細そうに見えたシンリーム。こうして外に出ることもあり得ないことだったはずだ。それが自然に、この場に冒険者登録までして出てきた。

なんだか子どもの成長を見る親のような気分になりながらも、コウヤは苦笑を浮かべて、彼の後を追った。

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