1/7は、君に会いたい

はちのす

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変な奴

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「なんだか意外だな。黒島にも苦手なことってあるんだ」

「手足が全く動いてなかったな」

「最後、ボールを取ろうとしてコート外に蹴り出してたもんなぁ」

そんな囁きを聞きながら、グラウンドの隅に腰を下ろした。
足は震える一歩手前まで追い詰められ、砂を巻き込みながら無意識に伸びていく。
先ほどから、首を伝う汗が止まらない。心臓も飛び出そうなほど拍動している。

「……っはぁ、キツ……」

バスケによるものか、はたまた周りからの奇異なものを見る目線のせいか。
到底、授業の輪の中に戻りたいとは思えなかった。

「だから体育の授業は嫌いだ」

(……マジで勝手な奴らだ。どいつもこいつも)

醜態を面白がっていた奴らは、もう次のチームの試合に夢中になっている。
それこそ、俺の事など忘れてしまったかのように。

(見た目で勝手に期待した奴らが、この無様な姿を見て勝手に失望して、裏切られたと罵って消えていく。いつもこの繰り返しだ)

中学時代に散々思い知らされた事実だった。だからこそ、高校では平々凡々に過ごしたいと、グラウンドが無い学校を選んだと言うのに。

滝のように流れる汗をどうにか止めようと、ジャージを脱いで拭い始めた時。
突如として、頭の上に柔らかな布が被せられた。

「ジャージで拭うと、後で冷えるぞ~」

「……は?」

「瀬名高の生徒っしょ?その赤ジャージ!」

いつの間にか、背後に黒ジャージを纏った男子生徒が佇んでいた。
癖っ毛をそのまま跳ねさせており、男子高校生にしては小柄な体格も相まって、どこか幼い雰囲気の奴だ。

(……どうせさっきの醜態を見て揶揄いに来たんだろう)

そう思ったのだが、男子生徒の表情を見るに、特に嘲りの感情は含まれていなかった。
それどころか、男子生徒は、にかっ!と人懐っこい笑顔を浮かべ、止める間も無く俺の隣を陣取る。

(もしかして、授業中の様子は見ていなかったのか)

「俺、七高の赤坂!よろしくっ」

「……黒島」

「黒島かぁ!あれ、ジャージの色と逆転してんね。島は赤ジャージ、俺は坂だけど黒ジャージ!」

赤坂と名乗った男子生徒は、ワハハ!と効果音が聞こえてきそうなほど爆笑している。
こちらとしては何がそんなに面白いのか、と聞きそうになるほどくだらない。

俺が何かしら話しかける前に、「あ!」と声を上げた赤坂は、手に持っていたスポーツバッグを漁り始めた。

(ちょこまかと動きが煩いやつだな……相手するのも面倒臭い)

鬱陶しくて仕方ない、といった風に手で払う仕草をして意思を伝える。

「俺は疲れてんの。邪魔」

「ええ、そんなこと言うなって……あった、コレ!開けてないスポドリあげる」

「は?」

目の前にずいっと差し出されたのは、よく見るラベルのスポーツドリンクだった。
事態が把握できずに停止していると、ホラ!と再度こちらにボトルを近寄せて勧めてくる。

その無邪気な笑顔には、何の棘も皮肉も感じられない。
ただ、純粋に水分補給を勧めているだけのようだ。

(……そういえば、バスに乗ってから何も飲んでいないな)

「頑張った後って喉乾くよな!体力回復には糖分と水分が必要なんだから、飲んだ方が良いって」

「……くれ」

「はい、どーぞ!」

気が付いたら、ボトルの中身を飲み干していた。
知らない奴から渡された飲み物なんて普段は口にしないが、なんだか今は無性に喉が渇いていたんだ。

「良い飲みっぷり!やっぱ喉乾いてたんじゃん」

「……いくら?払う」

「いくらだっけ。忘れたからいいや」

赤坂は本当に気にしていないようで、あっけらかんと笑って立ち上がる。
そのまま、クラスメイトがバスケに興じている様子をじっと観察し始めた。

「……楽しそうだなぁ」

「そう思うなら代わりに混ざってくれば?俺休みたいし」

「別の学校の奴が混ざったらダメだろ!それに、俺バスケ部だからチートになっちゃうもん」

「へぇ……というかお前、授業は?」

「あ!やべ、そうだったわ。休み時間終わっちゃったんだ!」

普通に時間を忘れていたらしい。
赤坂は時計を確認すると、校舎に向かって一目散に駆けていく……というわけでもなく。
急に立ち止まり、振り返って大きく手を振った。

「じゃあね!また来週会おうな~っ!」

「……変な奴」

(初対面の奴にスポドリ譲った挙句、また会おう、とか)




「あ、あいつタオル置いていきやがった」

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