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王帝魔術騎士 マックス
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辺りを包み込む兵士らの悲鳴がやんだ頃、リュークが誰かと話しを始めた声が聞こえた。
「やっときたのかマックス、遅いぞ」
「仕方がないでしょう。これでも走ってきたのですがね」
第二の人物の出現に目を覆っていたリュークの手を掴んで離させて、声をした方を振り向く。そこには騎士の格好をした屈強な体格の若い男が立っていた。縮れた栗色の前髪を斜めに流して栗色の瞳をしたその人物の、襟元に輝く2匹の蛇と剣が絡み合う紋章を見てミュリエルは叫んだ。
「王帝魔術騎士!!!」
彼は王国で100人しかいない王帝魔術騎士だ。普段は前線で戦っていて、王国に戻ってきたら王城か自身の城で生活をしている王帝魔術騎士を見るのは、ミュリエルにとって初めての事だった。感動にうち震えながら目を潤ませて彼を仰ぎ見る。
「本当に王帝魔術騎士様なのですね!」
「マックス、この女には気を付けろ。油断すると金をむしり取られるぞ」
相変わらず口を開けば嫌味なことしか出てこない男だ。しかも王帝魔術騎士を呼び捨てにするとは、いくら次期伯爵とはいえ不敬罪に問われても不思議ではない。王国では国の護りの要である王帝魔術騎士の地位は、王族に次ぐ権力を有しているのだ。
「あなたが女性にそんな口の利き方をするのを初めてみましたよ。彼女がリューク様の本命の女性なのですか?」
「そ・・そんなことあるわけないです!リュークは私を盾にして魔力を使わせて、自分の命を守らせるために連れてきただけなんです!この冷血無節操下半身男なんか全くの無関係です!!」
「ぷっ、冷血無節操下半身男とはぴったりな形容ですね。リューク様の事をよく理解していらっしゃるようで・・・。ああ、自己紹介がまだでしたね。私はマックス・ドナルドソン。王帝魔術騎士です」
ミュリエルは正式な礼をして自己紹介を始めたマックスにあわせて、慌てて向き直り服の乱れを整えると、スカートの裾を持ち上げて淑女の令をする。
「ミュリエル・ヘレナ・ボロジュネール子爵令嬢です。リュークとは学園で顔見知りなだけの関係です。それよりもわたし将来、王帝魔術騎士を目指しているのですけれど・・。できれば連絡先をお聞きしてよろしいでしょうか?」
「お前は本当に借金さえ返してもらえるなら誰でもいいんだな」
リュークが呆れたように言い放つ。ミュリエルはリュークの方を思いっきり蔑むような目で睨んだ。
「あんたは黙ってて頂戴!!私はマックス騎士様とお話ししているの」
「そんなことよりリューク様。もう少し女性には気遣いをするべきですよ。ほら、彼女の手も足もひどい状態だ」
そういってマックスがミュリエルの体を確認する。リュークに握りしめられた上、掴まれて引きずられたせいで手首はもう赤黒く変色していた。足元はパンプスで森を走り回ったせいで傷だらけであちこち血がにじんでいる。
今まで興奮していた為、全く痛みを感じなかったが、マックスに指摘されたせいでどんどん痛みが増加していった。せっかくの一張羅のドレスも木の枝に引っかけたらしく、あちこち穴が開いている。
悲しい気持ちになったミュリエルは一瞬顔を曇らせたが、すぐに思い直して心配するマックスに向かっていった。
「大丈夫です。傷も見かけだけで深くはないですし、あの人数の兵士に襲われてこれだけで済んだのは奇跡です。ここは悲しむところじゃなくて喜ぶべきところです。ドレスは少し残念ですけど、穴が開いたところにリボンでも付ければまた使えます。心配しないでください」
そういってにっこりと笑った。マックスはそんな彼女に一瞬見とれたかと思うと、そのまま彼女の体を抱き上げた。お姫様抱っこだ。
「マ・・マ・・マックス騎士様???」
「黙って抱かれていてください。この足では歩くのはきついでしょう。森を出るまででもいいのでこのままでおとなしくしてください」
おとなしくしろと言われてもお姫様抱っこなんて初めての経験だ。しかも思ったより顔が近づいて恥ずかしい。マックス騎士の胸の鼓動が聞こえてくるし、呼吸をする度に息がかかって前髪が揺れるので平静ではいられなくなってきた。顔を赤らめて恥じらっていると悪魔の声が聞こえてきた。
「降ろせマックス。こいつは何が何でも自力で歩かせろ。王帝魔術騎士のする仕事じゃない」
こいつぅ!!どこまで私が憎いのだ!!
ミュリエルはリュークの方を怒って振り返った。すると思いがけずリュークは妙な表情を浮かべていた。いつもの悪魔のような冷血な表情ではなくて、怒ったような顔はしているのだが、その顔には憤りが同時に浮かんでいた。
「大丈夫です。彼女は未来の私の後輩ですから、将来戦地で出会うこともあるかもしれません。リューク様が一緒に逃げるくらいですから、彼女はかなりの腕前なのでしょう」
そうだな、弱くて頼りない人間をこの悪魔が一緒に連れて逃げるわけがない。少なくとも私の実力は認めているという事か。だからと言ってリュークのこれまでの言動を思い出すと、もう二度と決してプライベートでは奴には会いたくない。
ミュリエルは両手でマックスの体にしがみ付きリュークの方を向いて、マックスに気づかれないように舌を出した。
それを見て怒りに油を注いでしまったようだ。リュークはマックス騎士の行く手を阻んで仁王立ちになり、こういった。
「こいつを降ろせマックス。命令だ」
「ちょっと、リューク横暴よ!!だいたい王帝魔術騎士様に対する態度じゃないわ!敬意を払いなさい!」
するとマックスはニヤリと不遜な笑みを浮かべると、そのままリュークにお姫様抱っこをしたままミュリエルを渡した。マックスの腕から離れてリュークの腕の中に彼女の体が預けられる。
「じゃあ、リューク様が抱っこしてあげてください。彼女の傷はあなたのせいなのですからね。年ごろの娘さんに、これ以上傷が増えるのは余りにも酷でしょう」
や・・やめてくれ!!リュークなんかに渡したら絶対にその辺に放り投げられる!!傷が増えるどころか骨の一本や二本軽くいってしまうかもしれない。私はレイモンドを3か月以内に私にメロメロにしなければいけないのに、足や腕にギブスを巻いたままで、そんな芸当ができるとは到底思えない。
ミュリエルはリュークの腕に全体重が移された瞬間、続いてくるであろう痛みに備えて体を硬直させた。でも、いくらたってもそんな痛みは襲ってこなかった。そうっと目を開けると目の前にリュークの顔があって、その表情は戸惑っている様だったが落ち着いていた。どうやらマックス騎士の意見を素直に聞いて、おとなしくミュリエルを運んでくれるみたいだった。
街に戻ったらすぐにリュークはミュリエルを医務室に連れて行ってくれて、ろくにしゃべりもせずにマックスと去っていった。その後すぐに医務室に血相を変えてレイモンドが飛び込んできた。椅子に座っているミュリエルの傍にひざまずき、彼女の手を取っていった。
「ミュリエル!!大丈夫でしたか?助けが来て助かったとは聞きましたが・・・ああ・・・怪我をしたのですね。私のせいです、すみません」
「レイモンド様、大丈夫です。怪我はかすり傷ばかりですし大したことありませんわ。それよりレイモンド様は大丈夫でしたか?」
そうだ、一番大きなけがはリュークに掴まれた手首だ。今回の事件とは一切関係ない。
「こんな目にあっても私の心配をしてくれるのですね。ああミュリエル、私は君に心を奪われてしまったようです。君も私を思ってくれていますか?」
切ない顔でミュリエルを見つめてつぶやく。ミュリエルはそんなレイモンドを見つめ返して、無言でうなずいた。するとレイモンドが我慢できないとばかりに身を乗り出して、ミュリエルの唇に自身の唇を重ねた。
「私の大事な人・・。気持ちに答えてくれてありがとう。さあ、もう学園に戻ろう。帰りはブルース家の護衛を付けたから安心するといい」
ミュリエルはその後、来た時と同じ馬車でレイモンドと学園に戻った。今日はいろんなことがいっぱいおこったので、レイモンドに別れの挨拶をしてすぐに自室に戻った。部屋に戻るとクレアが期待に満ち溢れた顔で聞いてきた。
「どうだった、ミュリエル?レイモンド様とうまくいった?」
ミュリエルはその質問には答えずに、唇に指をあてて茫然としたままつぶやいた。
「・・・どうしよう」
「やっときたのかマックス、遅いぞ」
「仕方がないでしょう。これでも走ってきたのですがね」
第二の人物の出現に目を覆っていたリュークの手を掴んで離させて、声をした方を振り向く。そこには騎士の格好をした屈強な体格の若い男が立っていた。縮れた栗色の前髪を斜めに流して栗色の瞳をしたその人物の、襟元に輝く2匹の蛇と剣が絡み合う紋章を見てミュリエルは叫んだ。
「王帝魔術騎士!!!」
彼は王国で100人しかいない王帝魔術騎士だ。普段は前線で戦っていて、王国に戻ってきたら王城か自身の城で生活をしている王帝魔術騎士を見るのは、ミュリエルにとって初めての事だった。感動にうち震えながら目を潤ませて彼を仰ぎ見る。
「本当に王帝魔術騎士様なのですね!」
「マックス、この女には気を付けろ。油断すると金をむしり取られるぞ」
相変わらず口を開けば嫌味なことしか出てこない男だ。しかも王帝魔術騎士を呼び捨てにするとは、いくら次期伯爵とはいえ不敬罪に問われても不思議ではない。王国では国の護りの要である王帝魔術騎士の地位は、王族に次ぐ権力を有しているのだ。
「あなたが女性にそんな口の利き方をするのを初めてみましたよ。彼女がリューク様の本命の女性なのですか?」
「そ・・そんなことあるわけないです!リュークは私を盾にして魔力を使わせて、自分の命を守らせるために連れてきただけなんです!この冷血無節操下半身男なんか全くの無関係です!!」
「ぷっ、冷血無節操下半身男とはぴったりな形容ですね。リューク様の事をよく理解していらっしゃるようで・・・。ああ、自己紹介がまだでしたね。私はマックス・ドナルドソン。王帝魔術騎士です」
ミュリエルは正式な礼をして自己紹介を始めたマックスにあわせて、慌てて向き直り服の乱れを整えると、スカートの裾を持ち上げて淑女の令をする。
「ミュリエル・ヘレナ・ボロジュネール子爵令嬢です。リュークとは学園で顔見知りなだけの関係です。それよりもわたし将来、王帝魔術騎士を目指しているのですけれど・・。できれば連絡先をお聞きしてよろしいでしょうか?」
「お前は本当に借金さえ返してもらえるなら誰でもいいんだな」
リュークが呆れたように言い放つ。ミュリエルはリュークの方を思いっきり蔑むような目で睨んだ。
「あんたは黙ってて頂戴!!私はマックス騎士様とお話ししているの」
「そんなことよりリューク様。もう少し女性には気遣いをするべきですよ。ほら、彼女の手も足もひどい状態だ」
そういってマックスがミュリエルの体を確認する。リュークに握りしめられた上、掴まれて引きずられたせいで手首はもう赤黒く変色していた。足元はパンプスで森を走り回ったせいで傷だらけであちこち血がにじんでいる。
今まで興奮していた為、全く痛みを感じなかったが、マックスに指摘されたせいでどんどん痛みが増加していった。せっかくの一張羅のドレスも木の枝に引っかけたらしく、あちこち穴が開いている。
悲しい気持ちになったミュリエルは一瞬顔を曇らせたが、すぐに思い直して心配するマックスに向かっていった。
「大丈夫です。傷も見かけだけで深くはないですし、あの人数の兵士に襲われてこれだけで済んだのは奇跡です。ここは悲しむところじゃなくて喜ぶべきところです。ドレスは少し残念ですけど、穴が開いたところにリボンでも付ければまた使えます。心配しないでください」
そういってにっこりと笑った。マックスはそんな彼女に一瞬見とれたかと思うと、そのまま彼女の体を抱き上げた。お姫様抱っこだ。
「マ・・マ・・マックス騎士様???」
「黙って抱かれていてください。この足では歩くのはきついでしょう。森を出るまででもいいのでこのままでおとなしくしてください」
おとなしくしろと言われてもお姫様抱っこなんて初めての経験だ。しかも思ったより顔が近づいて恥ずかしい。マックス騎士の胸の鼓動が聞こえてくるし、呼吸をする度に息がかかって前髪が揺れるので平静ではいられなくなってきた。顔を赤らめて恥じらっていると悪魔の声が聞こえてきた。
「降ろせマックス。こいつは何が何でも自力で歩かせろ。王帝魔術騎士のする仕事じゃない」
こいつぅ!!どこまで私が憎いのだ!!
ミュリエルはリュークの方を怒って振り返った。すると思いがけずリュークは妙な表情を浮かべていた。いつもの悪魔のような冷血な表情ではなくて、怒ったような顔はしているのだが、その顔には憤りが同時に浮かんでいた。
「大丈夫です。彼女は未来の私の後輩ですから、将来戦地で出会うこともあるかもしれません。リューク様が一緒に逃げるくらいですから、彼女はかなりの腕前なのでしょう」
そうだな、弱くて頼りない人間をこの悪魔が一緒に連れて逃げるわけがない。少なくとも私の実力は認めているという事か。だからと言ってリュークのこれまでの言動を思い出すと、もう二度と決してプライベートでは奴には会いたくない。
ミュリエルは両手でマックスの体にしがみ付きリュークの方を向いて、マックスに気づかれないように舌を出した。
それを見て怒りに油を注いでしまったようだ。リュークはマックス騎士の行く手を阻んで仁王立ちになり、こういった。
「こいつを降ろせマックス。命令だ」
「ちょっと、リューク横暴よ!!だいたい王帝魔術騎士様に対する態度じゃないわ!敬意を払いなさい!」
するとマックスはニヤリと不遜な笑みを浮かべると、そのままリュークにお姫様抱っこをしたままミュリエルを渡した。マックスの腕から離れてリュークの腕の中に彼女の体が預けられる。
「じゃあ、リューク様が抱っこしてあげてください。彼女の傷はあなたのせいなのですからね。年ごろの娘さんに、これ以上傷が増えるのは余りにも酷でしょう」
や・・やめてくれ!!リュークなんかに渡したら絶対にその辺に放り投げられる!!傷が増えるどころか骨の一本や二本軽くいってしまうかもしれない。私はレイモンドを3か月以内に私にメロメロにしなければいけないのに、足や腕にギブスを巻いたままで、そんな芸当ができるとは到底思えない。
ミュリエルはリュークの腕に全体重が移された瞬間、続いてくるであろう痛みに備えて体を硬直させた。でも、いくらたってもそんな痛みは襲ってこなかった。そうっと目を開けると目の前にリュークの顔があって、その表情は戸惑っている様だったが落ち着いていた。どうやらマックス騎士の意見を素直に聞いて、おとなしくミュリエルを運んでくれるみたいだった。
街に戻ったらすぐにリュークはミュリエルを医務室に連れて行ってくれて、ろくにしゃべりもせずにマックスと去っていった。その後すぐに医務室に血相を変えてレイモンドが飛び込んできた。椅子に座っているミュリエルの傍にひざまずき、彼女の手を取っていった。
「ミュリエル!!大丈夫でしたか?助けが来て助かったとは聞きましたが・・・ああ・・・怪我をしたのですね。私のせいです、すみません」
「レイモンド様、大丈夫です。怪我はかすり傷ばかりですし大したことありませんわ。それよりレイモンド様は大丈夫でしたか?」
そうだ、一番大きなけがはリュークに掴まれた手首だ。今回の事件とは一切関係ない。
「こんな目にあっても私の心配をしてくれるのですね。ああミュリエル、私は君に心を奪われてしまったようです。君も私を思ってくれていますか?」
切ない顔でミュリエルを見つめてつぶやく。ミュリエルはそんなレイモンドを見つめ返して、無言でうなずいた。するとレイモンドが我慢できないとばかりに身を乗り出して、ミュリエルの唇に自身の唇を重ねた。
「私の大事な人・・。気持ちに答えてくれてありがとう。さあ、もう学園に戻ろう。帰りはブルース家の護衛を付けたから安心するといい」
ミュリエルはその後、来た時と同じ馬車でレイモンドと学園に戻った。今日はいろんなことがいっぱいおこったので、レイモンドに別れの挨拶をしてすぐに自室に戻った。部屋に戻るとクレアが期待に満ち溢れた顔で聞いてきた。
「どうだった、ミュリエル?レイモンド様とうまくいった?」
ミュリエルはその質問には答えずに、唇に指をあてて茫然としたままつぶやいた。
「・・・どうしよう」
応援ありがとうございます!
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