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ブカレス叔父の策略
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そこに現れたのが父、ルドガーの弟で今は街の商売で成功して多少金持ちになったブカレスだった。その小太りの体にぴっちりした高級な洋服を身に着け、脂ぎった指で鼻の下のひげをもてあそびながら言った。
「トーマスが死んだんだろう。もう領地の管理をするものはいなくなったんだ。でも、私がその仕事を引き継ぐから心配はいらない」
「叔父さんに任せるなんてだめだ!!」
ギュンターがブカレス叔父の前に出て、その腕を引っ張りながらいう。ルドガーが病床に付してから、一時期ブカレスに領地を任せていたことがある。その時の彼の判断ミスでボロジュネール家の借金は倍にまで膨れ上がった。
気が付いて介入したときには既に時遅く、借金はボロジュネール家の生活まで圧迫するようになっていた。その時、ミュリエルは覚悟を決めたのだ。将来、王帝魔術騎士になって家にお金を入れると・・・。
「うるさい、坊主。あっちに行け!!」
ブカレスはギュンターの手を思い切り振り払って、その小さな体は床に大きな音を立ててたたきつけられた。それを見たミュリエルの眼が光り、魔力が漏れ出す。
「おおっと、魔法学校に通っているものが、校外で魔法を許可なく使うと退学だぞ!」
それに気が付いたブカレスが脅しをかける。
「くっ!!!」
「何をしているブカレス!!」
そこに父、ルドガーが現れた。ベットから飛び出てきたようで、寝着を着たままの格好で、ローブも羽織らずに息を切らせながらブカレスを非難する目つきで睨む。
「ああルドガー兄さん。ギュンターが私にまとわりついてきたので少し教育をしたまでですよ。やはり母親がいないと子供はろくな風に育ちませんな」
昔は王宮の分官長として勤めていた時の精悍な姿は失われ、今はその栗色の髪には艶が無くなり、唇は乾燥して顔には生気がなかった。それでも子供を守ろうと、病床の身を押してベットから出てきたのだ。額には大粒の汗が光っている。
「お父様!!だめですわ。ちゃんと寝ていてください!」
「そうだ、もうこのボロジュネール家はどうにも立ちいかんだろう。いくら借金が残っていると思っているんだ?今日から私と息子のハンセルもここに住むよ。ミュリエルもいい年ごろだし、ハンセルと結婚して爵位はハンセルに継がせるのが一番いい」
ブカレスは下卑た笑いを浮かべて、ルドガーを一瞥してい言った。
何ですって?!あのハンセルと結婚?!!
ミュリエルは自分の耳を疑った。一度ハンセルと会った事がある。父親に似て嫌味で小太りで不潔な男だ。噂では仕事もろくにせず娼館に毎晩入り浸っているらしい。しかも現在34歳のおじさんだ!16歳のミュリエルとは年齢的にも釣り合うとは到底思われない。
「っくっ!!そんなの認められる訳ないわ!」
「そうは言うがミュリエル。この家の借金の半分は私が貸している金だ。今すぐ耳をそろえて返してもらってもいいんだぞ。それをお前の貧相な身一つで許してやろうというんだ。感謝してほしいくらいだ。もう今後は学園に行く必要もない。女は家で縫物でもしていろ」
ブカレスはそれを狙っていたのだ。ミュリエルは確信した。一度領地の経営を任せた時に作った借金はこの時の為にわざと作ったものなのだと、今更ながらに気が付いた。
なんて卑怯な男なんだろう。執事のトーマスは元の身分はブルカ男爵家の3男だった。なので今まで遠慮していたのだろうが、彼がいなくなった今、なんのしがらみもなくこの子爵家を乗っ取ることができる。
「おい、聞いているのかミュリエル。これからはそんな反抗的な態度は認めんからな。私を怒らせると女だろうが子供だろうが容赦はしないぞ」
そういいながらミュリエルの腕を掴み、引き寄せた。それを止めようと侍女のリリアンが間に割って入る。途端に大きな音がしてリリアンが床に倒れこんだ。ブカレスがリリアンの頬を殴ったのだ。ミュリエルがリリアンに駆け寄り抱き起す。
「こいつ侍女の分際で私にたてつこうなどと。主人が悪いと使用人のしつけも出来ていないようだな」
まるで汚いものが触れたかのように、自身の袖を手ではたく。ミュリエルはもう我慢の限界だった。ブカレスの思い通りになどさせるものか。ミュリエルは静かに立ち上がり、ブカレスを睨みつけながら言った。
「ブカレス叔父様。私、学園に恋人がいますの。お金持ちの貴族の方で卒業したら結婚する予定です。そうすれば彼の家からの援助が受けられますので、ギュンターが大きくなれば学園にもいれられますし、弟に爵位は継いでもらうつもりです。何といっても彼は直系の男子ですから」
そのミュリエルの言葉を一笑に付してブカレスがいう。
「はっはっはっ・・持参金もない女と結婚して、家の借金まで払ってくれるような金持ちの貴族などいるわけがないだろう。もしいるなら私の目の前に連れてきて証明してみろ。どうせできやしないくせに」
「いまは事情があって公にできない高貴な方ですの。でも卒業までには婚約して、卒業後には結婚式を挙げたいと約束しています」
とにかくこの話を1年間引き延ばせばいい。ミュリエルが王帝魔術騎士になりさえすれば、借金など3年もあれば完済するはずだ。本当のところをいえば毎日勉強ばかりにいそしんでいたミュリエルに、もちろん恋人なんていたこともない。しかも借金を肩代わりしてくれるほどの金持ちの貴族の存在などいるわけがなかった。全て時間稼ぎの為のはったりだった。
「ふん、そんな話を信じられると思うのか。冗談もたいがいにしろ」
「冗談じゃありませんわ、ブカレス叔父様。そうですね、こうしましょう。叔父様に借りたお金は倍にして返します。なのでそのお話はお断りしますわ」
ブカレスもその話がはったりであることには薄々気が付いていたが、万が一という事もある。その場合は爵位は手に入らないが借金が倍になって帰ってくる。もともとその借金も実際に金を貸したわけでもなく、だまして作らせた架空の借金だ。ミュリエルの提案はブカレスにとってそんなに悪い話ではなかった。
「よし、そこまで言うなら分かった。3か月だけ待ってやろう。それまでにその男を私の前に連れてこい。それで借金を返す書類にサインさせるんだ。それが出来なければ即刻、学園を辞めて帰ってきてハンセルと結婚式をあげろ。反抗は許さないぞ」
「ええ、覚悟の上です。ではもうお帰りください。トーマスを安心して眠らせてあげたいのです」
ミュリエルはブカレスに帰り道の扉を指さして、屋敷から出ていくように促した。ブカレスはいい取引っができたとばかりに微笑むと。笑いながらご機嫌で屋敷を去っていった。
「ふぅ、リリアン、ギュンター大丈夫だった?お父様も、早くベットにお戻りになってください」
してやったりとばかりに微笑んで皆に気を配るミュリエルにむかって、皆が同時に畳みかける様に叫ぶ。
「姉さま!そんな男の人がいたなんて聞いていませんよ!!」
「お嬢様、こんな約束をしてどうされるおつもりですか!ハンセル様と結婚する羽目になってもよろしいのですか!」
「ミュリエル!あんな嘘をついて、一体どうするつもりなんだ!!」
「「「「ミュリエル!!!」」」
ミュリエルは少し心配そうな表情を見せながらも、皆の手前ドヤ顔で言い切った。
「大丈夫!私そんなに容姿は悪くないと思うの。相手を選びさえしなければ男の一人や二人はどうにかなるわよ!任せといて!このボロジュネール子爵家をあんな奴にみすみす渡しはしないわよ」
特に息子のハンセル。あんな男に抱かれるくらいなら死んだ方がましだ。ミュリエルは背筋に悪寒が走るのを感じた。大丈夫。あと一年さえ乗り切ればボロジュネール子爵家は助かるのだ。
それには3か月で私を愛して、借金を返してくれる男性を見つけなければいけない。お金が無くて社交界にデビューもしていないミュリエルは、ジリアーニ学園でその男性を見つけるしか手がない。ミュリエルは気合いを入れて決意を新たにした。
その後トーマスの葬式を完璧に仕切ってから、ミュリエルはすぐに学園に戻った。期間は3か月しかないのだ、時間は一日でも惜しい。3か月後といえば丁度、ジリアーニ学園恒例の夏のダンスパーティーが開かれる頃だ。その時までに何が何でも恋人を捕まえなければいけない。
「お願い、誰でもいいから私を救って。そうしたら私の一生をあなたに捧げるわ。後悔は絶対にさせない。あなたを一生愛して幸せにすると誓うわ」
「トーマスが死んだんだろう。もう領地の管理をするものはいなくなったんだ。でも、私がその仕事を引き継ぐから心配はいらない」
「叔父さんに任せるなんてだめだ!!」
ギュンターがブカレス叔父の前に出て、その腕を引っ張りながらいう。ルドガーが病床に付してから、一時期ブカレスに領地を任せていたことがある。その時の彼の判断ミスでボロジュネール家の借金は倍にまで膨れ上がった。
気が付いて介入したときには既に時遅く、借金はボロジュネール家の生活まで圧迫するようになっていた。その時、ミュリエルは覚悟を決めたのだ。将来、王帝魔術騎士になって家にお金を入れると・・・。
「うるさい、坊主。あっちに行け!!」
ブカレスはギュンターの手を思い切り振り払って、その小さな体は床に大きな音を立ててたたきつけられた。それを見たミュリエルの眼が光り、魔力が漏れ出す。
「おおっと、魔法学校に通っているものが、校外で魔法を許可なく使うと退学だぞ!」
それに気が付いたブカレスが脅しをかける。
「くっ!!!」
「何をしているブカレス!!」
そこに父、ルドガーが現れた。ベットから飛び出てきたようで、寝着を着たままの格好で、ローブも羽織らずに息を切らせながらブカレスを非難する目つきで睨む。
「ああルドガー兄さん。ギュンターが私にまとわりついてきたので少し教育をしたまでですよ。やはり母親がいないと子供はろくな風に育ちませんな」
昔は王宮の分官長として勤めていた時の精悍な姿は失われ、今はその栗色の髪には艶が無くなり、唇は乾燥して顔には生気がなかった。それでも子供を守ろうと、病床の身を押してベットから出てきたのだ。額には大粒の汗が光っている。
「お父様!!だめですわ。ちゃんと寝ていてください!」
「そうだ、もうこのボロジュネール家はどうにも立ちいかんだろう。いくら借金が残っていると思っているんだ?今日から私と息子のハンセルもここに住むよ。ミュリエルもいい年ごろだし、ハンセルと結婚して爵位はハンセルに継がせるのが一番いい」
ブカレスは下卑た笑いを浮かべて、ルドガーを一瞥してい言った。
何ですって?!あのハンセルと結婚?!!
ミュリエルは自分の耳を疑った。一度ハンセルと会った事がある。父親に似て嫌味で小太りで不潔な男だ。噂では仕事もろくにせず娼館に毎晩入り浸っているらしい。しかも現在34歳のおじさんだ!16歳のミュリエルとは年齢的にも釣り合うとは到底思われない。
「っくっ!!そんなの認められる訳ないわ!」
「そうは言うがミュリエル。この家の借金の半分は私が貸している金だ。今すぐ耳をそろえて返してもらってもいいんだぞ。それをお前の貧相な身一つで許してやろうというんだ。感謝してほしいくらいだ。もう今後は学園に行く必要もない。女は家で縫物でもしていろ」
ブカレスはそれを狙っていたのだ。ミュリエルは確信した。一度領地の経営を任せた時に作った借金はこの時の為にわざと作ったものなのだと、今更ながらに気が付いた。
なんて卑怯な男なんだろう。執事のトーマスは元の身分はブルカ男爵家の3男だった。なので今まで遠慮していたのだろうが、彼がいなくなった今、なんのしがらみもなくこの子爵家を乗っ取ることができる。
「おい、聞いているのかミュリエル。これからはそんな反抗的な態度は認めんからな。私を怒らせると女だろうが子供だろうが容赦はしないぞ」
そういいながらミュリエルの腕を掴み、引き寄せた。それを止めようと侍女のリリアンが間に割って入る。途端に大きな音がしてリリアンが床に倒れこんだ。ブカレスがリリアンの頬を殴ったのだ。ミュリエルがリリアンに駆け寄り抱き起す。
「こいつ侍女の分際で私にたてつこうなどと。主人が悪いと使用人のしつけも出来ていないようだな」
まるで汚いものが触れたかのように、自身の袖を手ではたく。ミュリエルはもう我慢の限界だった。ブカレスの思い通りになどさせるものか。ミュリエルは静かに立ち上がり、ブカレスを睨みつけながら言った。
「ブカレス叔父様。私、学園に恋人がいますの。お金持ちの貴族の方で卒業したら結婚する予定です。そうすれば彼の家からの援助が受けられますので、ギュンターが大きくなれば学園にもいれられますし、弟に爵位は継いでもらうつもりです。何といっても彼は直系の男子ですから」
そのミュリエルの言葉を一笑に付してブカレスがいう。
「はっはっはっ・・持参金もない女と結婚して、家の借金まで払ってくれるような金持ちの貴族などいるわけがないだろう。もしいるなら私の目の前に連れてきて証明してみろ。どうせできやしないくせに」
「いまは事情があって公にできない高貴な方ですの。でも卒業までには婚約して、卒業後には結婚式を挙げたいと約束しています」
とにかくこの話を1年間引き延ばせばいい。ミュリエルが王帝魔術騎士になりさえすれば、借金など3年もあれば完済するはずだ。本当のところをいえば毎日勉強ばかりにいそしんでいたミュリエルに、もちろん恋人なんていたこともない。しかも借金を肩代わりしてくれるほどの金持ちの貴族の存在などいるわけがなかった。全て時間稼ぎの為のはったりだった。
「ふん、そんな話を信じられると思うのか。冗談もたいがいにしろ」
「冗談じゃありませんわ、ブカレス叔父様。そうですね、こうしましょう。叔父様に借りたお金は倍にして返します。なのでそのお話はお断りしますわ」
ブカレスもその話がはったりであることには薄々気が付いていたが、万が一という事もある。その場合は爵位は手に入らないが借金が倍になって帰ってくる。もともとその借金も実際に金を貸したわけでもなく、だまして作らせた架空の借金だ。ミュリエルの提案はブカレスにとってそんなに悪い話ではなかった。
「よし、そこまで言うなら分かった。3か月だけ待ってやろう。それまでにその男を私の前に連れてこい。それで借金を返す書類にサインさせるんだ。それが出来なければ即刻、学園を辞めて帰ってきてハンセルと結婚式をあげろ。反抗は許さないぞ」
「ええ、覚悟の上です。ではもうお帰りください。トーマスを安心して眠らせてあげたいのです」
ミュリエルはブカレスに帰り道の扉を指さして、屋敷から出ていくように促した。ブカレスはいい取引っができたとばかりに微笑むと。笑いながらご機嫌で屋敷を去っていった。
「ふぅ、リリアン、ギュンター大丈夫だった?お父様も、早くベットにお戻りになってください」
してやったりとばかりに微笑んで皆に気を配るミュリエルにむかって、皆が同時に畳みかける様に叫ぶ。
「姉さま!そんな男の人がいたなんて聞いていませんよ!!」
「お嬢様、こんな約束をしてどうされるおつもりですか!ハンセル様と結婚する羽目になってもよろしいのですか!」
「ミュリエル!あんな嘘をついて、一体どうするつもりなんだ!!」
「「「「ミュリエル!!!」」」
ミュリエルは少し心配そうな表情を見せながらも、皆の手前ドヤ顔で言い切った。
「大丈夫!私そんなに容姿は悪くないと思うの。相手を選びさえしなければ男の一人や二人はどうにかなるわよ!任せといて!このボロジュネール子爵家をあんな奴にみすみす渡しはしないわよ」
特に息子のハンセル。あんな男に抱かれるくらいなら死んだ方がましだ。ミュリエルは背筋に悪寒が走るのを感じた。大丈夫。あと一年さえ乗り切ればボロジュネール子爵家は助かるのだ。
それには3か月で私を愛して、借金を返してくれる男性を見つけなければいけない。お金が無くて社交界にデビューもしていないミュリエルは、ジリアーニ学園でその男性を見つけるしか手がない。ミュリエルは気合いを入れて決意を新たにした。
その後トーマスの葬式を完璧に仕切ってから、ミュリエルはすぐに学園に戻った。期間は3か月しかないのだ、時間は一日でも惜しい。3か月後といえば丁度、ジリアーニ学園恒例の夏のダンスパーティーが開かれる頃だ。その時までに何が何でも恋人を捕まえなければいけない。
「お願い、誰でもいいから私を救って。そうしたら私の一生をあなたに捧げるわ。後悔は絶対にさせない。あなたを一生愛して幸せにすると誓うわ」
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