死による救済は許されるか――ペストマスクの診療カルテ

※本作品には以下の内容が含まれます。
・自殺、自殺幇助、希死念慮に関する描写
・精神的苦痛、社会的排除、虐待、依存症の描写
・価値観や倫理観が強く揺さぶられる表現

これらのテーマは、特定の行為を推奨・正当化する目的ではなく、生と死の境界、救済のあり方を問い直すための物語表現として描かれています。

心身の状態によっては負担となる可能性がありますので、ご自身の体調や状況に応じて閲覧をご判断ください。

本作はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは関係ありません。
また、現実の医療・福祉・法制度に関する判断や行動の指針を示すものではありません。

――

午前四時の樹海を吹き抜ける風の中、ペストマスクを被った怪異は、ひきこもりの青年へ語りかける。

「どんな状況も、『根拠なく絶望する脳』に生まれたという前提は覆らない」

そう考え、彼は自殺幇助によって不幸を終わらせてきた。


人手不足の療養病棟で、寂しさを訴える寝たきり患者。

酒に呑まれ、全てを台無しにした画家。
借金で家を追われ、心中を願う母親。

誰にも愛されないまま、死を証明に使おうとした少女。

責任に押し潰され、すべてから遁走した中年男。

死にたい理由も、形も違う。


「心の苦しみは比較できない。『死に値する苦しみである』と当人が感じれば、それは等価だ」

彼が差し出すのは、一本のメス。

触れれば願いは叶い、代わりに『死の想い』は次の誰かを救う。

終わらない救済の循環――のはずだった。


しかし、同じく救済を願う魔法具屋ミミコッテは告げる。

「自死の間際、人は視野が極端に狭くなることがある。今のあなたのやり方では、『救えたかもしれない人』が混ざってしまう」


これは、救いたいと願うほどに救いから遠ざかっていく者の、孤独な問答の記録である。
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