勇者に執着されて絶望した双剣の剣聖は、勇者の息子の黒髪王子に拘束されて絆される

緑虫

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 頭を抱えたロイクが、奇声を発しながら地面をのたうち回る。

 これまでよりも強い光を放つ輪が、ロイクの頭に食い込んでいるのが見えた。地面を転げ回る音の中に、ミシミシ、と鈍い音が混じっている。

 締め付けている音か。確かにありゃあ痛そうだ。

「いたあっ! いたあい、ああ、ああああっ!」

 涎を撒き散らしながら涙をボロボロ流す夫に向かって、オリヴィアはあくまで冷静に伝えた。

「真実のみを語ると自分に言い聞かせなさい」
「あああっ! いた、ああっ、言う、本当のことだけ言うからあっ!」

 ロイクは子供みたいに泣き叫んでいる。余裕は一切なさそうだった。

 こりゃあ嘘は吐けないな。

 いつも偉ぶってるロイクの変わり果てた姿を見て、絶対に嘘を吐くのはやめようと思った。万が一クロイスに抱かれた感想を聞かれても、全部素直に答えてやる。

「ほら、言い聞かせなさい。声に出すと効果が早いわよ」

 オリヴィアの言葉に、ロイクは小刻みに頷きながら「本当のことしか言わない、本当のことしか言わない……っ」と呟き始めた。すると本当に、頭の輪の光度が下がり始める。

「……はあ、はあっ」

 痛みが消えたのか、涙と涎で見るに堪えない国王の顔が、地面から俺たちを見上げていた。

 これでロイクは嘘を吐いたら即バレることが分かった。ならば、と俺はぜひとも聞いてみたかったことを聞こうと思い、手を挙げる。

「俺からも質問していいか?」
「どうぞ」

 オリヴィアが許可してくれたので、ロイクに聞いてみた。

「ロイク。アルバンとセルジュを殺すように暗部のラザノに命じたのはお前だな?」

 ひく、とロイクの頬が引き攣る。

「い、いや! 私はそんなことは……うぎゃあああっ! 痛いっ! うあ、ひやああっ!」

 これ、嘘を吐く度にこうなるのか。

「これじゃ話が進まないね」

 俺に耳打ちしてきたクロイスに、思わず苦笑を返してしまった。

 しばらくしてまたロイクの痛みが収まると、俺は再び質問をすることにする。

「もうひとつ」

 ロイクが、見るからに嫌そうに顔を歪めた。本当はもう何も聞かれたくないんだろうな。まあ聞くけど。

「お前さ、俺のことを愛してる愛してるって言ってるけど、あれさ、本当か?」

 ロイクが俺のことをどう思って執着していたのか、俺は是非とも知りたかったんだ。

 長年追い詰められ囲われ続けた根底にあるもの。その正体を知らないまま、俺は自由に羽ばたけないだろうから。

 ロイクはぽかんとして俺を見ている。意味が分からなかったのかな。

「へ……?」
「お前さ、俺のこと愛してるって言ったよな?」

 ロイクは焦った顔でオリヴィアを見て、泣きながら俺を見た。

「い、言った……!」

 ようやく白状した。

「俺のこと、本当に愛してたのか?」
「あ、愛してる……あっ! うあああっ、痛あい! いやだ、痛いいいっ!」

 再びのたうち回るロイク。やっぱりな、と俺が頷いていると、俺の背中に貼り付いているクロイスが驚いた声を漏らす。

「え……? ちょっとビイ、どういうこと? ロイクはビイのことが好きだったんじゃ」

 まあ、普通ならそう思うだろうな。でも俺は、これは違うんじゃないかと薄々気付いていたんだ。

 俺は自分の考えを披露することにした。

「お前は俺が英傑の太陽だって言ってたけどさ、お前なら太陽を追い詰めて絶望させて支配したくなるか?」

 クロイスがハッと息を止める。

 俺はロイクを見下ろした。ぶつぶつと「本当のことしか言わない」と繰り返し呟いて回復したところを見計らい、もう一度尋ねる。

「ロイク、お前さ。俺のこと嫌いだろ」

 オリヴィアが目を見開いた。信じられないといった表情で、ロイクを見下ろす。

 ロイクは地面に這いつくばったまま、ボロボロと涙を流しながら白状し始めた。

「ファビアンは最初から苛ついたんだ……!」

 今度は光の輪は締まらない。やっぱりこれが真実だったんだ、と何故か俺はホッとしていた。

「幸せに生きてきて、同じ竜の痣があるのに虐げられていないファビアンが憎かった……!」

 もう俺が促さなくても、ロイクは止まらなかった。

「人を疑うことなんて知らなくて、コロッと私に騙されて……! 私が何を考えてファビアンを抱いていたのかと知らずに気を許して、愉快で仕方なかった!」

 ロイクが叫ぶように吐露した。
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