66 / 75
私の愛は重い(ジークハルト視点)
しおりを挟む
私はレティシアに他人が引くくらい執着している自覚があった。
巻き戻す前の世界でもレティシアのことは大事に思っていた。
レティシアの両親と私の両親は学生の頃から仲がよかった。同じくらいの時期に結婚したが、子供がすぐ出来た私の両親とは違い、レティシアの両親はなかなか子供に恵まれなかった。
レティシアの母親のフローラ様は次第に塞ぎ込むようになり、領地に引きこもり気味になっていた。
私の母は時々クロムス家の領地に赴き親友のフローラ様を励ましていた。しかし、不妊で悩む女性が不妊など全く関係ない者に励まされても余計に心を閉ざすだけだったようだ。
そんなある日、母は未来が見える預言者を見つけ、フローラ様の元に連れていった。
預言者はフローラにこう告げたそうだ。
「ここにいてはいけない。王都の屋敷に戻りなさい。さすれば来年子供が生まれる。あなたの子供は使命を持って生まれてくるゆえ時期を待っている。直ちに王都に戻れ」
預言どおり次の年にレティシアが生まれた。そして続けてその次の年にはアンドリューが生まれた。
実はその預言者は偽物だった。
母が引きこもっている友を現実に引き戻すために一計を講じたのだ。だがフローラ様は偽預言者の暗示にかかり、それは真実になった。
年子を産み体調を崩していたフローラ様だったが、レティシアが5歳の時にやっと王都のタウンハウスに戻ってきた。
私がはじめてレティシアに会ったのは10歳の時。剣の稽古を終え屋敷に戻った時、サロンで母とフローラ様が一緒にお茶を飲んでいた。
その傍に、天使? 妖精? 何だかわからないがこの世のものとは思えないような可愛い生き物を見た。妹がふたりいるがまるで違う。そこにいたその可愛い生き物に心を奪われてしまった。
「フローラおばさま、この子は?」
「まぁ、ジーク、お行儀が悪いわね。まずは挨拶しなさい」
母に雷を落とされた。
侯爵子息が挨拶ひとつまともにできないとは恥ずかしい。いつもはきちんとしている息子が慌てているのに母は少し驚いていたようだ。
「いいのよ、アゼリア。この子はレティシアよ。私の娘なの」
フローラ様は慈愛に満ちた表情でレティシアを見ている。
「れてぃしあでございます」
小さな可愛い生き物は言葉を話し、カーテシーをした。
その姿に私は我を忘れてしまったのか、レティシアを抱きしめて、求婚していた。
「フローラおばさま、僕にレティシアを下さい。命をかけて守ります。この剣にも、ヒューレットの家名にも誓います」
レティシアはよくわからないようでこてんと首を傾げている。可愛い可愛すぎる。
「ジーク、いきなり何を言ってるの? 重いんだけど」
母は苦笑している。
「ジーク、それはレティシアをお嫁さんにしてくれるということかしら?」
「はい!」
私の返事にフローラ様も苦笑する。
私のたっての願いで婚約することになった。
私は10歳、レティシアは5歳だった。
私は騎士見習いとして、父クロードが団長を務める騎士団で毎日剣の稽古をし、家庭教師からも勉強を学んでいて本当に多忙だった。
なかなかレティシアに会えない。会えない時は手紙を送ったり、プレゼントを送ったりした。手紙では想いを伝えることができるのに、いざ会うと上手く話ができない。元々は口数が少なく、言葉が足りない私だが、短い間でも時間を作り会いに行き、私なりに良い関係を築いていると思っていた。
15歳で私は王立学校に入学した。王立学校は全寮制だ。授業が終わると騎士団で剣の稽古をし、寮に戻る生活。レオナルド殿下の側近でもあり、毎日が忙しい。
私はレティシアから贈られた手紙や刺繍入りのハンカチなどをお守りのように大事にし、会えない寂しさを我慢していた。
今思えばあの頃の私はレティシアのことが好きすぎて拗らせていたのだろう。あのまま何ごともなく、レティシアが救いの神に見せられた夢のように結婚していたら、きっと私たちはすれ違っていただろう。
私はきっとちゃんとレティシアに向き合えないまま、自分勝手に良かれと思ったことを押しつけて、そして戸惑うレティシアを見て、どうして私の気持ちをわかってくれないのだと苛立っていたに違いない。
時を巻き戻す前の私は挫折も絶望も知らない善意の人間だった。
人は皆善人だと信じていた。しかし、魅了魔法で自我を失っていた時期とはいえ、戦いを経験した。
自分の周りの人々が死んでいった。人は決して善人などではない。私は挫折した。
自分の無力さ甘さをひしひしと感じた。そしてアランと出会った。魔法を解かれた瞬間、全てに絶望した。そこから這い上がれたのは大事なものを失いたくない気持ちと後悔したくない気持ちからだったかもしれない。
口数が少なくても想いを伝えることはできる。大切なものは自らの手で大切にする。それは大切にしているつもりの自己満足ではいけない。
時を巻き戻したすぐはレティシアから距離を置こうとしていた。幸せになってほしかった。私は影になり、幸せになる手助けができればいいと思っていた。
しかし、偶然だったのか必然だったのかわからないが、巻き戻す前より早い時間にレティシアと会ってしまい。私の計画は私の感情に負けた。
何がなんでも手放したくない。影から見守るなんてできなくなった。その時に、結局、時間を巻き戻したのはレティシアに幸せになってほしいというのは建前だったのだ、自分が幸せになりたかったけの自分のエゴで、私は自分勝手で強欲な人間だとよくわかった。
自分の邪な欲望のために大義名分を立て、時間を巻き戻した。だからせめてもの罪滅ぼしにそれに関わった人には幸せになってほしいと思った。そのために力を尽くした。
あの時辛い目にあった人達はみな幸せになっている。もう、私も幸せになってもいいはず。いや、もう十分幸せではあるが、貪欲な私は更なる幸せを求めてしまう。
女神スパリーナ。私は貴方に忠誠を誓った。それは対価があったからだ。私達は双方の利を得るために契約をしたようなものだ。でもそれは嫌なものではない。
レティシアを得るためになら神にでも悪魔にでも忠誠を誓う。
あぁ、また母や皆に『あなたの愛は重い』と言われそうだな。
レティシアもそれについてはもう諦めてくれているようだ。
レティシアを愛している。レティシアだけを愛している。
私の命はレティシアの為にだけある。
巻き戻す前の世界でもレティシアのことは大事に思っていた。
レティシアの両親と私の両親は学生の頃から仲がよかった。同じくらいの時期に結婚したが、子供がすぐ出来た私の両親とは違い、レティシアの両親はなかなか子供に恵まれなかった。
レティシアの母親のフローラ様は次第に塞ぎ込むようになり、領地に引きこもり気味になっていた。
私の母は時々クロムス家の領地に赴き親友のフローラ様を励ましていた。しかし、不妊で悩む女性が不妊など全く関係ない者に励まされても余計に心を閉ざすだけだったようだ。
そんなある日、母は未来が見える預言者を見つけ、フローラ様の元に連れていった。
預言者はフローラにこう告げたそうだ。
「ここにいてはいけない。王都の屋敷に戻りなさい。さすれば来年子供が生まれる。あなたの子供は使命を持って生まれてくるゆえ時期を待っている。直ちに王都に戻れ」
預言どおり次の年にレティシアが生まれた。そして続けてその次の年にはアンドリューが生まれた。
実はその預言者は偽物だった。
母が引きこもっている友を現実に引き戻すために一計を講じたのだ。だがフローラ様は偽預言者の暗示にかかり、それは真実になった。
年子を産み体調を崩していたフローラ様だったが、レティシアが5歳の時にやっと王都のタウンハウスに戻ってきた。
私がはじめてレティシアに会ったのは10歳の時。剣の稽古を終え屋敷に戻った時、サロンで母とフローラ様が一緒にお茶を飲んでいた。
その傍に、天使? 妖精? 何だかわからないがこの世のものとは思えないような可愛い生き物を見た。妹がふたりいるがまるで違う。そこにいたその可愛い生き物に心を奪われてしまった。
「フローラおばさま、この子は?」
「まぁ、ジーク、お行儀が悪いわね。まずは挨拶しなさい」
母に雷を落とされた。
侯爵子息が挨拶ひとつまともにできないとは恥ずかしい。いつもはきちんとしている息子が慌てているのに母は少し驚いていたようだ。
「いいのよ、アゼリア。この子はレティシアよ。私の娘なの」
フローラ様は慈愛に満ちた表情でレティシアを見ている。
「れてぃしあでございます」
小さな可愛い生き物は言葉を話し、カーテシーをした。
その姿に私は我を忘れてしまったのか、レティシアを抱きしめて、求婚していた。
「フローラおばさま、僕にレティシアを下さい。命をかけて守ります。この剣にも、ヒューレットの家名にも誓います」
レティシアはよくわからないようでこてんと首を傾げている。可愛い可愛すぎる。
「ジーク、いきなり何を言ってるの? 重いんだけど」
母は苦笑している。
「ジーク、それはレティシアをお嫁さんにしてくれるということかしら?」
「はい!」
私の返事にフローラ様も苦笑する。
私のたっての願いで婚約することになった。
私は10歳、レティシアは5歳だった。
私は騎士見習いとして、父クロードが団長を務める騎士団で毎日剣の稽古をし、家庭教師からも勉強を学んでいて本当に多忙だった。
なかなかレティシアに会えない。会えない時は手紙を送ったり、プレゼントを送ったりした。手紙では想いを伝えることができるのに、いざ会うと上手く話ができない。元々は口数が少なく、言葉が足りない私だが、短い間でも時間を作り会いに行き、私なりに良い関係を築いていると思っていた。
15歳で私は王立学校に入学した。王立学校は全寮制だ。授業が終わると騎士団で剣の稽古をし、寮に戻る生活。レオナルド殿下の側近でもあり、毎日が忙しい。
私はレティシアから贈られた手紙や刺繍入りのハンカチなどをお守りのように大事にし、会えない寂しさを我慢していた。
今思えばあの頃の私はレティシアのことが好きすぎて拗らせていたのだろう。あのまま何ごともなく、レティシアが救いの神に見せられた夢のように結婚していたら、きっと私たちはすれ違っていただろう。
私はきっとちゃんとレティシアに向き合えないまま、自分勝手に良かれと思ったことを押しつけて、そして戸惑うレティシアを見て、どうして私の気持ちをわかってくれないのだと苛立っていたに違いない。
時を巻き戻す前の私は挫折も絶望も知らない善意の人間だった。
人は皆善人だと信じていた。しかし、魅了魔法で自我を失っていた時期とはいえ、戦いを経験した。
自分の周りの人々が死んでいった。人は決して善人などではない。私は挫折した。
自分の無力さ甘さをひしひしと感じた。そしてアランと出会った。魔法を解かれた瞬間、全てに絶望した。そこから這い上がれたのは大事なものを失いたくない気持ちと後悔したくない気持ちからだったかもしれない。
口数が少なくても想いを伝えることはできる。大切なものは自らの手で大切にする。それは大切にしているつもりの自己満足ではいけない。
時を巻き戻したすぐはレティシアから距離を置こうとしていた。幸せになってほしかった。私は影になり、幸せになる手助けができればいいと思っていた。
しかし、偶然だったのか必然だったのかわからないが、巻き戻す前より早い時間にレティシアと会ってしまい。私の計画は私の感情に負けた。
何がなんでも手放したくない。影から見守るなんてできなくなった。その時に、結局、時間を巻き戻したのはレティシアに幸せになってほしいというのは建前だったのだ、自分が幸せになりたかったけの自分のエゴで、私は自分勝手で強欲な人間だとよくわかった。
自分の邪な欲望のために大義名分を立て、時間を巻き戻した。だからせめてもの罪滅ぼしにそれに関わった人には幸せになってほしいと思った。そのために力を尽くした。
あの時辛い目にあった人達はみな幸せになっている。もう、私も幸せになってもいいはず。いや、もう十分幸せではあるが、貪欲な私は更なる幸せを求めてしまう。
女神スパリーナ。私は貴方に忠誠を誓った。それは対価があったからだ。私達は双方の利を得るために契約をしたようなものだ。でもそれは嫌なものではない。
レティシアを得るためになら神にでも悪魔にでも忠誠を誓う。
あぁ、また母や皆に『あなたの愛は重い』と言われそうだな。
レティシアもそれについてはもう諦めてくれているようだ。
レティシアを愛している。レティシアだけを愛している。
私の命はレティシアの為にだけある。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
617
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる