迷子の僕の異世界生活

クローナ

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第2部 『華胥の国の願い姫』

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「やだもっとあそぶのぅ。」

「じゃあ続きは夢の中でね、おやすみ。」

抱えこんだおもちゃに手を掛けたせいで寝ぐずるけれどすでにまぶたがくっついてしまったディノのおでこにおやすみのキスを落とせば子供部屋はもう寝息しか聞こえなくなった。

夕飯を食べたら沢山遊ぶと言ってたのにこんなに早く眠ってしまうのは不本意に違いないがその犯人はノートンさんだ。

「私もみんなに見せたいものがあるんだけど寝室じゃないと駄目なんだ。」

夕食後こんな風に言われたら「じゃあ行こう!」となるわけで、子供達をベッドに待機させ部屋の灯りを小さくして持ち込んだ魔道具を起動すると暗い部屋の天井に数匹の蝶が舞った。

「うわぁきれい!」

「「ちょうちょだ!」」

「でぃのつかまえる!」

「ははっそれはちょっと難しいかな。これは観て楽しむだけだよ。」

突然現れた蝶にみんな起き上がりディノなんかベッドに立ち上がったけれどノートンさんにそう言われた後、仰向けの方が見やすいと気付いてすぐにまた寝転がった。

「ノートンさん凄く綺麗です、お祭りでこんなのあったんですね。」

作りはプレネタリウムみたいなものだろうか、でも色とりどりに光り舞う蝶はルシウスさんの魔法のようでもあるけれど前に見せてもらった『桜の庭』を護るノートンさんの魔法にも似ている。

ノートンさんは魔道具を扱う屋台によく足を止めていたけれどその中にあったのかな?見た目は半透明の天板の付いた四角い箱だから夜でもなければこんな素敵な物だなんて気付かない。

「今日お祭りでちょうどいい魔法石をみつけてそれを使ってみたんだけど思ったより上手く出来たかな。」

「え?これノートンさんが作ったんですか!?」

「うん実はそうなんだ、年甲斐もなく若い魔法士に触発されてしまってね。子供騙しで彼の魔法とは根本的に違うんだけどなかなか好評で嬉しいね。」

「こんなステキな魔道具を作ってしまわれるなんて素晴らしいですね、売れるんじゃないですかこれ。」

「言っただろう?ただの子供騙しだよ。」

天井に魅入ったままジェシカさんが言うとメガネに光の蝶を映しながらふふ、とはにかんで笑ったノートンさんは魔道具を残して執務室へ戻っていった。その背中はなんだか楽しそうだった。

そうして暗い部屋でベッドに寝転がってふわりふわりと舞いながら瞬く蝶を追いかけるうちに子供達の声にあくびがまざりついには寝息に変わってしまった。

「ふふ、普通ならこんな日の子供ってなかなか寝付かなくて手を焼くものですがお出かけの興奮もすっかり冷めてしまって院長の魔道具様々ですわね。」

子供達の掛布を整えながら声を潜めたジェシカさんが懐かしそうにそう言えばハンナさんもそうそうと頷いた。

きっとうちの子達も変わらない。

でもノートンさんは誘導と言ったら乱暴だけどいつもほんの少し先回りして互いの一番いい所へ導くのが上手い。それはきっと長年子供達を見てきた経験の積み重ねで夢見た保育士の真似事をしている今の俺のこうなりたいと思う目標だ。

寝るのを見計らったように光の消えた魔道具を持って3人でそっとそっと子供部屋を出たら廊下で待っていたクラウスにも「早かったな」と言われた。

そういつもならまだシャワーを出たぐらいの時間なんだよね。

今日の仕事はこれでおしまい。子供達とここで暮らしたいと思ってるのは本心だけど今夜もふたりがいてくれるから新居でクラウスと過ごすことが出来るのはやっぱり嬉しい。

「本日もお疲れ様でございました、そちら私共が院長に届けますのでどうぞお二人はお休みになってくださいまし。」

ごく自然にクラウスの手に移った魔道具をハンナさんが指し示すけど俺より先にクラウスが断った。

「いえ、院長がトウヤ様を待っているのでこちらは私が届けます。お二方はこちらを気にせずお休みになって下さい。」

「承知致しました、それではトウヤ様また明日よろしくお願いいたします。」

「こちらこそ今日も色々とありがとうございました、また明日よろしくお願いします。おやすみなさい。」

深々と丁寧に腰を折るハンナさんとジェシカさんに俺も慌てて挨拶を返した。

「ノートンさんなんの用事かな。」

あらたまって呼ばれると今日のような出来事があった日は少しドキドキしてしまう。
けれど俺が予測できそうな心配事は運良く答えが貰えてるなと気づいて尚の事理由が気になった。

「クラウスはなんだと思う?」

独り言のつもりじゃなかったのに返事をしてくれないクラウスに意見を求めれば「行けばわかる」と一蹴されてしまった。

それはそうだろうけどその言い方はちょっと冷たくない?

最近じゃ珍しいそっけない態度に加え思ったのと違う返事に勝手に膨らんでしまいそうになるほっぺをぎゅうっと両手で押し込みながらちらりと横を見たら俺の視線に気づいてクラウスが足を止めたのはノートンさんの執務室の数歩前。

「すまない、本当に行けばわかるから。」

バツが悪そうな顔で謝るから今の態度がクラウスにとって不本意だったのすぐにわかったからむくれた自分がちょっと恥ずかしい。

でも俺に向けてじゃないのならまさかノートンさん?

それはないだろうと思うからますます呼ばれた理由が気になってくる一方で「行けばわかる」と言いながらもノックをするために上げた手をためらったクラウスが俺をノートンさんの所へ行かせたくないように見えるのは単なる思い違いだろうか。

「クラウスです、冬夜様をお連れしました。」

あれこれ考えながらも中から聞こえたノートンさんの声はいつもと変わらず穏やかだった。





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