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11 ティセル視点

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 硬くて柔らかい羊肉にカプリと噛み付くと

「いてっ」

 と、色気のない声が上がった。

「すいません。美味しそうだったもので」

「狼怖いな!」

 あれから私たちはケンカもしたし、怒鳴りあったりもしたけれどずっと仲良く暮らしている。

「またお父様と父上がイチャイチャしてる」

「また弟がふえんの?」

「もうさ、兄弟で軍だよな!軍!」

 私とシファの子供達は皆良く私達の血を継いだ。私に似て頭脳労働が得意な子供、シファに似て肉体労働が得意な子供。両方継いだ子、両方継がなかった子。
 どれもこれも可愛いらしい。

「もう、腹膨れんのやだー。運動不足になるんだよ!」

「運動不足になるから嫌なんですか?」

 私の少し残念な妻は

「え?それ以外なんかやな事あんのか?」

 と、驚いた顔をして、耳をぴるぴるするから可愛いらしい。

「父上ー!稽古つけてよー!」

「おー」

 椅子から立ちあがろうとするシファの手を引く。

「ありがとよ、旦那様」

「どういたしまして、奥様」

 立ち上がるとまだまだシファの方が背が高い。本当にアルガリ種はでかい!あれから私はどんどん背が伸びたのだけれども、まだシファを追い越せない。
 多分、一生越せないかも知れない。そんな縦にデカくて全身筋肉のシファだが、相変わらず主導権は私だ。
 会った頃に比べれば幼さはすっかり抜け切った私だが、そんな私の顔を可愛い可愛いとシファは撫で回す。
 私より可愛いのはそっちだろう!

「俺の事を可愛いなんて言う物好きはティセルくらいだけどな!」

 まあ……シファの可愛い所を知っているのは私だけで十分だな。

「さあ!ちび共!父上の剣技について来れるかな?!」

 小枝を片手に、もう片手は大きなお腹にシファは庭へゆっくりと歩いて行く。

「父上!負けませんよー!」「弟が詰まってる父上に手加減して差し上げます!」

 ぐるりと子供達に取り囲まれるが、シファはにやりと笑っている。

「ふはは!今回はたっぷり詰まってるからな!だが、その程度では俺は倒せんぞ!」

 7歳を筆頭に、一歳刻みづつの子供達。今回は何と4人も腹にいるそうだ。

「大体、毎年2、3人なんだが、今年は多いのな?」

 ……調子に乗っているのではない。妻が可愛過ぎるがいけないのだ。毎年子供を産んでけろりとしている。
 膨らんで伸びたはずの腹の皮もすぐに元に戻って、いつの間にかきれいに六つに割れている。

「……すいません。軍神に……」

 アルガの軍神を家に縛り付けている罪悪感はある。だが、当の軍神様は笑って言うのだ。

「俺、あんまり戦場好きじゃねーから、良いって事よ!親父や兄貴に追い立てられて戦場に出てただけだし。剣を振るのは嫌いじゃないけどな!」

 家で息子増やしてる方が楽しいや!わはは!と。やはり私の妻はとても可愛い。

 小枝一つで息子達を転がしまくっているシファを見ていると、オーグ国からの使者が来ていた。

「ティセル様……いつになったら国を継がれるのかと……」

「王太子は一番上の兄上でしょう?私は国王などにはなりません。ここで一生シファと仲良く暮らすんです」

「しかし!ティセル様のお力なくては……傾いた国を立て直せません!」
 
 知らん。私がアルガ国に来て、シファといちゃいちゃにゃんにゃん暮らしていた時に、勝手に宰相を首にしたり、新しく召し上げた側妃に溺れて借金したり、王太子の兄上が婚約破棄したり、公爵が叛旗を翻したりしているようだが、私の知った事ではない。

「アルガ国に吸収されれば良いのでは?」

「ティセル様ー!」



 
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